199807201000[AOI-SIDE STORY]
本編とは時間軸が異なります。
SIDE:ゆい
これは僕らが小学校3年の夏休みの初めごろの蒼村のお話。
僕とトオルがちょうど村の重要文化財の「竜の祠」の前を通った時のこと。
「なんかほこらに誰かいないか?」
「気になるわね」
まさかと思い見に行った。僕らよりちょっと年上の女の人?がいるではないか。
祠を覗き込む。
「隠れちゃったね」
「多分ただの見間違いかもしれないと思うの」
そう納得して祠を離れた時。
「あーごめんごめん。久しぶりに祠から出たからのう。」
「わ!人が出た!」
僕らは驚いた。
「驚かしてすまんの。我はりゅうと申す。お主らは」
「は、初めまして、僕はゆい」
「私が透よ。」
「よろしくのう」
透は疑問に思ったようで。
「久しぶりに祠から出たと言うけど、いつくらい前なの」
「うーん55年前かの。まあ我は不死身なのじゃからな」
どうやら人間じゃないのは確か。
「どのくらい不死身かというと、まあ我はこの地球で4000年近く生きているのじゃ」
まさかの4000年。こうなると伝説級だ。そして透が
「あの、これほど長生きする種族といえばエルフがあるの。でもエルフは伝説の生き物だと言われているけど」
と言ったが、
「いやいや断じて我はエルフではないのじゃ。本当は竜なのじゃ」
そうなのだ。エルフではない。彼女は人間の姿をしているのだ。
そして本当の姿が竜とは。
なぜ、「竜の祠」に竜が存在することが世間に知られていないのか。
「いや、本当はここに本当に竜がいることを秘密にして欲しいんじゃ」
「なんでなの?」
「それはじゃな。教えない。じゃが、その昔、我を捕まえようとする愚か者がいたのは確かじゃ」
僕らはこの夏休み中、りゅうと自然の中で遊んでいい思い出を作った。
相澤ひなたも僕と同じ蒼村の小学校の同級生だった。
ひなたは、最初はりゅうを怖がっていたんだけど、なんだかんだで楽しくなったようだ。
りゅうが竜の姿になって空を飛んだりもした。もちろん人目のつかないところで。
本当の姿はもっととてつもなく大きいものらしいが。
で、8月の終わりを境に、りゅうの姿を見ることはなかった。
多分竜の祠で眠ってしまったんだろう。
村全体がダムにより沈むこともあり、きっともうりゅうには会えないだろう。