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後編

 王宮の仕事にも慣れ、月日も経ったある日私は王立カルダナ学園に入学する事になった。

 この国の王侯貴族は十五~十八歳までの三年間、王立の学園に通う事になる。

 昔は人質の風合いが強かったが、いつの間にかお見合いの場になったのだ。

 もちろん入学前から婚約している相手も居る。だが、学園で合った相手と恋愛をし、婚約を解消する者もいる。


 学園でアナスタシアと再会した。

 かれこれ三年ぶりだ。

 再会した私はアナスタシアの取り巻きという立場を取った。

 私が王の側室と言う事は殆どの人達が知らない。つまり子爵令嬢と思われているのだ。


 二年になるとアランと男爵家の庶子が学園に入って来た。ヒロインだ。

 これで乙女ゲームの舞台が整った事になる。

 少し変わった部分はあるが、物語に影響は出るのだろうか。


 物語が始まり出し、ヒロインが順調にイベントを回収している様で、逆ハーレムを築いて行っている。

 一人を除いて。

 除かれたのはアランだ。アランは乙女ゲームにあった様な影はなく、朗らかな性格をしている。少し黒い所もある様な気はするが。

 変わっていると言えば王子も変わっているはずなんだけど、ヒロインの魅力にやられている。

 ヒロインってもしかして私達と同じ転生者だろうか?


 王子がアナスタシアとの婚約を解除しようとしている、と情報を受けた。

 時期的に見て断罪イベントの変わりだろうか。虐めていないアナスタシアに断罪イベントはあり得ない。しかし、転生者だった場合は無理やり起こすかもしれない。

 情報収集に力を入れないと。


 ヒロインはアナスタシアに虐められていると言っているそうだ。アナスタシアがしたのは注意だけのはずなのだけどな。

 なのに、王子はヒロインの言葉ばかりを信じている。


 とうとう断罪が始まってしまった。

 遠くから見えるアナスタシアは酷く冷めた瞳をしていた。

 それもそうだろう、アナスタシアは断罪されるような事はしていないのだから。それに婚約してからも、いつか婚約破棄される可能性を考えてなお、王子に優しく接していたのだから。


「マライム殿下、姉がサリア嬢を虐めたなど何かの間違えです」


「まさかお前はサリアが嘘を着いていると言うのか? そこを退け」


 王子、マライム殿下にアランが諫言をしているがマライム殿下は聞く耳を持たない。


「マライム、きっとアランはその女に弱みを握られているのよ。姉弟なのでしょう」


「そうか……、流石サリアだ。アラン辛い思いをさせたな。アナスタシアお前はなんて女なのだ」


 ヒロイン、サリアの迷言を信じるマライム殿下。まさか、コレが王位継承権を持っていると考えると暗澹たる思いがする。


 さて、そろそろ私も出るとしましょうか。


「皆さん行きますよ」


『はっ』


 私は待機させていた騎士を連れ、人の波の中に踏み入った。

 人垣の外側、位の低い子息子女から私の存在に気付き、目を見張る。

 騎士を伴っているせいか人垣が割れて行く。

 最後の人垣が割れ、アナスタシアとアラン、マライム殿下にサリア嬢、サリア嬢の取り巻きと化した元マライム殿下の取り巻きの前まで辿り着いた。


「何事だ、カーネリア子爵令嬢」


 マライム殿下が子爵令嬢という部分に力を入れて問いかけて来る。

 自分が話している場に、たかが子爵家の令嬢が口を出すな、と言う事だろう。そう、ただの子爵家の令嬢ならこんな場に出て来たりはしなかった。

 私は作法に則り準王族(・・・)の礼を取り、声を張った。

 王妃なら当然王族、側室の場合は準王族の立場になるのだ。


「やるべき事ができましたので。……マライム殿下とアラン様を除き、騒ぎを起こした子息達とサリア嬢を捕縛して下さい」


「お前ごときがその礼はなんだ! たかが子爵家の者に何故騎士が従う!?」


 マライム殿下やサリアの取り巻き達が口をそろえて驚きを表す。


「何故騎士が従うか、でしたらコレを……」


 そう言って取り出したのは、ペンダントヘッドに加工したネックレスの先端。

 そこに描かれているのは準王族を示す紋章、意匠は側室のもの。


「子息達を別室へ」


 私が出した側室の証を見て絶句するマライム殿下達。

 私の命で、騎士達が子息達とサリアを連行して行った。


「そ、側室だと。俺はお前を後宮で見たことなどないぞ!?」


「私が賜っている部屋はマライム殿下の行動範囲とは違いますから」


 そう、政をする側室達は王族の寝室から外れた所に部屋を貰う。仕事がしやすいように、より政治の場に近い所を賜るのだ。


「マライム殿下、今回の騒動に当たり貴方様の王位継承ポイントを九百九十九ポイント引かせていただきます」


 私の言葉を聞いたマライム殿下が呆然と私を見て来る。

 いや、視界に私は入ってはいないだろう。

 この国は実力重視の国。

 しかし身分も大事にしている。

 その結果、王位継承権を持つ子供たちに王位継承ポイントを着けた。一定の年齢になった王族の公務から日常生活までを審査し、ポイントを着けて行くのだ。

 王妃の子で、第一王子であれば産まれた時から百ポイント着いており一歩リードする事ができる。

 また、公務に着く年齢も最初の為、大抵第一王子が王位を継いで来た。

 そのリード分のポイントが零どころか一気にマイナスになってしまったのだ。


「……何だと」


 マライム殿下は放心から何とか回復し、掠れた声でそう呟いた。


「詳細は公務をサボった事がマイナス三百三十三ポイント、国庫のお金を勝手に使った事マイナス三百三十三ポイント、今回の騒動を起こした事マイナス三百三十三ポイント。計マイナス九百九十九ポイントです。御理解いただけましたか?」


 マライム王子はサリアに現を抜かし公務をサボっていたのだ。その間の公務をアナスタシアが肩代わりしていた。

 更に、サリアへのプレゼントと表し国庫のお金を勝手に使ったり、予定にない貧民街への炊き出し。本来予定を組んで行うものを。

 最後に今回の騒動。上に立つ者ならば片方の意見だけ聞いていれば痛い目にも合う。それを今回マライム殿下は、信じたい方だけ信じたのだ。

 そもそもサリアと結婚したいなら、アナスタシアとシュワルツァー家謝り、婚約を解消し、王位継承権を返上すればそれで収まったのだ。

 アナスタシアはゲームの話を知っていたし、シュワルツァー公爵とてアナスタシアが認めればそれ程文句は言わないだろう。

 王位を考えれば男爵家の庶子では他の貴族が言う事を聞くまい。万が一王妃等にすれば、苦労するのはサリアだ。

 王位を継ぎたいなら、サリアを側室にすればいい。この世界は一夫多妻制なのだから。


「側室風情が王位継承ポイントを減らせる訳がない!」


 私が物思いに耽っていると、復活したマライム殿下が最後の足掻きとばかりに怒鳴って来た。

 まあ、予想済みですが。


「ではコレを」


 そう言って差し出したのは一枚の羊皮紙。


「う、嘘だ……」


 マライム殿下の声は掠れ、床に膝を着いてしまった。

 私が渡したのは公文書。王様のサインが入った物だ。

 項垂れるマライム殿下をほったらかし、手を叩いて場の集中を集める。


「皆様方、本日の午後の授業は臨時休校になります。明日は何時も通りにありますので遅れないようにして下さい」


 私の言葉に集まっていた生徒達は目を見合わせ、次第に散って行く。


「アナスタシア大丈夫ですか?」


「貴女のお陰で助かったわ」


 私はアナスタシアに確認の声をかけた。

 先程まで冷たい目をしていたアナスタシアは隠れ、朗らかな笑顔を見せてくれた。


「はー、知っていても今回の様な事が起きると堪えるわ」


「陛下もアナスタシアに申し訳ないと仰っていたわ」


 溜息を吐いたアナスタシアに世間一般的な事しか言えなかった。




 こうした一幕が終わり、王太子は第二王子が着く事になった。

 そしてサリアは修道院預かりになり、騒ぎを起こしたマライム殿下や子息達は継承権を剥奪された。


「これで乙女ゲームは終わり、自由に動けるわ」

 

 自由に動いていたけどね。




迷言は誤字ではありません。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ございましたら感想にお願いします。

短編ばかり書いているので、中編は緊張します。


修正

2.26

皮用紙→羊皮紙


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