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福見福子の最終定理 第1章 始まりの仮説  作者: 黙定六
始まりの仮説
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第拾話 Lag

 福子は宿に残してきた。3人ともいなくなれば、探知結界が使える相手なら誰でも気付くからだ。能力の強さにもよるが、一箇所に何人の能力者がいるのかを探知結界で正確に見極めるのはかなり難しいので、一人残しておけば気付かれにくい。


 あらかじめ森の中に作っておいた小道を俺と小杖が走る。今の俺は、植物を操作する能力をほとんど失っているので、そうなる前に森を操作しておいたのだ。

 小杖の能力は『ズレ』を生み出す能力らしい。詳しい説明を受ける時間はなかったので、とりあえず、小杖の思うままに任せたのだ。


 浩二たちの位置も、今は知る術がないので、なるべく早く陣と合流したい。


「陣は君を殺そうとした奴だが、そいつを助けてもいいんだな。」


「ええ。それに彼は私を殺そうとしたわけじゃない。結果的に死んでもいいとは思っていたようだけど。」


「そんな奴、見捨てようとは思わないのか?」


「どんな奴でも、『八十八石』は必要なの。」


『八十八石』とは、その数から見て遍路の事だと思うが、俺はその呼び方を知らない。


「遍路は一人も死んじゃいけないって事か?」


「ええ。そう。『巡礼』には大きな嘘が隠されている。正しく『大結界』を構築する為には、88人が揃っている必要があるの。」


「『浩二』たちが君を殺そうとしているのも、それに関係しているのか?」


「『半分』はそうね・・・」


 事情がありそうだ。今、無理に訊き出すこともない。


 森を抜けて、陣家の裏手に出てきた。陣家の使用人たちが作業をしていたが、誰も俺たちに気付かない。小杖の能力で、俺たちの『存在』をズラしているためだろう。ズカズカと土足で屋敷の中に入っていく。


「坊ちゃん。ただいま戻りました!」


 浩二の声だ。ギリギリ間に合ったな。


「坊ちゃんはやめろと言っただろ!!」


 陣の声が奥から響く。すると浩二達から、今の俺でも充分に分かるほどの、妖しい気配が漂い始めた。陣の結界が叩き割られた時に感じたのと同種の奴だ。

 陣の声がした方に急ぐ。すると、浩二達も走り出した。俺たちに気付いたのだろうか。もう時間が無い。


「戻すよ!」


 小杖の声が響き、俺は後ろから突き飛ばされる。打ち合わせをしていたわけではないが、この勢いを利用して一気に加速し、結界を展開しながら襖を突き破る。

 驚く陣と、刀を突き出して陣に突進する翔太らしき若い男の間に入ることができた。


 結界が刀を弾く。やはり、超常の能力者だ。


 同時に小杖が陣を突き飛ばす。陣の存在感が薄れる。『存在』をズラしたのだ。そのまま家から連れ出し、森に避難させる。


「お前、どうやって!」


 声を上げる浩二を背に、屋敷から飛び出す。あそこで戦闘になれば、一般人を巻き込む事は必至だ。

 同時に、近くの木々にコピーしておいた音声を、葉の大きな柏の木を使って再生する。


『馬鹿息子を人質に取る・・・』


 先ほどの浩二たちのやり取りを、柏の木が語り始める。今、小杖たちがどこにいるのか、俺にもわからないが、あの木の場所は伝えてある。陣も聞いたはずだ。事情が分かれば大人しく隠れていてくれるだろう。


 俺は元来た方向に走り、森へ飛び込んだ。翔太がついて来ようとするのを浩二が制し、なにやらモゾモゾ聴いたことの無い言語を口走ったと思うと、俺の周囲の草木が猛烈な勢いで枯れ始めた。

 木々はまだ立っているものの、枝葉や下草は枯れてなくなり、一気に視界が開けた。走りやすくはなったが、隠れるところは少ない。木の陰に隠れても、枯死して脆くなっているはずなので、銃弾も貫通しそうだ。


 随分と相性の悪い能力があったものだ。俺の木属性攻撃は、ことごとく枯らされてしまうだろう。もう一人の能力も分かっていないし、そもそも2対1だ。陣を救えても、俺がやられたら、浩二たちのゲットするポイントに変わりはないのだろう。それは非常に腹が立つ。何がなんでも負けるわけにはいかない。


「逃げても無駄だ!俺の能力は『死』。この能力を開放した以上、お前を殺すまで被害は広がり続ける。大人しく出て来い。関係ない奴らを巻き込みたいのか?」


 浩二の声が響く。しかし、これはハッタリだ。もし、そうなら俺の結界が反応したはず。それに、近くの虫や鳥は生きている。影響を受けたのは植物だけだ。

 恐らく、浩二の能力は『腐食』だ。土から能力を流し込み、植物を根から腐らせるのではないだろうか。まあ、俺が苦手な能力なことに変わりはないが。


「なかなか大層な力じゃないか。こんな力を持っているのなら、なぜ、陣や女の子を殺す為に使わなかった?いろいろと工作にも時間がかかっただろうが?」


「答えると思うか?この会話も記録してるんだろ?」


 さっき、陣に聴かせるために、能力を披露してしまったからなあ。


「お前の死はもう決まっている。あとは、どれだけ多くの命を巻き込むかだけだ。たとえ、この街の住人全てが死んだとしても、悪いのは俺じゃない。お前が決めた事だ。全ての責を負って地獄へ行け。」


 随分と都合のいい屁理屈だ。自分の悪行を人のせいにした上で、人のせいにした事まで人のせいにする。自分に都合のいい嘘をついて、自分が喜んで騙されるタイプだな。


 翔太が俺を追って、枯れた森に入ってくる。今は猟銃を構えている。翔太から妙な気配は出ていない。さっき、陣を刀で襲ったときはなんらかの能力を使っていたが、能力を開放しない状態で撃てば、遍路の結界に邪魔されないからだろう。

 こいつらは、能力者と非能力者、2つのモードを使い分けることがわかる。普通の遍路にはできない芸当だ。


 俺は突如、浩二たちから逃げるように、猛然と走り出した。翔太が後を追ってくる。浩二は一旦森から出たようだ。探知結界で非能力者モードの翔太は捉えられないが、能力者モードの浩二の位置は掴める。恐らく、あいつらも同じなのだろう。


 俺は道から離れるように、森の奥へと走っていく。浩二に先回りされない為だ。翔太が追ってくるが、様子がおかしい。追いつく気がないみたいだ。むしろ、俺がどこかへ追い込まれているような気がする。


 そして、その予想が当たっていることが分かるのに、たいした時間はかからなかった。


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