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第34話 主人公

「ひとまず一日休むことが絶対条件よ。」


 妻の言葉に従い、休息をとる。ふらついた体をベッドに沈めれば、すぐに意識が途切れた。


 翌朝。あとはもう、鉄を打つだけだった。その先に、私の三本目の腕がある。私はどうしても、私という存在がくじけるのが許せない。私という存在が只人であるのを許せない。私は、私の在り方に誇りを持っている。その名前が紳士だろうとヒーローだろうと、ただの愚か者だろうと関係はないのだ。


 槌が鉄を噛んで火花が散る。ただひたすらにそれを繰り返す。まだ終わっていない。折れた信念はそのまま畳んで炉にくべて、叩き直せばいいだけだ。


 盾ができた。鎧ができた。剣ができた。素人の仕事にしては立派なそれらが炉のそばに並び、火の明かりに照らされて黒々と輝いた。


 最後に、槍ができた。シアンに持たせるための武器だ。彼女は頑なに槍を使い続けている。ほかの武器を試そうとしている様子もないので、おそらく何か理由があるのだろう。例えば、自分が最初にゴーレムを相手にしたとき、犠牲を出した後悔を忘れないため、だとか。あの壊れそうなほど責任感の強い性格からしてありそうな話だ。本当に損な性格をしている。まだ彼女は子供なのに、その肩に乗せるにはあまりにも重いものを持って走り続けている。


 鎧を着て、盾を持つ。そして槍と剣を腰のベルトに留めて、公園を出発した。


 間一髪、ドラゴンの牙を受けてシアンを守る。その瞬間に雷撃が奔るのを見て、目の前の相手を理解した。プラズマドラゴン。終盤の強敵だ。だけれどその攻撃をもろに受けてもなお、鉄鋼アリの盾は壊れていない。加えてファンタジー防具の効果なのか、うっそうとした森の中を重装備で進んできたにもかかわらず、疲労が感じられない。確かエリクシアの防具にはステータスを強化する効果がついていたはず。それが反映されているのかもしれなかった。


 これなら戦える。鉄鋼アリはだてに面倒な作業を要求していない。その分、完成した装備には終盤まで使える圧倒的な性能があるのだ。私は思い切り盾を振り上げて、ドラゴンをはじき返した。


 後ろを振り返ってみれば、シアンがいる。彼女が無事であることに安堵しようとして、その右手の欠損に気が付いた。


 間に合わなかったのか。


 慌てて私は自分の表情を管理した。懺悔している暇もなければ、心配している暇もない。


「私が君の腕となろう。まだ動けるか。」


 シアンが力強く頷いた。そうだ。この子は私が心配するほど弱くはない。ならばもう一つ、聞かなければならないことがある。


「シアン、武器が欲しいか。」


 今度は、即答だった。


「欲しい。私はまだあきらめたくないから。」


 ◎


「精霊王は半分和解してる。このドラゴン倒したら森を案内してくれるって。」


「奴にとっては余興というわけか。ずいぶんと堅実な王がいたものだな。」


 ケンジーから槍を受け取って左手に構える。初めて握るはずのそれが、しっかりと手になじんだ。


「さすが。防御は任せてもいい?」


「承った。」


「フリーダ!イチャの実は?」


「もうないよ!私も近接に加わるから……」


「その必要はない。」


 ケンジーがドラゴンの追撃をさばきながら、剣に袋を結び付けたものを、フリーダの方へ投擲する。


「途中で見つけてきた。イチャの実の上位互換だ。」


 パリソタ・バッテリー。地面から伸びる細長い草の中心に赤い実をつくる植物。確かにあれならイチャの実をはるかに超える魔力源になる。


「ナイスケンジー!これならもうちょっと頑張れる!」


 それでもフリーダ自身の集中力が回復するわけではない。何度も魔法を繰り返し放っている現状、全力で打てるのはあと一回くらいだろう。


 でも、これなら勝てる。


「勝算はあるかね。」


 ケンジーの質問に、私はYesと答えた。


 ドラゴンはこのまま物理攻撃をしても埒が明かないとみてか、再び空に飛びあがって電気の蓄積に入っている。


「しかし、この武器は頑丈だが鉄鋼アリ製だ。ドラゴンを相手にするには少し火力が心もとない。」


 これ鉄鋼アリ製なの!?このおじさんあのやばすぎる生産工程現実でやったの!?


 序盤の草むらでレベル100にする縛りを公式が用意しましたみたいな、強すぎる代わりに面倒くさすぎるでおなじみのあれを!?


 思わず右腕の痛みも忘れて驚いてしまった。私のジト目にケンジーは、「今はその話をしている場合ではないだろう。」と言う。躱されてしまった感が否めないが現状が緊迫しているのも事実。


「そうだけど……。まあ、勝機があるのは本当。今って実質エリクシアの主人公が三人もそろってる状態なんだよ。それに加えて壊れない武器が味方するなら、私たちにも勝機がある。」


 エリクシアシリーズの主人公は天才だ。どの分野を選んでも、主人公の立ち位置はその界隈のトップ。それも二位と圧倒的な差をつけた一位。まさに英雄と呼ぶにふさわしい。だけどゲームで主人公は一人だけだ。プレイヤーが選ばなかった職業のアイテムは買って手に入れることができるけど、どれもこれも三流の劣化品だった。私たちがつくっているものは、明らかに効果が強い。


 ドラゴンが咆哮する。その翼を天空に広げ、無数の電極の雨を降らせる。


 その電極を、ケンジーが盾で受け止める。電流は盾を流れて地面に逃げ、赤熱した盾が煌々と輝きを放つ。


「いいだろう。防御はまかせろ。」


 私はリュックからポーションを取り出す。筋力エンチャントポーションだ。コルクのふたを噛んでこじ開け、そのまま傾けて左手に流していく。


 迷っていた。これを足に使ってここから逃げ出す選択もまだあったから。その選択肢を、今捨てた。


 結論は出た。私たちは、このドラゴンを狩る。

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