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第6話 渇きに雨を

 真っ白だった。すべての思考が、感情が、あまりにも強い白い光にかき消されて、何も見えなくなった。脳が、体が、私のすべてが目の前の現状を理解することを拒んでいた。震える唇がかすかに開いて、


「わたしの、せいだ。」


 誰にも聞こえない声が風にさらわれていった。


 わかっている。こうやって呆然としている間にもゴーレムは迫ってきている。このまま動かなければ私も同じように死んでしまう。だけれど思考が、後悔が、加速していく。どうすればよかった。あの鉄柵を武器にしたのが間違いだった?単純に体当たりでもしてひるませて逃げればよかった?それともそもそも私は足手まといにしかなれなくて、最初から逃げていればよかったのだろうか。


「いけ、に……げろ。」


 肺がうまく機能していないのがありありとわかるような狭い声。そのゆっくりとした口調は、皮肉なことに英語の聞き取りを簡単にしていて。彼がただ、私のことを心配していることが分かった。――おいて、いけない。


 そう思った私の手を、誰かがつかんだ。そうしてそのまま後ろに強く引かれる。気づけば逃げていた人たちが数人戻ってきて、最初に吹き飛ばされた彼と私を抱えてまた逃げ出そうとしていた。私はその手から外れようともがくが、離してくれない。叫んでも叫んでも、私の言葉が届くことはなかった。きっと彼らも私が何を言いたいのか察したうえで、それでも私を助けようとしてくれたのだろう。抱えあげられた状態で、目線が後ろに向く。そこには苦痛に歪んだ顔で私に微笑みかける男がいた。


 ・  ・ ・


 ばたんと音を鳴らしてゲートが閉まる。それは劇場のゲート。チケット確認のための受付の隣にあるそれはガラス張りでなんとも心もとないが、ないよりはましである。ここに来るまでにも公園内部に鉄柵のゲートがあって、半ば崩壊しかけているそれを閉じてきた。これもどこまで機能するかわからない。


 劇場の内部には、人が集まってそれぞれの不安を口々に話し合っていた。なかでもヒートアップして喧嘩寸前になっているのが、先ほど外の様子を見に行った人たちと、その説明を聞いている人たち。内容はおそらくあのゴーレムのことを話しているのだろう。そしてそれを聞いてる側からしたら、土人形が動き出したなんて信じられるはずもない。だけど彼らが信じようと信じなかろうと、すでに被害者が出ている。何の対策もしないでここに閉じこもっているだけで事態が好転するとは、どうしても思えなかった。


 だから私は行動を開始する。正直混乱は収まらないし、さっきあの男を貫いた鉄柵と血液はいまだに脳裏にこびりついて離れない。だけど。だからこそ、私はこれ以上の被害が出るのを見たくない。さっきゴーレムは確かに私の狙い通り沈黙した。そしてそのあと崩れ去った土の山に、血液とは違う赤色が垣間見えた。あれはたぶん、魔石だ。それはあのゴーレムが胸部中心の魔石――コアによって動いていたということを意味していて、つまりあれがエリクシア――ゲームの中の幻生生物である可能性が高いということ。そもそも私のあのとっさの行動は、エリクシアの公式ファンブックをもとにした攻略だったのだ。


 そしてこれだけの大規模な破壊が起きて、出てくるのがあのゴーレムだけというのはどうも納得できない。だったら、あるんじゃないだろうか。私が――私たちがゲームの中で何度も何度も錬金釜に放り込んだ、あのエリクシア世界の錬金素材たちが、この現実世界に。


 エリクシアシリーズはとても古いゲームだ。最初期の無印はグラフィックなんてかくかくで、ポリゴンの境目みたいなのが普通に分かってしまう。もちろん世代を経るごとにそれは改善されていくのだが、私の見た限り、初代のエリクシア無印の描写が一番リアルだった。粗いポリゴンでなぜリアルなのかというと、私がゲーム内のアイテム欄や採取ポイントの描写ではなく公式ファンブックの絵を参考にしているから。エリクシアⅡ以降のゲームは時代的にだんだんとグラフィックへのこだわりが強くなり、やや過剰にファンタジーな素材のテクスチャが使われることが増えていったように思う。だからなんだと思うかもしれないが、もしもあの素材たちが現実世界に出現するのだとしたら、エリクシア無印時代の絵と似たような形になりそうだ、と思ったのだ。もちろん根拠などない。そしてその素材が本当に存在する確証もない。それでも私は記憶の奥底からファンブックの画像を引っ張り出してきて、その辺の地面とにらめっこを始めた。そしてそれはほどなくして、拍子抜けするほど簡単に見つかった。


「アメハナクサ……。」


 この劇場内から出て、ゴーレムのうろつく外、もしくはその先まで探索することを覚悟していただけに、それはとても幸運だった。


 大きな二枚の葉を器用におわん型に合わせて広げる植物。ところどころ赤くなった葉の特徴的なマーブル模様も記憶と一致する。アメハナクサ。これは降った雨水を自身のおわん型の葉で集め、それを乾燥した時期に再利用するという設定の植物。ゲーム内でポーションの基礎素材としてよく使われる植物の一つだった。素材としての使用可能部分は根と葉。今回はこの葉っぱの方に用がある。だけどもちろん、これ一つでポーションを完成させることはできない。だけどこの一つ目が見つかったことに意味がある。私の考えは間違っていなかった。この世界はすでに私の知る元の世界とは違う。エリクシアシリーズの――ゲームの世界だ。

[アメハナクサ]

広げたおわん状の葉に雨水をため込み、それを乾季に再利用することで雨季と乾季の切り替わりが激しい地域に適応した幻生生物。なぜこの種がイギリスに出現したのか、そしておわんに貯めてあるだけの水がどうして乾季に蒸発してしまわないのか。それはまだ誰も知らない。特定の条件下で鮮やかな花を咲かせるという情報もある。


[??ポーション]レシピ

・アメハナクサ

・?????ナナフシ

・???トカゲ

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