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クラスミーティング

 金曜日の7限目は、クラス全員で話し合う「クラスミーティング」を隔週で行うことになっている。今日のテーマは、文化祭でのクラスの出し物についてだ。

 クラス仲が良いと言われているこの1年B組だが、クラスミーティングで、積極的に意見を言う者達は限られている。一部の自信にあふれた積極的な生徒達だけだ。楽しい事が大好きな桃木瞳子(ももき とうこ)を中心に、クラスのキラキラ女子達が、ノリと勢いで出した案に決まってしまう。

「…という事で、多数決の結果、僕たちのクラスの出し物は『男装女装カフェ』に決まりました…。」と言い、クラス委員長の宍戸は、「信じたくない」というような表情で、自分の背後の黒板を見つめていた。


・ボードゲームカフェ:4

・謎解きカフェ:2

・巨大迷路:5

・麻雀カフェ:1

・お化け屋敷:6

・男装女装カフェ:12


 これだけ、文化祭にありがちの企画が並んでいたのに、なぜよりによって男装女装カフェなのか…。宍戸は、謎解きカフェがやりたかった。男装女装カフェに票を入れたのは、ほとんどが女子達だった。こういう時の女子達の結束力は強い。

 おそらく女装をしたくない男子達は、何とか回避しようと様々な案を出した。結果的に意見が分散し、男装女装カフェに決まってしまった。

 宍戸は深く息を吐く。ため息だった。

 桃木瞳子(ももき とうこ)と、仲良しの森雪音(もり ゆきね)は、「どんな服装にする?かっこいいのが着たいよね~。」「どこで、服を買おうかな~。」と早速、盛り上がり始めている。

 「え~!? 文化祭の出し物の為に、服を買わなきゃいけないのかよ?」と、男子の不満げな声が教室に響いた。

 「そんな金ねえよ。」「もったいないじゃねえか。」「どうせ文化祭終わったら着られないだろ。」と、教室のあちらこちらから不服な声が届く。

 「確かに、普段着られない服を買うのはもったいないよな。」と、黒板前に立っていた宍戸はクラス中に届く声で言った。

「え? 私は、ズボンも履くし、別にもったいなくないけど?」と、桃木はきょとんとした顔で言った。その発言に、

「そりゃあ、女子はそうだろうよ!」と、男子の低い不満の声が複数重なる。

バスケ部の大田原おおたわらが「俺たちに、スカートを普段着として着ろ、って言うのかよ。」と声を張り上げた。

「別に、そんなことは言っていないでしょ!」と、桃木も強気に言い返す。

その時、「提案があります。」と、本田美恵ほんだ みえが手を挙げた。

「これは、クラスの出し物だから、皆で協力し合うのが良いと思うの。できるだけ新しい服を買わずに済むように、女子と男子で私服を交換し合えば良いんじゃないかしら?」

 クラス中がざわざわと活気づいた。席の近い生徒同士でお互いの意見を小声で吐露し合っている。

 一部の生徒は「まあ、妥当だよね。」「その方がムダが無くていいか。」と、納得した様子であり、一部は「俺サイズのスカートなんて、あるのかよ?!」「え? 男子に私服を貸すの、嫌なんだけど。」と、納得がいかない様子だ。

 宍戸は、ふう~と、また息を深く吐いてから、「本田さん、提案してくれて、ありがとう。」と、言った。

「サイズの問題もあるし、嫌な人も居るかもしれないから、そこは身長や体形が似ている男女で、個別に交渉すればいいんじゃないかな。」と、投げやりな口調で宍戸は言った。後は、休み時間や放課後に個人で話し合ってもらいたい。

「おいおい、背がデカい男子はみんな、高山しか服を貸してくれる女子が居ねえだろうがよ。」と、長身の大田原が言う。

「私、普段着はズボンを履くことが多いから、スカートはあまり持ってないよ。」と、高山愛良たかやま あいらは、素っ気なく言った。

 教室中は、誰の服だったら着られそうか、誰の私服ならセンスが良さそうか、などをつぶやき合い、熱気が増してきた。席を立って、めぼしいクラスメイトに直に交渉を試みる者も居る。1年B組のクラスミーティングは、いつも自由でカオスな状態になる。宍戸は、もうどうにでもなってくれ!と、しばらく、この状況を放置することにした。


「ねえ、佐藤君。」と、悠真の席近くまで、森雪音がやって来た。隣に桃木瞳子も連れ添っている。

「佐藤君なら、私の服が着られるんじゃないかな…?」と、遠慮がちに小柄な森は言った。確かに、森の身長は悠真と同じくらいだ。

「え? い、いいの?」思いがけない申し出に悠真は、声が上ずってしまった。

「うん。もちろん!」と、微笑みをたたえながら「でも、その代わりに、服選びは私に任せてね。」と、楽しそうに言った。

 その笑顔に、一瞬だけ嫌な予感がよぎったが、森雪音の笑顔があまりにも可憐だったので、「あ、ありがとう! お任せします。」と、声をどもらせながらも前のめりに言った。

 悠真の返事を聞くと、森は桃木と顔を見合わせて、にんまりとほほ笑む。

「メイクは私がやってあげる!」と、桃木が、任せろ!とばかり自分の胸を叩く。桃木の大きな胸が揺れるのを見て、悠真はドギマギして目をそらす。

 その時、天野が「はあ~。」と、わざとらしくため息をつきながら、「低身長な奴は得だな。」と、悠真に聞こえるように呟いた。

「なあ、桃木。俺にもお前の服を貸してくれよ。」ニヤニヤといやらしい笑みをしながら天野は桃木に向かって言う。

桃木は嫌そうな表情を隠さない。天野は気にすることなく、

「桃木って普段、どんな服、着てんの?」と聞いた。

「はあ? 別に普通だよ。カジュアルなTシャツにデニムスカートとか、プリーツスカートが多いけど…?」と、桃木は怪訝な顔をしながらも、質問に答える。

「へえ。案外つまんねえな。もっとエロい恰好しているんだと思ってたぜ。」

「はあ~!?」呆れた声を桃木は張り上げた。「何、言ってんの?!」

「せっかく、おっぱいデカいんだからさ、もっと胸を見せる服を着ればいいじゃねえか。」と、天野はニヤニヤ笑いながら言った。

「最低! あんたなんかに貸す服なんて持って無いから!」と、桃木は冷ややかに天野に言い捨て、森雪音と一緒に自分の席に戻って行った。

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