第参弐話 Missing
「遅い!遅すぎる!!」
遅くとも1時間以内には戻ってくると思っていたのだが、2人は3時間経っても追いついてこなかった。
「迷うような分岐はないのですがねえ。」
浩二も困っている。一番急いで欲しいのは浩二なのだ。
「先ほどの『番外』の人達がお2人を連れ去った可能性はありませんか?」
「いざとなればあの2人の方が俺より強い。小杖の能力を使えば、逃げる事も簡単だ。何より、強引に2人を連れ去るつもりなら、45番札所で会った時にやれたはずだ。」
「では、どうします?引き返してみますか?私だけが先行して、坊ちゃんと合流する手もありますが。」
「もし、あの2人が道草を食っているだけなら、いずれ追いついてくるだろう。しかし、何かあったのなら、今から戻っても合流できるとは思えない。まずは、陣たちとの合流を目指そう。2人を捜索するのなら、大人数の方がいい。」
「わかりました。では、急ぎましょう。」
とにかく今は、陣と合流したい。
「どういうことだ。」
番外の男が声を上げる。
「何があったのですか?」
「2人とも消えた。森に入ったのかも知れない。」
「森に?だとすると、完全に裏をかかれましたね。」
「まあな。森に入るなら少年の方だと思い込んでいたからな。だから、彼女たちの方に鳥を使ったんだから。」
「とんびで追えますか?」
「入った方向を見ていたのなら追えたかもな。」
「ダメじゃないですか。」
男は少しムッとして、
「上空から広範囲を見張ってる。木々の切れ目に現れるのを待つ。」
「お任せします。」
少し空気がピリついたのだった。
浩二が案内するつもりだったのは、赤僧ヶ池への最短ルートだった。しかし、事情が変わり、できれば陣たちと先に合流する必要が出てきたので、まずは、天土街道に出ることにした。
街道からトロメキの里に向かいつつ、途中で出会う通行人に、陣たちを見かけたらトロメキへ急ぐよう、言伝を頼むつもりだ。
ただ、浩二は一般人なので、走るといってもジョギング程度の速度しか出ない。そこで、俺が全力で先行し、浩二は福子達が追いかけて来ている場合に備えてゆっくりと進み、合流したら赤い狼煙を上げて知らせて貰う事にした。
天土街道までの道は教えて貰ったのだが、裏道だけあって通行人には一人も出会わない。街道に出るまでに迷ってしまったら、浩二と別れたのは最悪の選択ミスになってしまう。
俺の能力を最大限に活かすには森の中を突っ切るべきなのだが、迷うリスクが高まる為にやめておいたのだった。
念のため、フィトンチッドの能力を使い、2人の声も探しているのだが、いかんせん宿から先の林は、杉や檜の植林となっており、葉の細い針葉樹ばかりなので、音声の伝達がうまくいかない。
『小杖がいてくれたら簡単に見つけられたのに』
などと、本末転倒な事が頭を過ぎる。
万が一、二手に分かれた選択が元で、致命的な結末を迎えたら、福子の能力であの場面まで戻ることになるのだろう。だが、福子のタイムリープは福子が死ぬことが発動条件だ。俺はこれ以上、あいつの闇が濃くなるのを見ていられない。
あいつとは子供の頃からの付き合いだが、過去に何度と無く、突然冷めたような目つきになる所を見ている。あいつの天真爛漫は、持って生まれたものであるのは間違いないのだが、恐らくはタイムリープした後も、選択肢を間違え続け、同じ時間を一人きりで何度も繰り返した経験があるのではないだろうか。その結果、福子の精神時間だけが何十年。下手をすると何百年と流れてしまったのではないかと危惧しているのだ。
人間の精神はそんなに長い時間、生き続けることが可能なのだろうか?
いやそれよりも、あいつはタイムリープによって無かったことにされた時間に孤独を感じてはいないだろうか?
これらを突き詰めると、『第2問題:福子の精神にはどのくらいの時間が残されているのか?』に集約されるのであった。俺の希望を押し潰すように。
だから、俺は例え最善の選択肢を逃したとしても、次の選択肢で挽回する。何度間違えようとも。俺にとって最悪の選択肢は、福子が能力を使う事なのだから。




