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還るべき場所





 「では、若……いえ、シーグリンデ王女、お元気で」 


 旅装束に着替えたマルテンは盗賊団と共に去ろうとしていた。


 「若……お元気で」


 「おかしらの墓はしっかり守りますんで、ご安心を」


 別れの挨拶を済ませると、彼らは跳ね橋を渡り、城下へと去っていった。


 王族と盗賊。もう再び会うことは叶わぬだろう。

 しかし物心ついた時から一緒に暮らしていた者達。云わば家族同然だ。


 シーグはやりきれない寂しさに押し潰されそうになった。

 

 豪華な仕立ての良い衣。美しい装飾品。芳しい花冠。それはどれも自分らしさを覆い隠す鎧のように思えた。




 それから数日後のある夜、シーグは馬を駆り、城を抜け出した。


 金糸の衣は脱ぎ捨て、盗賊の子シーグに戻って盗賊団のアジトへ向かった。


 養父ゲバルトの墓に着くと、あの身の丈程もある長剣を捧げ


 「これ……とうちゃんの剣……黙って持って来てごめんな。それと……」


 どうやってくすねて来たのか、アーレフのミスリルの胸甲を差し出した。

 これで良かったんだ。やる事はやった。ヴェロアを“悪しき者”から守ると云う大役は果たした。

 王位なら、ブロンウィンが継ぐだろう。


 城には平和が戻った。


 なのに。


 このミスリルの胸甲を見る度に。否、この物の持ち主を思う度に胸が締め付けられる呪いは未だ解けていなかった。


 「ちくしょう!あんな奴大嫌いだ!」 


 シーグは胸甲を思いきり拳で殴ったが、その痛みは胸の痛みには勝らなかった。


 「あいつの事を思うと凄く苦しくなる。心臓が痛くなる。息が出来なくなる。何だよこの“呪い”誰か助けてくれよ!」


 シーグはゲバルトの墓前に突っ伏して泣き出した。そうして、あの、ゲバルトの暖かく大きな手が頭を撫でてくれるのをいつまでも待っていた。


 「それは奇遇だな」


 背後から声がした。聞き覚えのある声。一番聞きたく無かった、しかし一番聞きたかった声。


 「なんで追って来た」


 シーグは自分の感情とは裏腹に、吐き捨てるように云う。背を向けたまま。


 「どうやら、私も御主と同じ“呪い”にかかっているようだ」


 シーグは振り向いた。そこには群青の衣を纏う騎士が微笑んでいる。


 あの歌の意味が今、やっと解った。


 フラウヒルデ王女が云った“宝”の意味も


 そして


 ―自分が還るべき場所―


 それが解ったような気がした。










【Die Erzählung von ein Welloa】

Licht des Mondes †Solare Dunkelheit


  DAS ENDE




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