チキチキ寒中水泳大会(神歴995年冬)
ばんははろ、EKAWARIです。
今回の話は神歴995年の2月頃の話です。
前略、天国のお母さん、いかがお過ごしでしょうか。
このあたりは元々雪の少ない地域ではありますが、先週あたりは雪が15㎝ほど積もって驚きました。
幸いにも雪は溶けて、早咲きの梅が顔を出し始めた今日この頃ですが、まあそのことは今はどうでもいいです。そう、問題は……。
「おっしゃああーー! 第一回、ドキッ☆チキチキ寒中水泳大会始めるぜーー!!」
「うおおおおーーーー!!」
「いえええーーーい!」
「しゃああーーー!」
……なんで2月に泳ごうとしてんだよ。あと、なんだその盛り上がり。ファッ○ンわけわかんねえ。
お母さん、僕は現実逃避してしまいそうです。
ていうか、ちょっと、まってくれ。本当にまってくれ。こいつらのテンションについていけない。いや、ライナス様のこれはいつも通りって言ったらそうなんですけど。いや、でも待てって、これって一体どうしたらいいと?
今朝突然ライナス様に拉致られたと思ったら、気づけばアヴェンナ村に連れてこられて、タオル一枚渡されて、いきなりこれなんですけど。ていうかなんだよチキチキ寒中水泳大会って。
え? 何、ちょ、泳ぐの? もしかしてマジに泳ぐの? 雪降ってないとはいえ、何これ、こんなキチガイじみたイベントに参加しろってのか、そうなのか。ファ○ク、ふざけんな畜生め!、この寒空の中? ざけんな、クソったれ! 泳ぐにしても季節くらい考えやがれ!
しかしそんな僕の恨みに満ちた視線に気づく節すら全くなく、ライナス様は相変わらずノリノリで壇上に上がったまま司会を続けていた。……殺意沸くなあ、おい。
「いよーーーっし! んじゃルールを説明するぜ! 参加者はそこの桜通河の向こう岸まで泳ぎ、岸に手をつけた後、そのままこちら側に戻ってくる。その速さを競い、見事一位を取ったものには、優勝賞品として、こっちの特大カボチャをプレゼントだーーー!」
「「うううおおおおおーーー!!」」
なんでアンタらそんなにノリいいんだよ。アヴェンナ村の住人はどうなってやがんだ。
そんなことを胸中で突っ込みつつ、僕は半分現実逃避するようにライナス様が指を向ける先に目線をやった。
そこには温厚そうな魔族の青年と、青年の隣に鎮座する優勝賞品の巨大カボチャがいて……って、デッカ!? なんだ、あれ、6メートルはあるんじゃないのか、どうやって作ったんだよコレ。いや、マジでどうなってやがんですか、コレ!? 特大カボチャとか可愛いもんじゃねえだろ。オバケカボチャの間違いだろ、コレ!
そんなことを思っていると、僕の視線に気づいたのか、魔族の青年は、にっこり。
「頑張りました」
といって微笑んだ。
え!? これ、頑張ってなんとかなるもんなの!? ファ○ク、魔族の世界は奇想天外です。
そんなやりとりを僕たちが繰り広げている間にもライナス様の説明は続く。
「そして、見事、ドベの「残念でしたDE賞」に輝いた奴は、罰ゲームとして、これ、俺様がここ10年ほど前に発見した新植物「ワサビ」の練りおろしを茶碗一杯分摂取の刑だ!」
……ん? わさび?
「魔王様、しつもーん。そのワサビってなんなんですかー」
聞き慣れない単語に思わず首をかしげていると、同じように思った奴がいたらしい。アヴェンナ村の住人がその罰ゲームに関わっているというその件の植物について質問をした。それに対し、ライナス様は、にやりと笑うと「ふっふっふ、そいつは食ってのお楽しみだ。くっくっく」とかどこか悪役じみた声を立てつつ言った。なんでしょう、悪い予感がします。
「んじゃあ、栄えあるゲーム参加者について紹介するぜ! 最初の3人はアヴェンナ村サイドからだ!エントリーナンバー1番、土木作業はお手の物! 実は素潜り超得意なナイスガイ、レイニック25歳だーーー!」
「きゃー、レイ頑張って-!」
「他の参加者なんてぶっ放せーーー!」
そういって、村人の拍手と声援の中顔を出したのは、日焼けした顔に爽やかな白い歯がまぶしい、四角顔のがっちりした体格の村人だった。ていうか、ムキムキだな、おい。
「んでもって、エントリーナンバー2は、なんと最長齢の63歳! まだまだ若い者には負けぬと豪語する山の男、ラシェットじいさんだー!!」
「ふぉふぉふぉ、腕がなるぞい」
「誰だー、じいさんを登録させたやつはー!」
「じいさんひっこめー!」
「ちょ、じいちゃんやめてよね、溺死したらどうすんのよ!」
……すげえブーイングだな、ファ○ク。まあ、気持ちわかりますけどね、出てきたのはどうみてもよぼよぼい爺さんだし、身長なんて下手すると160㎝ないんじゃねえのってくらい低いし、下手すると河底にこれ足届かないんじゃないですかねえ。
ていうか、どう考えても足つかないですよね。この時期のリーベェィラ河の水深って165~170㎝くらいだって聞いたことありますし。増水した時はこれが倍以上にふくれあがるらしいけど。
まあ、それおいといても、2月に泳ごうとしている時点で尋常じゃないけどな?
「そしてエントリーナンバー3は、今大会きっての最年少、若干16歳とは思えぬ長身ガッシリボディのケーニィくんだー! ってマジで背たっか! くそ、羨ましいなんて言わねえぞ、俺は!」
って、言ってるも同然じゃないですか。
「優勝は俺がもらう!」
「きゃー、ケーニィ-!」
「ま、うちの息子の優勝にこれは決定だな!」
「ふはははは、がんばれよ、坊主。まあ、オレサマにはかなわないがな」
「えー、きもいし、ひっこめって感じ-」
なんて感じで賛否両論の評価だった。ていうかレイニック、僕と同い年のクセに一人称がオレサマとかなんかの病気か。
因みにケーニィは、ライナス様が長身ガッシリボディと評しただけあって、マジでがっしりしてた。逆三角形体型で、身長は2メートル近くある。ていうかこの歳でこの身長って末恐ろしいガキですね。
ただし、顔は愛嬌はあるような気はしますが、所謂キモメンといわれる類の顔立ちっていうか、美形から最もほど遠い顔立ちしているため、女子受けは悪いようです。まあ、十中八九さっきから聞こえるブーイングの原因はこれでしょう。
僕としてはカエルみたいで寧ろ親近感を覚える顔なんですが、まあ仕方ないですよね。
え? 最初に黄色い声援をケーニィーに送った女性がいるじゃないかって? いや、あれ多分ケーニィーの母親ですよ。眉毛の形よく似ているし、母親にとってはどんなツラしてようが息子は可愛いんでしょう。きっとそういうことです。
「そして、エントリーナンバー4は、魔族サイドから。巨大カボチャの製造者、野菜作りのエキスパート、若干59歳の若き草の才児、菜園のルッソ!」
そういって、前に出てきたのは、先ほどカボチャの隣にいた温厚そうな魔族の青年だった。
「どうも、ライナス様配下のルッソと申します。皆様、宜しくお願いします」
そういってぺこりと頭を下げる姿は、こういう大会からもっとも縁遠そうな雰囲気なんですが、野菜作りのエキスパートが水泳大会に参加とかちょっと意味がわかりません。
ていうか、体型とか顔もそうなんですが、全体的にふっくらしている感じとか運動とは如何にも無縁そうなんですが……え? 大丈夫なんですか、これ。
いや、農家が体力仕事なのは僕自身己の経験で知っては居ますが、魔法を使える魔族が人間と同じ条件で畑仕事しているとは限りませんし。
うーん、運動できそうには全く見えないんですが。なんていうか二の腕とか腹とかプニプニしてそうっていうか……いやいや、いくら魔族とはいえ、大丈夫なんですか、この人選。
「それは当然、わざとライナス様はそういうひとを選んだから」
と、そんな疑問に答えるように、丁度良いタイミングで聞き覚えのある少女の声が真後ろから聞こえてきて……。
「って、サラいたんですか!?」
「いた。気づかなかった?」
ええ、気づきませんでしたよ。ずっとライナス様の後ろにいると思っていましたとも。すみませんね。
「ていうか、そういうひとを選んだからってどういうことです?」
「そのままの意味。運動性能の高い魔族を入れると公平性に欠けるから、それほど泳ぎが得意じゃない人を選んだの」
ああ、そう。って、ん?
「なら最初っから魔族を入れなきゃいいんじゃないですか?」
「駄目。アヴェンナ村の住人だけを選手に選んだら、絶対に誰かの手に賞品が渡るって向こうは思うでしょ? それじゃあ競争心が高まらないから」
「つまり、賞品が手に入らない場合もあるから、全力出せってことですか」
理解した。確かに言われてみればそれはとてもライナス様らしい提案だった。ライナス様は祭りも遊びも何事も全力で取り組んだり、取り込ませることが好きだ。それは、普段魔王として色々なものを制御しなきゃいけないことに対する反発だったのかもしれないが、そうだ。だから緊張感という名のスパイスとして魔族の選手を用意したのだろう。
「そういうこと。大変だろうけど貴方も頑張ってね」
ん?
「聞いてないの? 貴方も選手よ?」
「…………だ。以上の5人が今大会の参加者となる。試合開始は今から15分後だ。選手はそれまでにリーベェィラ河に来るようにな! 以上、解散!」
って、聞き逃してたーーー!?
いや、言われなくてもそんな気してましたけどね!? 予想はついてましたけどね!? やっぱりか、やっぱり僕を勝手に選手にするつもりで連れてきてやがったのか、あの野郎! うおおお、どうすんだよ、畜生め! うごごごご。
てか、最大の難問があるじゃねえか。
「おーい、相棒どうしたよ。そんなとこでぼーとしてよ。おめえも選手なんだから移動しねえと」
そんな風に頭を抱えている僕の気持ちも知らず、ことの大元凶たる当代魔王様は、呑気そうにんなこと言いながら近づいてきた。うわ、すっげえ殴りてえ! ていうか僕が魔族の血引いているせいなのか知らないけど、ライナス様を殴れないことがすごい憎いです。(注:魔族は魔王を害することが出来ません)
くそ、殴りたくても殴れねえなんてフラストレーションたまる。いや、こんな時こそ我慢だ、僕。大人だ、大人になるんだ!
深呼吸して、よし。
「あのですね、ライナス様」
「ん? なんだ」
「勝手にエントリーしてくれやがったことについては言いてえことが山ほどありますが、とりあえず今はそれを横に置いときまして、重大なことがあるんですが」
「ん?」
あーあ、本当殴れねえかな、こいつ。
「僕、泳いだことないんですけど」
「え?」
ヤバイ、本気で驚いたって風情なとこが凄いむかつく。
「マジで?」
「生憎、うちの村の近くにゃあ泳げるほどでかい川もなけりゃあ、海もねえのでね。ていうか、この環境で育った人間が泳げると思う方が大間違いですよ」
言葉遣いだけみたら僕にしては穏やかではありますが、その実青筋立てた笑顔を浮かべつつの発言であるあたり、怒りを隠し切れていないですが、まあ隠す気もないのでいいのです。
「えー? マジでか。ていうか、此処そんなにお前んとこから遠くねえだろ。なのに、マジで泳いだことねえってのか!?」
「アヴェンナ村が近所になったのは、6年前の地殻変動からだってんですよ、くそったれ! それ以前は遠いわ! 大体、近いつっても、アンタの翼で片道2、30分ってだけで、徒歩だと充分遠いわ! わざわざ泳ぎに来るような距離じゃないっての」
因みにうちの村端からアヴェンナ村までの距離は約15㎞くらい離れていたりする。まあ、徒歩で4時間も歩けば着くので、近所と言えば近所だ。……わざわざ泳ぎに行くほど近くじゃねえけどな。
「むむ、そうか。しかしなー、既にオマエが出ること言っちまったし、困ったな-」
「だ・か・ら、そういうのは勝手にエントリーさせる前に本人に事前確認しろってんですよ、クソッタレ」
そう恨みがましくじと目で言う僕に対し、ライナス様の反応は相変わらずどこか呑気だ。それに苛つく僕を前に、今まで黙って成り行きを見守っていたサラは、小さく手を挙げて「だったらこうしたらどうですか?」と言い出した。
「逆ハンデとして、彼だけ河の向こう岸からスタートしては? 幸い河幅のわりにリーベェィラ河はそれほど水深が深くありませんし、どうしても泳げない時はつま先立ちで歩いて行けば、彼の背丈なら溺れることはないかと」
「おお、ナイスアイデア。でかした、サラ」
ぬおお、なんて余計なことを!? このまま辞退する予定だったのに。
とはいえ、どうせ出なきゃいけないというのなら、半分になるだけマシといえばマシである。なにせ、リーベェィラ河の河幅は平均して約30メートル。このうち、河瀬からそれぞれ3~5メートルくらいは浅くて泳げるほど深くはないため、そのあたりは歩くしかないが、基本的に泳ぐ分としては片道約20メートル強くらいなのである。つまり、他のやつが40メートル泳がないといけないのに対し、僕はその半分でいいわけであり、これはでかいアドバンテージだ。
……まあ、泳いだ経験皆無なので余裕とは言えないが。
「とりあえず、わたしの翼で彼を河向こうまで運ばせていただきます」
「ああ、頼むぜ」
なんて会話を目の前で繰り広げる主従。ていうか見事に僕本人の意志確認スルーしてんですけど、僕には拒否権などないとでもいう気か。思わずため息をついた。
そんな僕に向かってライナス様はくるりと振り返り、にやりと笑うと僕の肩に手を置き、陽気にこんなことを言う。
「とりあえず、負けんなよ。こんだけハンデやって最下位とかは流石にはずいぜ?」
「わかってますよ」
ていうか、流石に63歳の爺さんとかも参加していますし、最下位はないと思う。……無い、よな?
「んじゃ、またあとでな」
そうして僕とサラは先に会場? であるリーベェィラ河の向こう岸に向かったわけですが……。
「あの、重くないですか?」
「平気」
現在、僕はサラに抱きかかえられてふよふよと空中にいます。
進む速度と言えばゆっくり歩きの人間と変わらないくらいのスピードで、なにより見た目自分より年下のちっちゃな女の子に抱きかかえられているという絵面がなんとも恥ずかしい&情けない姿です。
あー、サラの翼って蝶の羽みたいで結構綺麗だったんだなーとか、やっぱ女の子って良いにおいするなーとか現実逃避して気を逸らすのもいい加減限界です。
「えーと、サラは大会には出ないんですか?」
「わたしの裸、見たいの?」
「滅相もございません!!」
ぐは、何を言ってんじゃ僕は。選択肢間違えた。そうだよ、なんで忘れてたんだ。泳ぐ時や水浴びするときは裸になりましょうなんて昔から言われていることじゃないですか。ヤベエ、これもしかしてセクハラ発言だった? というか、もしかしなくてもセクハラ? セクハラなんですか? いやいや、僕幼女趣味はないですよ!? 15歳未満はお断りです……じゃなかった、彼女僕より年上じゃん。じゃなくてああもう。
「安心して、貴方が小児愛好者だなんて思ってないから」
「ですよねー」
ああ、良かった。誤解されてなかった。
「貴方はただの面食い両刀なのよね?」
「って、ちがーーーっ!!」
別の誤解されてました。
「え? 違うの?」
「NO、誤解です、違います。まったくもって正しくないのです。綺麗じゃないか綺麗かだったら、そりゃ綺麗処のほうがいいですけど、綺麗だったらなんでも許されると思ったら大間違いなのです。そして僕に男色の気はありません! よって両刀とは誤解もいいところです」
「そう? 貴方はライナス様の顔好きっぽいからそうなのかと思ったけど」
「いやいやいや、女だったらそりゃ好みド直球の顔してますけど、男にそれありえませんから! あとライナス様のあの性格で女だったらそれはそれで嫌すぎます! もしあんな性格の女がいたらどんなに綺麗だろうとそれはそれでお断りですよ!?」
ていうかライナス様の性格まんまの美女と付き合うくらいなら、いっそサラのほうが付き合いたいくらいなんですけど。いや、僕に幼女趣味はないので、あと10年か15年くらい育ったらですよ? まあ、どちらにせよサラが僕を選ぶとは思えませんけどね。
「そう。男の人って難しいわね」
そういって神妙にサラは神妙に頷き、河瀬へと僕を降ろした。
「因みにわたしが出ないのはね」
ん? 特に脈絡のない(と思う)ことを言い出したサラに一瞬首をかしげる僕であったが、1秒ほど置いたあと、それが僕が彼女に尋ねた「大会に出ないのか」という疑問への回答だと気づき、彼女のほうへと顔を向ける。
「わたしが戦闘タイプの魔族だからよ」
その言葉に驚いた。僕にとって、サラといえばいつもライナス様の後ろに控えている侍女の女の子といったイメージなわけだが、料理だって得意だし、活発どころかお淑やかで控えめな女の子だなと思ってたくらいなので、まさか戦闘タイプだとは思わなかった。
「わたしの属性は光と風と土だから、水は持ってないけど、それでも魔力はそれなりに強いわ。魔族は一定以上の魔力があるとそれが身体機能のブーストに回るから、わたしが出るとゲームバランスは崩れるの。だからどちらにせよ、参加は無理ね」
そう淡々と彼女は言葉を締めくくった。
……もしかして、彼女よりも明らかに大きく重い僕を抱き上げて運べたのも、彼女が戦闘タイプの魔族だったからなのだろうか。てっきり重力属性でももってて、魔法で僕の体重を軽くして運んでるのかと思ってましたよ。
なんか申し訳なくて顔を上げられないんですけど。
そんなことを思ううちに時間が近づいたのか、騒がし声が向こう岸に響いた。
「さあさあさあ、はじまりました、チキチキ寒中水泳大会! 優勝は誰だ! ていうか、いっそのこと俺も加わりてえなあ、おい!」
「駄目です、ライナス様が加わったらゲームバランス崩れます」
耳をこらせば、そんなやりとりが耳に飛び込んできた。因みにサラはライナス様が向こう岸に現れたと同時に向こうまで飛んで言ったので、上記の台詞はサラのものだ。
ていうか、いつまでも裸で待機していると風邪ひきそうなのでさっさと話進めてくれませんかね?
因みに小声で「誰に賭けた?」「そりゃレイニックだろ」「いやいや、ケーニィもあなどれんぞ」「とりあえずじいさんとあの向こう岸にいるやつはねえわ」「ていうか、あの地味顔のやつなんなんだろうな」とか言ってるの聞こえてんですけど。
つうか地味顔で悪かったな。
まあ、とりあえず会話聞くにあたり、僕に逆ハンデ与えられていることは既に説明された後っぽいが。
「んじゃ誰が勝っても負けても恨みっこ無し! チキチキ寒中水泳大会レディー……GO!!」
そのスタートの声を聞くと共に僕は裸の上に一枚だけ巻いていた毛布を地面に落とした。うわ、寒っ!
ええい、こうなれば一刻も早くこの馬鹿げたイベント終わらせてやる! それを目標に僕は、そろりと片足をつけた。む? 思ったほどは冷たくないというか、まだ河の外の方が寒い? そんなことを思いつつも寒いことには変わりはないんだが。とりあえず歩を進めるが、なんていうか水って意外と足にひっかかるというか中々進まない。
とりあえず5メートルほど頑張って歩いたが、水の抵抗これ結構辛いな、おい。寒いのも充分辛いが。
因みに今の僕に他の選手を見る余裕なんてない。自分のことだけで精一杯だが、なんていうかどんどん水音が近づいてきてるのはわかる。流石地元民というべきなのか、とっくに歩きから泳ぎに変わっているようだ。
僕はといえば、ようやく泳ぐ段階に入ろうとしているわけだが……どうやって泳げばいいんだよ。とりあえずばしゃばしゃと手で水をかき分けて進むが中々進まない。と思っているうちに横誰かすり抜けたんですけど!? 早っ!? え? もしかしてこのままじゃ追いつかれるまですぐじゃねえ? 慌てて僕はスピードをあげようとバタ足をはじめたが、しかしここで思わぬアクシデントが……!
み、右足攣ったーーー!
ていうか、痛い。なにこれ痛い。予想外に痛い。
つうか、足攣るなんて初めての経験なんですけど!? なにこれ、こんな痛いもんなんですか、これ!?
ちょ、いや、マジで冗談抜きで痛い痛い痛い、いたたたたたっ。ぐおおお、なんじゃこりゃああ。
でも、泣きません、だって男の子だもん。なんてキモい冗談はおいといて。
どっちにしろ凄い痛いんですが、このまま進むしかありません。なにせ、現在中間地点、水深が1番深いところです。引き返せないなら進むしかない!
だが、足痛い。マジ痛い。なんか股の内側も痛い。
ええい、こんなもん気合いでなんとか、なんとか……あれ? 僕ひょっとして溺れかけてね? ていうかさっきからもしかしてバシャバシャやっているだけで全然進んでなくね?
ぎゃあああああああ。
そんなことを思ううちに気が遠くなっていくのであった。
そう、「まさかのダークホースが優勝!?」みたいな人々の喧噪を最後に耳に入れて、がくり。
……僕が目を覚ましたのは、大会が終了した4時間後のことだった。なんていうか、既に夕方になっており、みんなわいわい言ってた。
どうやら、なんと優勝したのはあのよぼよぼじいさんことラシェットじいさんらしい。ぶっちぎりの一位だったそうで、多くの村人が嘆き悲しみ、じいさんの息子嫁だけがほくほくと大もうけしたとか。……女ってこええ。んでもって、あまりのぶっちぎりっぷりに感動した優勝候補だった2人組が弟子入りしたいとラシェットじじいの元へ詰めかけたとかなんとか。カオスすぎる。
ちなみに優勝賞品のオバケカボチャはカボチャシチューに化けて村人みんなに配られている。なんでもラシェットじじいは「賞品は天下の回り物。わしら家族だけで味わうのはいかんぞい」といって村人みんなで食べれるものにと希望したんだそうだ。イイ話だなー。
そしてサラとあの魔族の青年……ルッソだっけ? とライナス様の手によって巨大鍋が用意され、あのカボチャは見事カボチャシチューへと化けたわけだ。
とはいえ、元々規格外のでかさのカボチャだったもんだから、シチューにいれるぶんだけで3分の2使ったらしいが、まだ3分の1がそのまま残っているし、カボチャシチューにしても、村人全員食ってもまだまだ余っているあたり、やっぱあのカボチャは異常じゃないかと思う。
ちなみに余った3分の1カボチャは日干しして保存食に加工するんだそうだ。まあ、それが真っ当な使い道ですよね。
「おーい、起きてるか-?」
さて……現実逃避を兼ねた状況説明はここまでにするしかないみたいです。
「……起きてますよ。ええ、起きてますとも、くそったれ」
「そうか、じゃあ、食え。罰ゲームの茶碗盛りワサビをさあ一気にいけ!」
そう現在僕は、壇上にあげられて、目の前になんか緑色でつーんとする摺り下ろした何かを入れた茶碗の前に座らされてます。
あのあと、溺れた僕はすぐさまサラとライナス様チームによって助けられ、起きる直前まで介抱されていたわけですが、たとえ溺れたんだろうと失格は失格というわけで、最後まで泳げなかったとか関係なく、強制的に僕が敗者となったのでした。
そして今、周囲から感じる視線は、未知の植物を食そうとしている僕への期待と不安の籠もった視線。
うん、ぶっちゃけやりにくい。この衆目の中で食えと。
「ほら、一気! 一気! 一気!」
そうライナス様が声をあげると、周囲もそれに呼応するように「一気、一気」と一気コールをしはじめた。ええい、どこにも逃げ道はないというのか。
仕方ない。僕は覚悟を決めると、その緑色の物体を一気に喉に搔き込み……!?
「っ!? @&%$#!?」
言葉にならぬ叫びを上げると同時にむせた。
ぐあああああああああ!? なんじゃこりゃあああ!?? 辛い!? いや、痛い!? これは舌が、いや、目が痛い痛い、喉、鼻、うごぁぉろおおおおお!?
水、水、いた、うご、ぶごおおおお!
尋常じゃない、何これヘルプミー!
「ほらよ」
そう思っているうちに手に何かコップが当たった。やった、水か、そう思って中身も確認せずに喉に流し込む。だが……。
「ぶーーーーー!?」
思わずその中身を吐き出した。
ていうか、なんだこりゃ!? 辛!? ていうか、熱いというか痛い!? やばい、さっきのワサビといい、舌ひりひりしすぎて壊れそう。泣いてもいいですかって、レベル通りこして生理的な涙とまんねえ。
「おいおい。吐き出すったぁ失礼なやつだな、ええ? 折角俺が作った唐辛子ジュースを何すんだよ」
って、唐辛子ジュースだって!? なんつうもの飲ませてくれやがんだ、こん畜生は!
「ライナス様、それは流石に可哀想すぎます」
サラ、ナイス擁護。ただし、どうせなら僕があれを口にする前に止めて欲しかった……!
ていうか、口痛すぎて喋ることすら辛いってどうよ? ワサビとやらも唐辛子ジュースも辛いなんてレベルじゃねえぞ。ていうか、ワサビって香辛料の辛さとは全然違うタイプの辛さ感じたんですが、なんですかこれ。辛いつうかマジ痛い。わけわからねえんですけど。
「まあ、しゃあねえなあ。とりあえずお疲れさん。ほら、カボチャスープ、お前の分だ」
そういって今度はライナス様はカボチャシチューを僕に渡してきたのだが。口の中麻痺しすぎてぶっちゃけ味は全くわからなかった。
「というわけで、以上をもってINアヴェンナ村、第一回ドキッ☆チキチキ寒中水泳大会は終了だ。んじゃ次は花祭りで会おうぜ、またな!」
そういってライナス様は大会を終わらせた。
そして僕はその日の晩、人生初、見事に風邪をひいたのであった。
「よぉ、来年また寒中水泳大会しようぜ」
「絶対嫌です」
そんな冬の思い出。
了
御読了ありがとうございます。
因みに主人公が足攣った原因は準備体操してなかったのと冬に泳いだことの二重のことが原因です。皆様、泳ぐ時はきちんと準備体操しましょう。




