第弐話 1st hit
俺たちは『遍路』と呼ばれる存在だ。この国を覆う『大結界』が力を失い始めると集められ、『巡礼』と呼ばれる旅をする。巡礼自体が結界を張るための儀式になっているらしく、『完遂者』が出れば大結界は本来の力を取り戻すということになっている。
完遂者には一つ法律を作る権利が与えられる。物理的に可能なものなら、なんでも思うままだ。それだけ、この大結界は今のこの国において重要な守りなのだ。
遍路は全員、数字の書かれた石を持っている。石を『守護石』。数を『守護数』と言う。
遍路は『守護結界』と『探知結界』と言う2つの結界によって守られている。
守護結界は体の周囲に常に展開されており、敵の攻撃から自動で身を守ってくれる。守護数が大きいほど強力だ。
探知結界は守護数によって、数mから数十kmの範囲内に発生している、『超常の力』の動きを把握することができる。守護数が小さいほど、探知の範囲は広い。
巡礼では遍路同士が戦うことになるのだが、法力で相手の結界を完全に破壊すると、その守護石も同時に力を失い、遍路としての資格を失う。完遂者になれるのは3人までなので、ライバルを減らす為に戦いを望む遍路は多い。
結界を壊すことが出来るのは超常の力のみ。様々な種類があるが、普通の遍路は大結界の力を借りて発動する『法力』を使うのが一般的だ。結界も法力の一つなので、結界で結界を壊す事ができる。
結界同士をぶつけると、弱いほうが大きく損傷するため、戦いでは守護数の大きいものが有利なのだが、小さい者は結界を操作する能力に長けており、全く敵わないというわけではない。
ただし、結界は単純な物理攻撃には反応しないので、一般人からの攻撃には無力だ。一般人に負ける遍路など普通はいないのだが、不意を突かれたり、大勢から一斉に攻撃されるとあの子の腕みたいな事になってしまう。
巡礼では遍路同士の場合のみ戦うことを許されている。遍路以外の者を攻撃したり、巡礼に利用することは固く禁じられているのだ。
あの大男は手下を使った以上、あの子の口を封じるつもりだったはずだ。今、余裕を見せていると言う事は、後始末をする手下が他にいるのかも。最悪なのはそいつが遍路だった場合だな。
というわけで、いきなり全力でぶつかったらあの子を逃がす前にこっちがやられる恐れがあるし、モタモタしてたら別の奴にあの子がやられるという、なかなかにシビアな戦いだったわけだ。
だが、ようやくこちらの準備も整ったようだ。ここまでの苦戦は、半分はマジだが、残りの半分は作戦だ。そろそろ、本当の攻撃に移ることにしよう。
大男は炎の壁に俺を押し付けるように、金棒の間合いを使ってプレッシャーをかけてくる。逃げ場さえなくして肉弾戦に持ち込めば勝ちだと思っているのだ。
俺はギリギリまで後退しつつ印を結ぶ。もう笹は無いので、奴から丸見えだ。大男はそれを阻止するよう、一気に間合いを詰めて来る。横なぎの一撃を放つつもりなのは明らかだ。
まともにもらえば、一撃でゲームオーバー。だが印はフェイクだ。すぐさま俺は左上腕を斜めに上げて腕に結界を集めつつ、大男へと突進する。
奴も『窮鼠猫を噛む』くらいは知っているのだろう。すぐに横なぎの一撃が飛んでくるが、クリーンヒットには間合いが近過ぎる。俺は左腕の結界の盾で、金棒を斜め上に浅く受け流す。火花を散らすように、金棒は結界を擦りながら俺の頭上を超える。ダメージはほとんどない。
大男は続けざまに上段からの一撃を狙うようだ。しかし、その隙を突く俺の動きは予想外だったようだ。
バキーーーーン!
プラスチック板が割れるような音が響く。
俺は金棒を逸らしざま、これまでで最速の動きで大男に『まっすぐつっこんで、ただの右ストレート』を打ち込んだ。
こぶしは結界に阻まれたが、結界もただではすまなかったようだ。虹色に光るガラスの破片のようなものが飛び散って消えていった。




