化け物は普通の人には触れない
「ここは…?」
光から抜けた先は木々に囲まれた開けた花畑でした。一面に美しい青の花が広がった空気の澄んだ心地よい場所です。
「この青い花は魔色草ていってな、魔力に触れると色が変わんだ。王族の特殊能力は魔力から来ているから俺がここに触れば色が変わる。」
この世界では限られた魔術師以外、体内に魔力を持ちません。その為一般人が魔術を使う際は魔力のこもったポーションなどを用いる必要があります。
そして殿下がそっと花を愛でるように撫でると、途端に一面青で満たされていた花畑がスミレ色へと変化しました。
少し言葉を失っていると殿下が自慢げに口を開きます。
「綺麗だろ?ここの花畑は人も来ねえし気に入ってんだ。色が変化したあとの淡紫色がお前の瞳に似てて連れてきてぇなって思ってた。」
「…私口説かれてますか?」
あまりにも私を口説くような台詞にしか聞こえない為思わず殿下に聞いてしまうと殿下は一瞬理解できないと言った顔をした直後一気に顔を赤らめ焦りだしました。
「は?あ、いやそういうことじゃ…!」
必死に弁解をしようとするも焦りで言葉がうまく紡げずアワアワとしかできない殿下が可愛らしく思えてきます。
「冗談ですよ。」
「あ、冗談か…」
「まあ、台詞は口説いてるようにしか聞こえませんでしたが。」
一言付け加えると殿下はまた顔をボンッと赤らめてゴニョゴニョと弁明のようなことをしていたのでクスリと笑ってしまいました。
「と、とにかく!この花畑をお前に見せたかったんだよ!」
「…ありがとうございます。」
照れながら言う様が可愛らしくて頬が緩んでしまいます。
しばらく静かに隣り合って二人で花畑に見惚れていると殿下が思い出したように急いで動き出し、ポケットから小さな袋を取り出して私に手渡しました。
「これ、も渡したくて…」
「これは何でしょうか?」
「簪だ。こういうの好きだろ?」
手渡された袋を開けるとガラス細工の紫陽花の簪が中から見つかります。
私はこういうのが好きだと殿下は言いますがそうなのでしょうか。確かに光に当てると反射してとても綺麗だとは思います。私が簪を太陽に掲げて見ていると、殿下は少し笑って口を開きます。
「こういうキラキラした物を見ると凄い楽しそうな顔するよな。」
「…そうですか?」
全く自覚がなく思わず口角に手を当てみますがよくわかりません。ですが確かに殿下の言うとおりキラキラするものは見ていて飽きないし、つい目が惹かれてしまいます。
私は多少の嗜好はあれど、特にアレが好きなどは今までないと思っていました。けれど言われて初めて気づく事もあるようですね。
これが好きというものなんだと理解すると途端に私の好きなものが分かるようになりました。
私は殿下が無自覚で照れくさい台詞を言って後で真っ赤になるのとか、殿下が面白いものを私にも嬉しそうに共有する顔とかそんな殿下が好きなようです。
距離感を気にしながら一度懐に入れた人へのパーソナルスペースは狭いし、チョロいところも好ましいと思っています。
私の好きなものを挙げていると大体殿下のことばかりで、もしかしたら私は殿下のことが好きだったのかもしれません。
「殿下は私のことが好きですか?」
私が質問を投げかけると殿下は少し驚きつつも平然と返しました。
「当然だろ?」
「そうですか、私も殿下のことが好きです」
私は殿下の艶のある髪をそっと撫でます。私の好意と殿下の好意が違うことは何となく理解していますが殿下から私のことが好きだと言われただけで何故か心がふわふわと浮かぶようです。
今まで私はこんなに心が変化することはなかったのですが、殿下がずっと私の傍にいてくれればずっと心地よいままなのでしょうか。
その後暖かな陽射しに照らされて私達はしばらく眠ってしまいました。
目を覚ました頃には少し日が沈んでおり、肌寒くなってしまっていた為この日は家まで帰していただき解散となりました。
丁度殿下が私の部屋からテレポートした時ノックが聞こえたので私は返事をします。
「どうぞ」
「ご、ご夕食の時間です…旦那様が食堂でお待ちです。」
いつものように怯えを滲ませる使用人に連れられて食堂へと向かいます。道中ふと考えてしまうことがありました。
お父様はよく私に宝石類をプレゼントしてくださりますので、もしかしたら殿下のように私がキラキラとしたものを好む為贈ってくださっていたのかと喜びが胸に走ります。
食卓につくと笑顔でお父様が迎えてくださいます。
「お父様こんばんは」
「こんばんは。最近仕事が立て込んでいて君との時間が取れなくてごめんね」
「いえ、お父様の業務が大変なのは理解していますから。」
しばらく会話を続けながら食事を進めていましたが、私は気になっていた話題を切り出しました。
「お父様。お父様はよく宝石類をプレゼントしてくださいますがそれは何故ですか?」
やっぱり私がそういう物を興味深く、好ましく思っているのに気付いて贈っていてくださっていたのでしょうか。
「ああ、それは君に宝石を贈ると君がこんな高いものを…なんて困った顔をするだろう?それを見るのが好きなんだ。」
それを言われた途端理解しました。
別にお父様は私がキラキラするものが好きだから贈ってくださるわけではないと。
よく豪華絢爛を表現する小説の描写に宝石が多数登場することがありますが、あれば宝石が高価だからふんだんに使われていると豪華を表せることを今知りました。
その話を聞いて早々に食事を終え、自室に戻ります。
そしてベットに入り今日殿下から頂いた簪を片手に握りしめ就寝しました。
そしてその日、私は夢を見ました。
私が今まで小説や図鑑などで読んだ美しい景色の中を殿下を案内する夢です。海辺や湖のほとりなどを私が殿下を連れて出かけるのです。
夢から覚めると温かい気持ちになっていました。私も殿下を待つだけではなく、殿下の手を引いていけたならという妄想にしばらく浸って、気づくのです。
私にとってそれはやはり夢に過ぎないと。
私は化け物だから普通の人である殿下とは何もかも違って、化け物だから外に出てはいけない。それは理解していたはずなのに殿下といると私は普通の人間になったみたいに感じてしまう。
化け物は慎ましく生きていかなきゃいけないのは誰よりも理解してるはずなんですけどね。




