第203話 帰ってきました現世
「三週間!?」
何と精霊界で色々しているうちに三週間が過ぎていた…ってやばいじゃん!
「はやく帰らなきゃ!」
このままだとあっという間にお婆ちゃんになっちゃうよ!
「はいはい、それじゃあ帰りましょうか」
と、ミズダ子が私を抱っこして来た道を戻る。
「もう行ってしまうのか。もう数十年くらいおればよいのに」
「ははは、人間の数十年は流石に短い時間じゃないぞ爺様。せめて数年にしてやれ」
「それでも長いから!」
あかん、完全に感覚が長命種のそれなのよ!
「それは残念だ。だが気が向いたらまた遊びに来なさい」
「私達は歓迎するわよ」
「小精霊達もな」
精霊王達が私達を見送ってくれる。
「はい! それじゃまたいつか!」
こうして、慌ただしく私達は精霊界を後にしたのだった。
◆
「はい、入り口に着いたわ。ここまでくれば時間のズレを気にする必要もないわよ」
洞窟に戻ってくるのはアッという間だった。というか行きよりも帰りの方が短くない?
「精霊界は時間と空間の概念が滅茶苦茶なのニャ。だから同じ距離を移動しても同じ時間がかかるとは限らんのニャ」
マジかー、それじゃカーナビの開発者さんはクレーム続出で絶叫ものだなぁ。
「ともあれ、依頼も解決したしめでたしめでたしかな。こっちも珍しい素材を沢山貰……って、あ!」
そこで私は思い出してしまった。
「報酬を貰ってない!」
そう、赤いドレスの少女を蘇らせる為、報酬として用意されていた素材まで使ってしまっていたんだ。
「それどころか手持ちの素材も使っちゃってる!」
あばば、大損害……
まさかの無一文! いやお金はあるか。解毒ポーションを売ったからね!
でも使ったレア素材達の合計額の方が明らかに高いよー!!
「大丈夫よ。ちゃんと後であの子達にお礼を送らせるから」
「あ、そうなの?」
良かった。タダ働きはしなくて済みそうだ。
「って、え?」
聞こえて来た声に振り向くと、そこには赤いドレスの少女の姿があった。
「ついてきてるーーーーーっ!?」
「心配だからついてきちゃった」
「ついてきちゃったって、貴女が来たら世界が大変なことになるでしょうが!」
珍しくミズダ子が慌てた様子で赤いドレスの少女に詰め寄る。
そういえば精霊王が現世にいるとその強すぎるパワーで世界が滅茶苦茶になるってさっき言ってたような!?
「大丈夫よ。此処にいる私は精霊界の私の分体。本体のせいぜい1割以下といったところね、世界に深刻な影響を与える事はないわ」
と、彼女は自分が本人ではなく分身のようなものだからと安全をアピール。
「それでも下手な大精霊よりも強いじゃない」
マジか、1割以下でそれって本体はどれだけ強いんだ。
精霊王はマジで王様なんだなぁ。
「という訳でこれからは私が貴方の保護者としてついて行くわね」
「えっと、護衛はもうニャット達が居るんですけど……」
しかし私の言葉に赤いドレスの少女は首を横に振る。
「今の貴方はその内に神と精霊の力を宿しているのよ。それがもしこの世界で暴発したらどうするの? 前例のない事だから何が起こるか分からないのよ?」
う、そう言われると反論が思い浮かばない。
「安心して、基本的に私は世界に影響を与えないようについて行くだけだから。貴女の身に万が一の事があった時だけ干渉するつもりだから気にしなくて良いわ」
良い……のかな?
「まぁおニャーの見張りが増えたと思っておけばいいのニャ。カコはいつもやらかすからニャ」
「その言い草は酷くない?」
「という訳で私の名前を考えて貰えるかしら?」
どういう訳の流れで?
「ほら、水の子には名前があるじゃない。だから私も欲しいなって」
「ええと、ずっと昔から生きてるんですよね? だったら自前の名前があるんじゃないですか?」
「私の時代には名前で呼ぶ風習が無かったのよ。風の精霊王とか火の精霊王とか、なんなら風の、火の、で済んでたから。生命が名前で呼ぶようになったのってここ数万年の事なのよ」
ここ最近のスケールが大きすぎじゃないですかね。
「という訳で名前を頂戴」
「はぁ……
名前ねぇ。ミズダ子の時は割と雑に付けたというかそもそも名づけるつもりも無かったからなぁ。
でも相手は物凄く長生きしてる精霊の王様だし……
「うーん、赤いドレスで大きな花だったから……」
パッと思いつくのは赤いバラかなぁ。あとは牡丹とか?
「あっ、そうだ。ルージュとかどう?」
確かフランス語で赤がルージュって呼ぶ筈。
なにかの話で赤いバラをローズルージュって呼ぶって聞いてへぇ、赤じゃなく口紅って言う事で赤色を表現するってオシャレだなって感心したらルージュは本来赤って意味で口紅って意味は日本で後付けされた意味だって知って恥ずかしい思いをしたんだよねぇ。
「ルージュ、良いわね。それじゃあ今日から私の事はルージュって呼んでね!」
私の名づけが気に入った赤いドレスの少女ことルージュはニコニコと華やかな笑みを浮かべてくるくると宙を回る。
「ええと、それじゃ近くの町を探しに行こっか」
そんなこんなで色々驚きの事件に立てつづけに遭遇した私達は休める場所を求めて近場の町へと向かう事にした……んだけど。
「やっと町に着いたー」
意外にも町までの距離は遠く、結構な時間がかかってしまった。
「ニャーの背中に乗ってた癖にいっちょ前に疲れてるんじゃねーのニャ」
「上に乗るのはそれはそれでバランスを取るのが大変なんだよ」
皆さんも一日中鞍を着けてない馬に乗ってみて欲しい。私がいかに大変だったのか理解できるだろう。
「でもさ、あと少しで街に入れるよ」
「まぁニャ。もう少し遅くなっていたら夜になって町の門が閉まってたところニャ」
この世界、夜になると町の門が魔物や盗賊対策に閉められちゃうんだよね。
だから門が閉まったら町の外で夜を明かさないといけないんだって。
「間に合った! まだ門が開いているぞ!」
と、後方からバタバタと人が走ってくる音が聞こえてくる。
どうやらあの人達も門が閉まる前に入ろうと急いで来たみたいだ。
「はぁ、はぁ……ここまでくればもう歩いても大丈夫ですね」
と、走って来た人達は荒い息で減速して私達の後ろで止まる。
「いやー、危うく野宿になる所だった」
「だから道なりに進もうって言ったんですよ。なのに貴方が早道しようなんていうから」
「いや、だってよ、丘から見たらまっすぐ行けそうだったじゃねぇか」
「その結果、途中の林で流れの早い川に阻まれ、更に魔物の群れに襲われて危うくあんな小さな林で遭難しそうになったんだぞ」
どうやら横着して道をショートカットしようとして大変なことになったみたいだ。
「まさかあんな所に魔物の巣があるなんて思いもしないっての」
「全く、お前という奴は。これでは婚約の件を考え直さないといけないな」
「なっ!?」
しかも後ろの人達のうち二人は婚約者同士らしい。魔物が闊歩するこの危険な世界でカップル旅とは優雅だなー。
ちらりと後ろを覗き見ると、喧嘩をしているカップルを二人の男女が宥めている。
全員日差しを避けるためかフードを被っているけれど、体のラインで性別が分かる。
どうやら男女二人ずつの四人で旅をしているようだ。
そして彼等はマントやローブで隠しているけれど全員が鎧を身に纏って武装している。つまり冒険者だね。
成程、冒険者カップルなのか。
にしても冒険者で婚約者ってのは驚きだなぁ。私が知ってる人達もそうだったけど、この世界の冒険者って意外と婚約してる人達がいるんだろうか?
「カコ、列が動いたニャ」
「あ、うん」
ニャットに急かされ私は慌てて前に進む。
「……カコ?」
と、その時、後ろから私の名前が呼ばれた。
「え?」
思わず反射的に振り返ると、後ろにいたカップルの女性がフードを外してこちらを見ていた。
そこにあったのは見覚えのある人の顔。
「メイテナ……さん?」
なんと、私達の後ろに並んだ旅人は、私の義理の姉メイテナさんだった。




