第45話 城内でのごたごた
城に戻ってからもケイオスはずっとリーナの側に張り付いていた。
失ったマリーンの穴を埋めるように、その執着は日に日に強くなり、さすがのリーナも息苦しさを覚えるようになっていた。
そんなある日、珍しくリーナは公務で城を空けることになり、ケイオスは一人で魔術師棟に向かって歩いていた。
魔術師棟は城の端の方にあるため、人気の少ない通路を歩いているとどこからか男2人の話し声が聞こえてきた。
「・・・陛下・・・・」
「ラチェット伯爵令嬢・・・」
通り過ぎようとしたが、リーナの名前が聞こえたため立ち止まり耳をすませた。
「ラチェット伯爵令嬢は、最近オストールの文官と懇意にされておられるようです。それを使って身持ちの悪い娘だという噂を流してみてはどうでしょう?」
「うむ、そうだな。伯爵令嬢ごときが王妃になるなどおこがましい。ジェラルディ公爵令嬢はすでに婚約が決まっているし、うちのステラこそが王妃に相応しい。」
「そうです。クレス侯爵。ステラ様が王妃になられた暁には・・・」
リーナの名前に思わず聴力強化魔術で男たちの会話を拾ってしまったが、思わぬ内容を聞くことが出来た。
どこの国にも、この手の強欲な輩がいるものだな。
それにしても私とリーナが噂になっているのか。
なるほど、これは使えるかもしれない。
ケイオスは魔術師棟に行くのを止め踵を返した。
※
公務のため馬車で移動している最中、ウィルに声をかけられた。
「リーナ。疲れてるな。」
「気を付けていたつもりだったけど分かっちゃう?」
「原因はケイオス殿か?」
リーナは苦笑して頷いた。
「先生を失った悲しみを弟子だった私で紛らわせていらっしゃるのかと思って一生懸命相手をしていたんだけど、あの空気を読まない独特の自己中心さにずっと振り回されてると流石に・・・」
ウィルも気の毒そうな表情を浮かべた。
傍から見ているだけでも思うところがあるのだろう。
「先生も昔おっしゃっていたわ。ずっと一緒にいると疲れるから、たまに会うくらいが丁度いいって。」
「ローランド殿下から伺ったんだが、昔オストールで彼の機嫌を損ねた時に大豪雨が起こり町が一つ流されたことがあったらしい。味方につけると頼もしいが、敵に回すとこれほど厄介な者はいない。オストールの城内では彼を怒らせてはならないとの不文律があるそうだ。」
「大豪雨・・・」
「それが本当かどうかは分からないけど、似たようなことはあったんだろうな。でも、まあオストールの一行が滞在するのはあと1週間くらいだ。リーナもその間だけ頑張ってくれ。」
「わかった。頑張るわ。」
後一週間くらいなら耐えられる。
リーナは笑顔で頷いたのだった。




