第33話 国王の婚約者
成人の儀から3か月。
ラチェット伯爵令嬢は国王の婚約者として城の内外に公表されたものの、全員手放しでそれを受け入れてくれているわけではなかった。
ジェラルディ公爵の派閥の人たちからは睨まれているし、リーナより一つ年下の娘を持つクレス侯爵からのちくちくした嫌味も結構こたえることがあった。
アイシャ公爵令嬢であれば仕方がないと思っていたようだが、地味な伯爵令嬢で正妃が務まるのなら自分の娘でもいいのではないかと言いだしたのだ。
黒い噂のあるクレス侯爵は、ありもしない事実を捏造しそうな雰囲気さえあり、正直少し怖く思う時もある。
慣れない正妃教育と苦手な社交と、自分を勝手に敵視してくる者たちからの攻撃にリーナは少々疲れ気味だった。
新しく学ばなければいけないことが多いリーナは、ウィルの希望もあって2か月前から城内に部屋をもらい、そこで生活をしていた。
流石に婚姻前のため部屋は分かれているが、2人の時間は取りやすくなった。
リーナが王城にある自室で、今日学んだ作法の復習をしているとウィルが部屋に入って来た。
「リーナ。遅くなってごめん。」
「お疲れ様。」
ウィルはリーナを抱きしめキスをしてきた。
そして真っ赤になったリーナを愛おしそうに見つめた。
「早く俺に慣れてくれ。3か月後には夫婦になるんだから。」
ウィルが結婚適齢期を超えていることや早くリーナの地位を固めてしまいたいということもあり、国王の結婚としては異例のピッチで式の準備が進められていたのだ。
「そういえば、確かに今日はいつもより遅かったわね。」
恥ずかしさを隠すようにリーナが話題を変えてきた。
「ああ、来週、突然オストール帝国の皇太子殿下がこの国を訪れることになってな。その受け入れのための段取りやらで急に仕事が入ったんだ。」
「来週?」
オストール帝国はシュタインマルク王国から東側に幾つか国をはさむ位置にある遠方の国だが、この大陸で最も大きい強国である。
オストール帝国の皇太子がこの国に来訪することは以前から決まっていたが1か月以上先の予定だったはずだ。
「皇太子の間に勉強のため色々な国を外遊されているみたいなんだけど、先日の大豪雨で南方の国々の橋が幾つか落ちたらしいんだ。南周りでうちに来る予定だったのが、急遽北回りに変更することになったと、今日オストールの領事館から連絡が入ったんだ。」
シュタインマルク王国の南側には小さな国が幾つか並んでいる。
それらを一つずつ抜けて来ようとすれば確かに日数を食っただろう。
「それにしても1週間後なんてすごく急なのね。」
リーナの言葉にウィルはうんざりしたようにため息をついた。
「オストールは大国だし、皇太子をお迎えするにあたって最大限のもてなしをしたかったんだが、この日数ではなかなか厳しくてな・・・。」
「急な変更だし、それは先方もご了解して下さってるでしょう?」
「それはそうなんだが、短期間でもどれほどもてなしが出来るかで、うちがオストールをどのように思っているかが伝わるだろう?大陸一の強国だ。悪い印象は持たれたくない。」
「まあ、いろいろ大変ねえ。」
「リーナ。疲れている俺を癒してくれ。」
ウィルはリーナをギュウっと抱きしめた。
リーナもおずおずとウィルの背中に両手を回し、彼の胸に頭を寄せた。
「ウィル。大好き。忙しくても身体には気を付けてね。」
ウィルは右手で自分の口元を覆った。
「ヤバい。リーナが可愛すぎて死にそう・・・」
「もう、何言ってるのよ。」
こうして国王とその婚約者の甘い夜は更けていったのだった。




