第0話 とある事象における死者数の推定
あなたが今小説を読もうとして触れたリンクは、核爆弾の起爆スイッチでした。
例えばWeb小説を読もうとしてこんなテキストを見せられたとする。そしてそこに書いてあった通りに爆発が起きてキノコ雲が上がったのならば、その時のあなたの気持ちがそっくりそのまま、今の私の気持ちと同じだと思ってもらっていい。
私に届いたスイッチは、メールの姿をしていた。そして赤い風が吹いた。爆風という意味ではない。核爆弾はあくまでたとえ話。赤い風としか表現しようのない何かが、この世界を丸ごと壊して傷つけて、吹き抜けていったのだ。
「フェルミ推定、って知ってるかい。」
知らない。知りたくなかった。
嫌に決まっている。今から聞く話は、私にとっての核爆弾が――赤い風が、どれほどの命を奪ったのかという話なのだから。
「まあ要するに数あてゲームだ。少ない情報で物事の大雑把な数を予想する。例えばそうだな。君のいた地域に庭付きの家は何件あるか?と聞かれたとしよう。これを人口――この場合五万人くらいだったか――などから逆算して考えてみる。詳細は割愛するけど、答えはだいたい3千件ってところかな。細かいことを話していたらきりがないけれど、とにかく大体の数を予測するだけなら適当でいい。」
私のせいじゃない。
私は悪くない。
「今回の件で、ビルだとか大きな建物がもっとも甚大な被害を受けたね。」
知っている。
......あの所在無げな鉄骨を、文明の崩れる音を、私は知っている。
「あの時日本は深夜だ。家にいた人は多いだろう。庭付きの一軒家に住んでいるならいいけれど、アパートや集合住宅は、……まあ、酷いことになっただろうね。」
無事なわけがない。わかっている。
今すぐにでも耳をふさいでしまいたいのを、私はこらえている。
「一軒家が平均して5人、人を住まわせているなら、3千件で1.5万人。裏を返せば総人口の残りである3.5万人はもろに被害を受けたことになる。」
......。
「死んだのがその半分だとしても、1.7万人。あの現象の直後だけで犠牲になった。」
............。
「都市部ならもっとひどかっただろうね。でもそこで死んだ人たちは飢えに苦しまなくて済む。この流通の麻痺した状況で、日本の食料自給率は致命的だから。」
「人類の総人口が80億だとしよう。決してほかの国だって無事じゃない。同じくらいの死者は出てるはずだ。全人口の三分の一だから、単純計算世界全体での死者数はだいたい27億人。」
私の、
......せいじゃ
「君のせいとは言わない。私は言わないが、でも君自身が納得できないんだろう?私に一つ、いい案がある。」
彼女は私の目を見て、その言葉を言い放った。
「失われた命は戻らなくても、今ある命を守ることならできる。だから探すんだ。――エリクシア。不死の霊薬のつくりかたを。」
こうして、私の命がけのゲーム攻略が始まった。




