第弐参話 Professor
祭りが終わって、町の人たちは三々五々に帰っていく。
祭壇と宴席が片付けられた後、俺、小杖、福子、陣、司、そして浩二の6人が広場に残っている。
広場の真ん中には墓のような盛り土が1つ。その傍にイチイの幼木が育っていた。
「さて、これからお前達はどうするんだ。」
陣が問う。
「俺たちは巡礼を続けようと思う。」
俺が答える。
「そうか。この近辺には2つの札所があるんだ。一つは町外れだが、もう一つはかなり山深い場所にある。浩二に案内させるから着いていってくれ。その次は南だが、しばらく、大きな町は無いぞ。宿もほとんどないから気をつけろよ。」
「ああ、ありがとう。だが、案内は不要だ。一応、自力で探すのがルールだし、小杖の探知結界なら方角で迷うことも無いだろう。それと、次に向かうのは北だ。」
と答える。陣は驚いている。
「『順打ち』するつもりか?いくら3人とは言え、無茶だろう。」
巡礼は、まず守護石を持つ者たちが、守護数と同じ番号の札所に辿り付き、法力を授かる事から始まる。
札所は1番から時計回りに、四十万を1周するように存在する。遍路はその全てを回った後で、守護石が示す場所を目指し、その場所で他の遍路と戦って、最後まで勝ち残った一組に大結界を修復する力が与えられるという事になっている。最後の場所には、先にたどり着いた者が圧倒的に有利になる何かがあるそうだ。
時計回りで札所を巡るのを『順打ち』、反対周りを『逆打ち』と言うが、順打ちだと自分よりも守護数の高い相手のいる方に向かうことになるので、普通は逆打ちがセオリーとされている。
守護数1の場合でも、守護数2以上に勝つよりは、圧倒的な探知結界の差を使って80番台に出会わないようにする方が簡単なのである。
ただ、この『逆打ち』に俺は引っかかるものを感じている。北半球では、右回りの転向力が働いているので、恐らく、気の流れも右周りなのだ。そこを、遍路が左回りに回れば、気の流れが乱されはしないだろうか。まして、戦いながらとなるとなおさらだ。
小杖も『巡礼には大きな嘘が隠されている』と言っていた。なんらかの悪意を持って、間違ったほうへ誘導されている可能性は充分にあると思う。
それと、もう一つ、順打ちをする理由があった。
「『衛門家』を知っているか?」
陣にたずねる。
「っ!!!。まあな。しかし、あそこは88家の中でも異端中の異端だぞ。」
「だからこそ聞きたいことがある。」
「なるほどな。それで北の天山を目指すのか。わかった、紹介状を用意する。だが、気をつけろ。あいつらは何を考えているのかわからんからな。」
6名が町に戻っていく。
それを広場の隅から見ている男が2人。なぜか、誰も2人の存在に気付かないようだ。
ニタニタと小さい方の男が笑いながら話している。
「私はちゃんと、『コピペ』と言ってあげたんですよ。『コピー』&ペーストであると。」
もう一人の男は黙っている。
「『翔太のイグジストが消える事で、サルの中の理恵のコピーが消滅し、理恵のオリジナルが復活するが、あいつらがイグジストを消してしまう。』まさに、仰るとおりでした。学派の教授様ともなると流石ですねえ。」
気色の悪い抑揚をつけ、背の高い男を持ち上げる。
「全て『アカシックレコード』に刻まれているだけだ。」
『教授』は小男を意に介していない様子。
「しかし、あの少年の行動は全てを『記録』されていなかった可能性がある。」
「あいつが『超越者』であるとお考えで!?」
「あくまで、可能性だがな。」
「なら、さっさと始末しないと、『学派』の存続に関わってくるではないですか!」
「だから、お前は入会を認められないのだ。学派など『定理』の前では仮説に過ぎぬ。
あの少年が仮説を偽と証明するなら、それが『定理』となるのだ。」
「我々が間違っているとお認めになるのですか?」
「『証明』こそが全てだ。誰が成すかは関係ない。」
『教授』は、小男が苦虫を噛み潰したような顔をしているのに、見ようともしない。会話こそすれ、相手にもしていないのだろう。
「お前は、彼の監視を続けろ。余計な手出しはするな。いずれ、彼とは話をしてみたい。」
そう告げると『教授』は森に消えていく。
「わかりました。その代わり、私の『推薦』の件は、お願いしますよ。」
小男はニヤニヤ笑いを作り直して答える。そして、ボソッとつぶやく。
「証明など、力ずくで成せばよいのですよ。」
口元は笑っているが、目は『教授』の去ったほうを睨み付けるのであった。




