銀河通信 その7 Always Coming Home2
夏休み中は週2回家庭教師がつくことになったので、今年の夏はどこにも行かないみたいだ。毎年夏と冬の休みには里帰りしていたのに、パパもママもなんだかそれどころではなさそうだ。ここのところ二人とも妙にぴりぴりして忙しそうにしていたから一緒にいても落ち着かず、なんか居心地悪くて食事のとき以外はすぐに勉強を理由に部屋にすぐに引っ込んでいたので、やる気があるとみなされたのかもしれない。あまりうれしくない誤解だった。
勉強はべつにきらいじゃない。
ただ、見張りが付けられるみたいで、なんとなく面白くなかった。自分のペースでやりたいし、追い立てられたり、へんに期待されたりするのはメンドクサイ。なんとか抵抗してみたけれども既に決定しているらしく、夏休みに入ってすぐの休日からその家庭教師は来るらしい。面白くない。
自分で自由に時間を使えるなら眠くなればすぐに眠れるけれど、見張り付きではそうはいかないではないか。
眠いのを我慢して勉強するなんていやだった。効率悪すぎる。
夢の時間に入ることが面白いからかもしれないけれど、ここのところ私はすぐ眠くなってしまう。自分のアンテナが反応するような新鮮な喜びがあまりないせいか、省エネモードのようにスリープ状態へとすぐ入ってしまうようだ。勉強に関してもそれが面白いと思えば集中できるけど、つまらないと感じたらすぐ眠くなるので、最近は好きな音楽をかけっ放しにして音やリズムの力を借りて単調な宿題や作業をなんとかこなすような日々だったのだ。
そして、憂うつだったその初日がきた。
とんとん、と部屋の扉をノックする音がして、あ、来たんだな、と私は顔を上げた。かけっ放しだった音楽を止めて時計を見ると約束の時間だった。思ったより集中していたせいか全く気づかなかったのだ。
「どうぞ」と言いながら扉を開けて初対面のご挨拶をしようとした私は、そのまま、目の前に現れた異国情緒あふれる多国籍な風貌のきれいなお姉さんに、びっくりしてしまった。
「はじめまして、ハルカちゃん。私はレイラです」
とても流暢な日本語だった。
「あ、はじめ、まして」
びっくりしたまま私がたどたどしく返事をすると、ふふふ、と先生の後ろでパパとママが笑った。
「びっくりしただろう。パパのお友だちのお嬢さんなんだよ。今日からレイラ先生が遥香に勉強を教えてくれるから、しっかり勉強するんだよ」
そう言って、仕掛けたいたずらが大成功したような満足顔で両親は去って行った。
パ、パパ……ママ……やってくれるじゃないの。
私は予想外の初対面にまだどきどきしながら、わくわくし始めていた。
こんなびっくりは大歓迎だ。
今までの退屈さが吹っ飛んでしまった。
「あ、どうぞ。お入りください」
あまりぶしつけにじろじろ見ては失礼になると思いつつも、どうしても目が見てしまう。西洋と東洋が神秘的に混じったような多国籍な感じのとってもきれいなひとで、どう表現していいのかわからないような不思議な異国の風を運んでくるような彼女のその全存在から、どうしても目が離せなくなるのだ。
「ありがとう。おじゃまします」
長い手足を優雅に動かして彼女は私の部屋に入り、勉強机の隣にある先生用の椅子に目をやったので、私は「どうぞ」とうなづいた。
「驚いたみたいですね」
微笑みながら彼女は私にそう言って「では、早速始めましょう」とバッグから参考書やファイルを出して私を促した。
私は黙って頷いて、自分の椅子に腰かけた。
「あなたの教科書を見せてくださいますか?」
「あ、はい。どうぞ」
私はそれまで使っていた教科書を彼女に渡した。
彼女はそれを静かに少し読んでから、
「私が持ってきたプリントを少しやってみましょうか」
クリアファイルの中から数枚のプリントを出して私の目の前に並べた。
それは私が今まで見慣れた問題の様式と少し違っていたけれど、虫食いパズルみたいで面白そうだったので私はすぐに集中した。彼女はメガネケースからメガネを取り出してかけ、隣で私が問題を解いていく様子を眺めながら、私の教科書を静かに読んでいた。
時間があっという間にたっていった。
私が終えたプリントは彼女がすぐ隣で採点し、その間も私は目の前のプリントに集中していたのでそれは順調に片付いていき、気づいたら部屋の中央にあるテーブルの上には休憩用にママが持ってきたらしいおやつが置いてあって、
「ちょっと休憩にしましょうか」
そう先生が微笑んでいた。
♆
「おーい、フィ~~ン! いいぞ~う、かご引き上げろ~~~!!」
下でギョクの大声がして、私は窓枠にとりつけたリングに結んでいたロープをほどいて、するするとそれを引っ張った。ちょっと重いし疲れるけれどなんとか最後まで引き上げることができ、私は目の前に現れたかごに目を輝かせた。
「あ~り~が~とお~~!!」
窓外に造りつけてある手すりに身を乗り出し、下にいるギョクとランとセイルに思いきり手を振ると、
「落ちるから危ないよ~」
下からセイルが大きな声で言った。
「気をつけるよ~~」
私はきげんよくそう言って塔の部屋のなかへ引っ込んだ。
えへへ、ごちそうの差し入れだ。
うきうきしながらかごを捧げ持ってその場でくる~りとまわり、ひとり喜びの舞を踊る。
街はずれにある荒涼とした砂漠地帯にぽつんと建っている高い塔の最上階の部屋に、昨日から私はひとり閉じ込められていたのだった。バスやトイレは使えるけど、あとは最低限必要な水とパンと果物がこの部屋に一週間分くらい置いてあるだけで、罰として私はそれだけで当分ここで過ごすはずだったのだ。が、部屋の奥にあるクローゼットの中からロープやかごやリングを見つけた私は、外からセイルやギョクとランから救援物資を届けてもらえるようにしてやった。
よくやった! わたしえらい!!
そして、みんな、どうもありがとう!!!
三人のいる(と思われる)方向に向かって感謝の祈りをささげ、私は喜びのダンスを空や雲や鳥たちに捧げた。
かごに入っていた焼き菓子をぽりぽりかじりつつ、そのかけらを窓のそとの手すりの上にちょっとのせる。しばらくすると鳥がやって来てついばみ始めたので、色とりどりの小鳥たちと仲良くおやつを分け合い、私は心から満足していた。
爽やかな風が青く晴れ渡った空から吹いてくる。
こうして過ごしていれば、なかなかいい場所だった。
見晴らしがよいのと空に近いぶん、なんだか広々としたいい気持ちになる(閉じ込めれているにもかかわらず)。
眼下にひろがる荒涼とした砂漠地帯も、なかなかいい風景だった。
昨夜の月明かりに照らされていた神秘的な風紋が広がる砂の海も美しかったけれど、強く明るい陽射しの下にある砂漠もまた雄大で厳しい美しさがあって、神秘的だった。
街並や人びとの喧騒は塔の裏側の方角にあり、部屋の窓からは砂漠地帯の方向しか見えないので、広大な自然のなかにひとり置かれているみたいに神妙な気持ちにもなる。
風が吹きわたっていった。
ああ、いいきもちだ。
──発端は笑ってしまうくらいあほらしいものだった。
「先生のお使いできました」
私がそう言って医術棟の病理標本室で働いている検査技師のひとりに必要なもののメモを渡すと、そのひとはその中から探して持っていって、と大きな棚を指さした。私はうなづいて、番号を確認しながら標本を探した。番号通りに標本のケースを見て探していけば見つかるはずだったのだが、見当たらない。何度かメモとケースと標本番号を確認したが、ないのだった。
あれ、へんだなあ。
「あの、すみません。この番号のケースの中にこのメモの番号の標本があるはずなんですが、見当たらないんです」
私がケースとメモを持って行きそう言うと、その人は、
「あれ、へんだなあ、どこかに間違って入れ込んでしまっているのかもしれないなあ」
そうずいぶんとわざとらしく嬉しそうに言った。
その言い方があんまりにも子供じみていたのにびっくりしたのもあって、とっさにその人の背後にフォーカスしてしまった。視るつもりはなかったのだけれど視えてしまったので、仕方ない。
そこには、どでかい大人のおっさんの顔をした赤ん坊のエネルギー体が、どすこい! どどん!! とあった。
右手にはガラガラ鳴るおもちゃ。左手にほにゅう瓶。そして、口にはおしゃぶり。でっかいおむつをして三種の神器(?)を持ってふんぞり返るように堂々と立ち、睥睨するかのように私を見下ろしていた。
ぶっと吹きだしそうになるのをこらえ、私はあわてて目を逸らし、目の前の検査技師の人に集中するようにした。
「どこにあるんでしょうか?」
「さあ、あの中から探すよりほかないね」
そう言って、嬉しそうにニヤニヤするその人をみて、なるほど、と私は察した。
嫌がらせの一種らしい。
そう言えば、噂になっていた。
医術棟の検査技師の集団には、癒しの技術の授業で使うための標本を生徒が取りにくると、なんだかんだと足を引っ張ったり邪魔したりしては喜んだりする嫌がらせが趣味のような変態趣味のひとたちがいるって。まともな人はほんの二~三人しかいないから気をつけたほうがいいって。
なるほど、こういうことか。
大の大人の、しかもここの管理者らしいこの人が仕掛けた悪趣味な悪戯に、みんな泣いてたわけか。それにしても仕事を何だと思っているのか。この大きな棚いっぱいの標本の中から宝探しのように探せ、ということらしいが、そもそも標本をきちんと管理するのはこの人の仕事のはずではないか?
「では、後で取りにくるので用意しておいて頂けますか? 私は他に仕事があるので。先生には標本の管理ミスがあったので見つかるには少し時間がかかることをお伝えしておきますね」
あほくさ、と思って踵を返そうとしたら、なんとそのひとは、
「わ~~わ~~、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
大慌てでそう言いながら、棚の中にあるひとつのケースを自分で取り出して、メモにある番号の標本を全て私の目の前に出してきたのだ。
あまりにもツッコミどころが多すぎる!!!
まんがみたいにある意味衝撃的な場面だったけれど、
「あ、全部そろってる☆ どうもありがとうございます♪」
それだけ言って、私は目当ての標本を手にし、さっさとそこを後にした。
とっさに、関わるべからず、と、判断したのだ。
しかし、何故かそのひとは(アウトオブ眼中な態度をしたせいか? 雪辱をしたくて??)私に執着したようで、なんとかこの生意気なやつを支配下におきたい! という変質者の情熱の火に勝手に自分で油を注ぎこみ、あの手この手と私の行く手を邪魔しようと変質者仲間で結託して(?)何かと周囲に出没しだしたのだった。
私のそばをうろついて、えへんえへん! とせきこんでアピール(?)してみたり、さも自分たちは困っているというふうを装って私の助けを期待して(??)みたり、仲良くしたければ仲良くしてあげるよ(???)みたいな奇妙な誘いをかけてきたり、ただ嫌な思いをさせたいが為の子供じみた嫌がらせをしたりと、何がしたいのかよくわからない支離滅裂な奇妙なことをやり出したのだった。
その変態さん仲間(だって後ろに控えているエネルギー体がそういう姿形なんだもん)の連中は、それぞれになかなかユニークな奇妙な形をしてはいたけれど、共通するのは、自分たちはこんなに困っている! 苦しんでいる!! だからあなたは責任を感じて私たちを助ける必要がある!!! 無駄な抵抗はやめなさい!! 罪悪感を感じてこちらの言うとおりにしなさい!! 私たちへの義務や責任があなたにはあるのだ!!! おとなしく、こちらのいうままに、私たちの世話をしなさい!!! 面倒をみなさい!!!! という(ママへのアピールか???)ゆすり・たかり・当り屋まがいの感情のエネルギーをそのまま生きていることだった。
それで私は、こんなことにこれ以上関わって自分の時間とエネルギーを無駄にするのは嫌だったので、どうせならと医術の授業ごと(授業に出る以上は関わりを持つことになるため)あっさり捨てたのだった。どっちみち、癒しの仕事なんてするつもりなかったからだけど。セイルは私より先に癒しの技術はマスターしていたから、授業に出る時は私ひとりだけだったし。そうして、それをいいことに別のすきな科目の授業にちゃっかり出ていたら、ある日医術の先生に呼び出されたので
「癒しの仕事を将来するつもりはないので必要ないです」
と私が宣言したら、なんだかそれはおおごとになってしまい、何故か礼拝所じゅうの先生たちに次々と説得された。
それでも私が「癒しの仕事に興味はありません。将来それをするつもりはありません!」と言っていたら、こんな人里離れた高い塔に監禁される羽目になったのだった。
やれやれ。
私たち礼拝所で学ぶ生徒たちは、癒しの力を学ぶために医術もある程度学ぶことになっていた。シャンティの力を伸ばせるだけ伸ばすために。
シャンティというのは、特殊な星の地図を持って生まれてくる子供たちのことをいう。
生まれた時にできる主要な星の地図が正三角形になる子供たちで、その子供たちのなかには対になる地図を持つ子供たちもいる。ふたつの星の地図を合わせるとちょうど六芒星ができるペアがあるのだ。それが、私やセイル、ギョクやランのような双子なのだった。
それぞれ生まれたところも育ったところも別々で、あちこちから集められてくるシャンティたちはこの礼拝所に共同で寄宿して学ぶことになるのだが、そこで自分と対になる星の地図を持った双子の片割れと出会うと、そのまま一緒に協力して学びあうことになる。
その双子が必ず仲良くなるというわけではないけれど、私やセイル、ギョクやランは初めて会ったときから気が合い、仲が良かった。そして、そのまま仲の良い双子同士みんなで仲良くなって何かと一緒にいたのだった。
シャンティの能力は様々だけれど、たいていは大人になると癒しの仕事をする。
セイルやギョクやランは私より少し年上で、既に癒しの技術もマスターしていたのでたまに大人のヒーラーを手伝って仕事をしたりもしていたが、私はまだだったので、漠然と自分も将来みんなみたいになるんだろうな、くらいに思っていたけれど、あの、エネルギーのゆすり・たかり・当り屋まがいの人たちをこの目で見てからは、百八十度考えが変わってしまった。
はっきりいえば、
冗談じゃない!!! こんな年取った赤子のようなちんぴらもどきが、どこでどうなろうと私の知ったこっちゃないよ!!!!
どんな問題抱えていようが、自分の感情の世話くらい、自分でしてくれ!!! うっとおしい!!!!
ねばねばと絡みつくようなヘドロマン・エネルギーに関わるなんて、まっぴらごめん!!! やなこった!!!!!
ということなんだけど。
具体的にはこれからどうするべきかわからないけど、とりあえず、ヤなものはヤダ。イヤったらイヤ。
そもそも癒しの仕事自体、もうあまり気が進まないし、興味ない。もっと違った形で力を使いたい──それをひとりで考えるには、案外この状況は悪くないかもしれない。
むしゃくしゃしたら瞑想でもしていればいいし、何と言っても、煩わしいものがない。静かだし。鳥の声や風の音を聞いていればいいのだから。それは、黙想に入るにはとても理想的な環境とも言えた。
おお!? これぞまさに、神のみ心、恩寵とでも言うべきものでは??!
というか、どうせなら、そういうことにしちゃおうっと☆
そんなふうに気持ちを切り換えたら、その瞬間からもう、住めば都だった。元々めんどくさがりの私にはあれこれ思い煩うのがむいていないのか、これ! という心が決まってしまえば、あとは、まあなんとかなるさ~~と妙に楽しくなっている。深刻ぶっているのがなんだかあほらしくなるからだ。逆に深刻ぶるのがいいこと、真面目なこと、と思っている先生や他のシャンティからは何故か因縁をつけられ(?)まるで通り魔にあうみたいに「軽すぎる!」と叱られることが何度かあったけれど、それこそ余計なお世話というもの。これはそれぞれの好み、エネルギ―のあり方の違いなだけなのに、な~んで~? と思っていたくらいで。
重くいかめしい古いエネルギーを生きていると、新鮮な喜びの軽やかなエネルギーの意味がわからなくなるらしい、というのは、最近になって知ったことだった。
先生だから、大人だから、仲間や先輩だからといって、みんながわかっているわけではないのだ。
それは、私を少し、大人にした。
どの様な立場にあろうとみんなそれぞれなのだ、ということを改めて学んだからだ。
「それぞれの好みもあるし、何を選ぶかは自分しだい。どのようなエネルギーを生きるかは自分で選択している。そしてそれは、それぞれがそのまま尊重されるなら、争うことにはならない。自分の好みを押しつけないで、自分の在り様に責任を持てばいいだけだから」
セイルがそう教えてくれたのもあるけど。
だからこそ、自分で選んで生きているエネルギーは自分の責任なのだ。
自分の都合で相手のエネルギーを変えようというのは、自分の責任を相手に肩代わりさせようというものと同じ。それは、私にしてみたら、癒しの仕事も似たようなものだった。
それが何であれ、自分のエネルギーが生み出した問題を他者に一時的に肩代わりして助けてもらう、というのは、本当に必要最低限でないと、本人が自分で責任をもつ力を弱らせたり、赤ちゃん返りさせたり、それをへんにこじらせた赤子のちんぴらもどき(?)まで生じさせてしまうんではないかなあ??
──魂の成長の機会を奪うことにならない???
そこまで考えて、私はがばっと身を起こした。
あ。そうか。
これか。
だから、私は、イヤだったんだ。
自分のイヤイヤがどこからくるのかやっとわかって、ちょっと私はすっきりした。
魂の仕事をするはずのシャンティの本来の自然の法則に逆らう気がしたからだったのだ。
おなかのそこから全身全霊のものすごいエネルギーの「NO!」が訴えていたのは、これだったんだ。
なんだ、そうか。そういうことか。
シャンティの能力は、自分の感覚をクリアに直接知ることと比例している。つまり、私は、そのときは自分でも理解できなかったりちゃんとひとに説明できなくても、自分の感覚の羅針盤にはちゃんと従っているから、これでいいのだ。よかったのだ。
それに、シャンティの能力はさえた孤独のなかで一人で向き合うことで磨かれ、クリアになる。
たとえ片割れのセイルと一緒に仕事をしていたとしても、みんなと仕事をしていたとしても、わたしたちはそれぞれ、一人。自分の足で立つ。群れて団子状になっていては、感覚がクリアにならないからだ。それができないと、その能力を私欲で歪んだ形で使うようになっていっても自分で気づいたりセーブできなくなってくるからもあるんだけど
やはり、これは今しっかりクリアにしておくべき何かがあるんだ。きっと。そのための機会なんだ。
個のもつ羅針盤をクリアにすること。
そしてそれを強くすること。
これから何が待っていたとしても、それさえちゃんとしていれば、きっと何とかなっていくし、何とかしていくだろう──周囲から隔絶され塔に閉じ込められたこの状況を機会としてちゃんと活かそう──私はそう思ったら、なんだかわくわくしてきた。
よお~し、魂のサバイバル能力を磨いていくぞう!!
燃える闘魂? のように、新しいチャレンジを見つけた私は、なんだか久々に燃えていた。
火の玉のような魂が、私の細胞のすべてを目覚めさせる!
踊りだしたくなるくらいだ。
こころなしか、不思議な太古の宇宙生命のリズムを呼び覚ますような、神秘的な美しい音楽まできこえてきた。
体が自然に動き出し、わたしはリズムに合わせて、自然にチャントを舞いうたい始めていた。
そこへ、
「お~い、フィ~ン、聴こえるう~~??」
ランの声が響き渡った。
あれ?
空想の幻の音楽ではなく、ほんとうに不思議な音楽があたりに響いているのだ。
いつの間にか外は暗くなり、夜空に満月が浮かんでいた。
私があわてて窓から身を乗り出すと、下の方にかがり火のような炎と月明かりに照らし出されたセイル、ラン、ギョクと何人かの人たちの手を振る姿が見えた。
「お~い、ぼくたちの即興のセッションどう~~? なかなかいいでしょう~~!!」
嬉しそうに弾んだセイルの大声が響く。
「なんか不思議なきれいな曲だったよ~~! 思わずチャントを歌いながら舞っていたくらいだよ~!!」
うきうきして私が手を振ってこたえると、ギョクが叫ぶように言った。
「ここの近くに住んでいる先住民のシャーマンのひとたちと仲良くなったんだ~~! どうせならここで、みんなで即興で演奏して楽しもうってことになったんだぞ~~!! すっげえだろう~~~!!!」
「わーお、すごーい!! ありがとう~~!!!」
私が喜びのあまりその場で舞い踊りながら、オペラのように節をつけて歌うようにこたえると、
「たのしみましょう~~!!!」
とランも節をつけて美声を響かせて歌いながらこたえた。
月夜の即興の演奏は、異国情緒にあふれた美しい旋律の響く天上の音楽みたいだった。
シャーマンの詠唱も入り混じり、それに続くようにランやギョクの詠唱もつづき、それらは神秘的に美しく、不思議に懐かしいリズムと共に私に届いた。
セイルはタールというお気に入りの楽器を弾いていて、他にも打楽器や美しい音色の笛などをシャーマンの人たちが演奏していた。ギョクとランはヴィオラとタンバリンのような鈴がついた楽器を交互に使って、楽しそうに踊ったり歌ったりしている。
私も塔の上から、チャントを歌いながら手だけ動かして踊った。
それは月明かりの下の、不思議な、素敵な、演奏会だった。
★
はっと目が覚めると、音楽がプレーヤーから流れたままだった。
レイラ先生と一緒に勉強した後、波に乗った私はそのまま好きな音楽を聴きながらうきうきと夏休みの宿題をほぼ半分以上片づけてしまったのだ。そうして、ここちよくいつの間にか、眠っていたらしい。
今流れているのは、様々な民族音楽をミックスしてダンスのリズムにのせて現代的にアレンジしたものだった。それが、夢にそのまま出ていたんだ。私はちょっと笑って、さっきまでいた夢の時間の喜びがまだ自分の体のあちこちに残り香のように残っているのを楽しんだ。
タールという楽器の名前は、レイラ先生に教えてもらった。
先生が入るまで私が部屋でかけていた音楽には故郷の楽器と同じ音色があった、と彼女が言うので、音あてクイズのように音楽をかけて、これ? これ? とききながら目当ての音を探し、使われている楽器の名前を教わったのだ。ケーナ、パイプオルガン、バグパイプ、ギジャク、ガムラン…などなど。先生は楽器に詳しいようだった。楽しそうに教えてくれた。彼女の故郷の伝統楽器タールは、異国情緒の漂う神秘的な銀色の月のような響きが気に入っていた、私の好きな音を出す楽器のひとつだった。




