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その後

 結局、天野(あまの)は長期の停学処分となった。被害者である生徒と他のクラスメイト達に配慮し、来年からは別クラスに移ることになるという。また、1年B組は、混乱した雰囲気を一掃するために、学期末でありながら、席替えと、日直担当の順番を入れ替えることになった。

 悠真(ゆうま)は担任の講師から「佐藤君の字は読みやすくて、可愛くて女子受けが良いから、佐藤君のような字で書いたら好感度が上がると思ったと、天野君が言っていましたよ。」と、告げられて驚いた。無遠慮で、一方的に悠真をからかい、利用してくる天野だが、1点だけ悠真から学ぼうとしていたことがあったのだ。

「字がきれいでかわいい」と、確かに悠真はよく言われる。天野も悠真の字を真似しようと思う程に、悠真の字を気に入っていたという事だ。

「それから、佐藤君のノートは捨ててしまったと話していました。天野君は、佐藤君しか友達が居ないし、佐藤君にとっても友達は天野君だけだと思っていたようだけれど、佐藤君には友達がたくさんいる事を知って、嫉妬して逆上してしまったんだそうです。」

 淡々と天野の気持ちを代弁する担任講師の声を聴きながら、悠真は騒動が起きる前日の事を思い出していた。リレー小説のエンディングを考えるミーティングに悠真も誘われて、宍戸(ししど)やその他のクラスメイト達とも確かに親しく話した。天野から見たら、悠真が天野を置いて、他の生徒と仲良くしていることに焦りと嫉妬を感じたのかもしれない。だからと言って、貸したノートを捨ててしまったのは許しがたいが…。


 桃木瞳子(ももき とうこ)は、犯人が分かったことによる安堵の為か、徐々に持ち前の明るさを取り戻しているかの様に見える。まだ、悪ふざけが絶えない男子生徒に対する不信感は消えないようで、教室内で男子の大きな笑い声が響くと、その場を急いで離れる時もある。しかし、桃木の傍らにはいつも森雪音(もり ゆきね)が一緒に居て、常に励ましたり、なぐさめたりしているようだ。悠真は桃木から特に避けられているように感じたが、気のせいだと思う事にした。

 オレだけが特別避けられているように感じるなんて自意識過剰だ。きっと、桃木さんは男子生徒全員が怖いんだ…。

 

 天野が居ない今学期のテスト期間は、悠真にとって今までにないくらい、勉強に集中できた期間だった。歴史と現代文については、高山愛良(たかやま あいら)が自分のノートのコピーを取らせてくれた。歴史が得意な高山のノートには、効率よく学ぶヒントがたくさん詰まっていた。そんな環境とサポートのおかげか、どの教科も中間テストより良い結果となった。悠真は相変わらず得意教科は無いけれど、少しずつ勉強に対する自信を取り戻していった。自分に無いものや不得意とすることを嘆いてもしょうがないので、やれる事を少しずつやっていくしかない。覚悟のようなものが決まったのかもしれない。

 

 日誌のリレー小説は、エンディングを決める会議で話した内容を、クラス中で共有し、みんなが一丸となって、解決と大団円に向かって書き綴られた。

名前が無いと不便なので、ムキムキの刑事(デカ)には、ちゃんとプロテイン・ササミという名前が与えられた。


 ササミのムキムキに厳しい取り調べにより、ベーグル・ケンが口を割り、学校内で敵対していた「黒尽くめのファミリー」と「赤いファミリー」の両組織は「老いない薬」もとい、保存料の利権を巡って対立していたことがわかった。そして、2つの組織のどちらにも属せない、はぐれ者のベーグル・ケンを、オムライス・デミオは巧みに手懐けて子分とし、捜査官として派遣された疑いのあるピーチ・メルを殺害するように命令したのだった…。

 そして、敵対していたかのように見えた2つの組織は、実は保存料の利権を独り占めしたいデミオにより操られていたことがわかった。全ての黒幕は、ハンサムな数学講師のオムライス・デミオだった。カラアゲ・アゲハはどうしてもデミオを許せず、夜の職員室に忍び込み、そこに居たデミオに銃を向ける……。


"バキューン!

銃声がなると、オムライス・デミオは腹を押さえて床にうずくまった。

カラアゲ・アゲハは「お前だけは、許さない!」と泣きながら叫ぶ。

床にはケチャップのような赤い血が広がってゆく。

アゲハがとどめを刺そうと、再び銃口を向けた時、

「やめろ!」という声と共に、

グワッシャーンッ!!

という、激しい音を立てて窓ガラスが割れ、プロテイン・ササミ刑事が現れた。

「もう、やめるんだ!アゲハ。君が手を汚すことはない!」

その時、弱弱しくも不敵な笑い声をあげて、オムライス・デミオは話し始めた。

「殺したければ、俺を殺せ…。2つのファミリーは、もともとは俺の生家だったんだ。どちらの利権ももともとは俺の物だったんだ…。」

 この後、オムライス・デミオが、2つのファミリー「ケチャップ家」と「デミグラス家」の末裔であり、両組織とも闇取引により大きくなった組織であることが、宍戸の丁寧な文字により明かされるのだが……。” (日直日誌 リレー小説部分)


 ん? と、悠真は日誌のページをめくりながら思った。

 明日の終業式の日直は悠真の担当だ。その前にどのような展開になっているのかを確認しておきたかったのだ。

銃って本当に「バキューン!」って音がするのかな…?

 幸いにも銃声を聞いたことが無い平和な環境に居るのでよくわからない。

 でも「バキューン!」って、よく小説とか漫画で出て来る擬音語だよね……。前にも見たことがある気がするし……。

 悠真は、ハッとして日誌を前にめくった。


あった!


”バキューン! 

ガッシャ―ンッ!

ガラスが割れる音と共に、一発の銃声が鳴り響き、ピチピチのギャルは、その場に倒れた。

胸からは、血が噴き出し、彼女は息を引き取った。” (1年B組 日直日誌)


 もしかしたら、もしかしたら、悠真の日直の日に悠真の手書き文字を真似て、ピーチ・メル銃殺のシーンを書いた人と、カラアゲ・アゲハがオムライス・デミオに復讐するシーンを書いた人は同じ人かもしれない…。

 悠真はページをめくり、日直担当者名を確認した。

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