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福見福子の最終定理 第1章 始まりの仮説  作者: 黙定六
始まりの仮説
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第壱話 Da Capo

パーーーーーーーーーン!!


 全速力で走る俺たちの前方の森から銃声が聞こえた。


「当たったぞ!力が落ちてる!」


「やばいね。間に合うかな。」


「間に合わせる!!」


 そう相棒に応えながら森に突っ込む。俺は木々の力を借りてもう一段加速する。木々は通り道を開けるように左右へと傾いだ。俺の属性は『木』なのだ。


 「先に行くぞ!!」


 木属性は俺だけだ。森では移動速度に格段の差がつく事になるので俺が先行する。時間の猶予がなさそうなのもあるが、あいつを戦わせる気もないのだ。


 本来なら苦労して少しづつ進むはずの未開発の原生林だが、俺にとっては陸上競技のトラックよりも走りやすいし、森の中だと持久力も格段に上がる。木属性にとって森の空気は万能薬なのだ。


 猛スピードで走っていると、急に森が切れ笹原が広がる。その先に金棒のようなものを持った大男と、猟銃や刀を構えた男たち。そいつらに取り囲まれる少女が見えた。


『まだ、破られてはいないな。だが、なんだあの怪我は。』


 少女は右腕から夥しい血を流していた。『遍路(へんろ)』の戦いで出血は稀だ。つまり、部外者が関わっている事を表している。遍路ではない取り巻きたちが攻撃したのだろう。


「こっちだ!!」


 少し離れた位置から、大声で叫ぶと同時に印を結ぶ。すると、男たちの周囲の笹が伸び、蛇のように絡み付いて次々に拘束していった。まずは銃を持った奴。刀を持った奴は抵抗していたが、無駄な足掻きだ。笹は無数にある。むしろ、同士討ちによる鮮血で一部の笹を赤く染めただけだった。


 大男はというと、周囲を虹色の光に守られている。それも、俺のとは明らかに厚みが違い、かなり頑丈そうな結界だ。守護数がかなり大きいのだろう。笹での拘束は全く効果がなかった。


 「なんのようだ!」


 大男が凄む。


 「その子を殺されると困るんだよな。部外者を介入させてるのも見逃すわけにはいかない。」


 「それで正義の味方を気取って、のこのこ現れたわけか。だが、運が悪かったな!」


 お供は全員拘束されてるのに、随分と余裕があるじゃないか。まあ、あの結界を見れば自惚れるのも仕方がないかもな。


 「その娘は手下にやらせたのか?随分とセコい真似をしてるじゃないか。その図体は見掛け倒しなんだろ!!」


と、挑発しつつ、少し長めの印を結ぶ。


 「では、吠え面かかせてやろう!!」


 大男はゆっくりとこちらに歩いてくる。かなりヤバイな。こりゃ。

 奴は印を結んだりはしない。おそらく、あの金棒で力任せに結界をぶった叩いて来るつもりだろう。守護数がデカい奴の典型的な戦い方だ、それに引き換え、俺の守護数は中途半端なんだよな。力勝負で勝てる見込みは全くない。


 金棒の射程まであと1m。ここで、もう一度、さっきの笹で拘束を試みる。


 「そんなもんが効くか!!」


またも、笹たちは結界に遮られる。しかし、今度は結界ごと全てを包み込む量だ。


 「小賢しい!!」


 金棒でなぎ払われるも、笹は次々と伸びて行く。奴を覆う笹が多ければ多いほど、振り払われる量も多くなる。根こそぎ笹が吹き飛ばされ、次第に奴の周囲の地面がむき出しになっていった。


 「お前の力も相当セコいな。もうおしまいか。」


奴は最後の一振りであらかたの笹を払い飛ばすと、俺との間合いを一気に詰めて来た。


 俺を金棒の射程に捉えた瞬間、横なぎの一撃が飛んでくる。


バシャーン!!


 しかし、俺はその場を動くことなく一つだけ印を結ぶ。金棒の一撃は突如地面から伸びてきた無数の笹筍(ささたけのこ)に阻まれた。筍は地面から出た瞬間に硬化している上、弾性にも優れている。奴の馬鹿力でも折れることはない。


 「ならこれでどうだ!!」


 というと、奴の金棒が赤く光り始める。おいおい火属性かよ。木属性の俺にはかなり分が悪い相手だ。好き勝手に動かれると厄介だ。


ガスッ!!


 今度は直接、奴に向かって筍が高速で飛び出す。槍のような一撃だが、結界に阻まれてしまう。

 しかし、こちらも手を緩めず、今度は何本もの筍が断続的に奴を襲った。


 さすがの手数に、奴も防御を結界任せにするのはやめたようだ。いくら強固な結界でも、削られ続ければいずれ限界に達する。

 ジリジリと後退しつつ、突出してきた筍を金棒でなぎ払う。どうやら森の方へと向かっているようだ。笹原が切れれば、筍も出せないと踏んでいるのだろう。残念ながらその通り。

 森に入られたら、普通は木属性の俺が有利だが、奴の火属性で一帯を焼き払われたら一貫の終わり。そして、そのくらいの火力は出しそうだ。


 森まであと少しという所で、せめてもの抵抗だ。奴の足元の笹を印で操作して結ぶ。足を引っ掛ける単純な罠だが、あまりこういう戦いには慣れていないのだろう、あっさりと仰向けに転ぶ大男。

 その背中を何度も何度も、竹槍ならぬ筍の槍が突き上げる。さながら胴上げみたいだ。


 それでも奴の分厚い結界は動じない。しかし、それも想定内だ。ありったけの法力を、奴の背後に立っていた楠の大木に注ぐ。葉がほとんど枯れている。楠は常緑樹なので、この木は枯死しているのだ。

 巨大な枯木がゆっくりと奴の上に倒れ始める。樹齢数百年、樹高は20mに及びそうな巨木に上を押さえつけられて、下から突かれ続ければ、さすがの結界も持たないはずだ。

 もちろん、こっちに誘導するように筍を操作していたわけだ。こういう器用な真似は守護数が少ない方がやりやすい。


 だが、大楠が倒れきる直前、猛烈な勢いで炎が上がり、奴の周囲だけが一瞬で消し炭になってしまった。おれの属性が土だったら、岩を落としてやったんだがなあ。


「今度こそ、おしまいだろ?お前は念入りにオーバーキルしてやる。」


 そういうと、奴の周囲の笹原も燃え上がった。炎は次々と燃え広がり、あっという間に火に取り囲まれる。俺は咄嗟に周囲の笹を遠ざけ、なんとか安全地帯を作ったが、そこに悠々と大男が入ってくる。


 とりあえず、あの女の子が逃げるだけの時間は稼いだし、取り巻きの連中の拘束も解いてやる。あとはこいつをなんとかするだけ。でもどうやって?

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