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次なる遠出

 冒険者ギルドの二階。

 ルカは久しぶりに村長からの呼び出しを受け、出向いていた。


「呼び出して悪いな。

 足の調子はどうだ?」

「はい、おかげ様で違和感もなくなってきました。

 もう巡回や他の仕事も問題なさそうです」


 恒例の世間話、軽いジャブだ。

 わざわざ呼び出したからには、それなり以上の用件があるに決まっている。

 以前のルカなら、来たる本題におっかなびっくり警戒していた場面だ。

 だが今は違う。

 覚悟は決まっている、何でも来い。

 出来れば常識的な範囲で。


「身構えんでいい、今回は頼み事があって呼んだわけじゃない。

 お前さんが最近魔術のことであれこれしてるって聞いてな。

 近い内にルクシャーナって街に馬車を出すんだが、その気があればお前さんもついてったらどうだと思ってよ」

「ルクシャーナ……

 えーっと、どういうとこでしたっけ」


 ルカも最近聞いた記憶があるが、何処で聞いた話だったかが出てこない。


「魔術学校がある街だな」


 その一言で思い出した。

 教会の座学だ。

 魔術が使えるようになった子供は、基本的にそこに進学するという話だった。


「魔術師ギルドも併設されてて、元々交流を予定してたんだ。

 もう少し調整に時間を掛ける予定だったんだが、双方で時期を早めたい事情が出てきた。

 そんでこっちから出向いて詳細な交渉をすることになった」


 これは村長の善意だろう、とルカは理解した。

 彼が怪我を負った件について、村長たちは負い目を感じている節があった。

 そのため、魔術の修行で根を詰めている自分への刺激と気分転換を目的としての提案なのだ、と。


「待っててもその内魔術師はこの村に来るから直接教えを乞えばいいが、そいつがハズレって場合もある。

 わざわざ来てもらって即チェンジってのは難しいわけだ。

 なら直接行って見といた方が足しになるかと思ってな」

「なるほど、お気遣いありがとうございます」


 一般的な魔術師の練習、修行風景を見ることができれば進むべき方向が見えてくるかもしれない。

 もしくは、魔術に関する本等を入手できれば参考になるだろう。


「そうですね、問題なければ同行させてもらえると嬉しいです」

「わかった、話を通しとく。

 そのまま魔術学校に入学してしばらく勉強してきてもいいぞ」

「そんなお金ないです……」


 だろうな、と村長は豪快に笑う。

 魔術学校というのは、十歳未満で魔術を発現させた子供は学費が無料だという。

 子供の魔術行使に伴う危険の抑制、および学習の経過観察、研究のためという話だ。

 それ以外の人間が入学するには、相応の学費を納める必要がある。


「交渉役は誰になるんです?

 村長自ら?」

「儂は色々あってここから離れるわけにもいかん。

 今回行ってもらうのはアンディだ」


 そう言われてルカの頭に浮かんだのは、親しみやすいが頼りない中年の笑顔。

 ルカのその曖昧な表情を見て、村長は苦笑した。


「お前さんの気持ちもわかる。

 だが、ああ見えてあいつは元Sランクの冒険者だ。

 交渉もお手の物だぞ」

「……えっ、Sランク!?」


 衝撃の事実に頭が追い付かない。

 これまで見聞きしてきた腕利きの冒険者でも、Aランク止まりだった。

 それなのに、荒事の臭いを感じさせないあの人物がSランクだったとは。


「ちょいと誤解してそうだな。

 Sランクってのは戦闘力だけが評価されて成るもんじゃない。

 むしろ色んな権限が付与されて重要な依頼を振られる分、社会的な立ち回り方が重要視される。

 ある意味冒険者から逸脱したわけわからん存在だが。

 とにかく、実績と交渉力は折り紙付きだ」


 そう言われると、何となく腑に落ちる。

 彼が商人と交渉している場面をよく見かけるし、話術も巧みな方な気がする。

 興味のある事を一方的に喋るとき以外は。

 ……恐らくオンオフは切り替えられるはずだ。


「まあ安心しました。

 今回は物理的に危険な要素はないんですね」

「いや、最近向こうで魔獣の発生例がぽつぽつ出てきてる状況でな。

 それが交流の話が早まっている原因の一つだ」

「それ早く言ってくださいよ……」


 あちらの魔獣退治に関わる必要はないと付け加えられたが。

 トラブルに巻き込まれそうな予感がしてならない。




「こんにちは、ベックさん。

 積み込み手伝いますよ。

 ついでで乗せてもらう身なんで」

「ん?

 ああ、ルカ君か。

 足はもういいのかい?」


 ルクシャーナに出発する日が近づく中。

 馬車の荷造りをするベックを見かけ、ルカが声を掛ける。

 アランダとルクシャーナを行き来するような馬車は少ないため、村の馬車を出す手筈になっていた。


「バッチリです」


 足の調子を聞かれて細腕で力こぶを作る謎のアピール。


「アッハハ。

 じゃあお言葉に甘えて手伝ってもらおうかな」


 魔術の修行に行き詰っていたルカは、力仕事や筋トレの偉大さを再確認していた。

 筋肉は裏切らない。

 問題は、ルカが筋肉の付きにくい体質だということだが。


「載っけるのは木材と鉱石ですか。

 何か特殊なものだったり?」


 荷物を馬車に運びつつ、その一つ一つを確認する。

 一見すると、どこにでもあるものと大差ないように思える。


「うん、魔力が浸透してる素材なんだよ。

 木材なんかは燃やして意識すると、魔術が使えない人でも火力をある程度調節できるんだ。

 女将さんの料理が美味しい理由の一つだね。

 鉱物の方は魔術的な力が必要だけど、加工時は柔らかく扱い、仕上げ時に硬くするみたいなことができるらしいね」

「はえー」


 アランダ周辺では新しい資源等が発見されていると言われていたが、ルカは具体例を知らなかった。

 これは一例なのだろうが、かなり特殊な使われ方をするようだ。


「これまではほとんどメニーゼフ領内に回していて、あとは直接ここにくる商人が買っていくくらいだったんだけど。

 他所にもアピールしていこうってなったんだ」


 交渉にいくだけではなく、色々と見据えて動いているらしい。

 その後も細々とした話を聞きつつ、つつがなく積み込み作業は完了した。


 ルクシャーナへの出発は近い。

 前に訪れたナバリスとは趣が大きく異なるが、大きい都市だと聞く。

 現状の打破、新しいものとの出会い。

 多少の不安材料はあるものの、ルカの期待は徐々に高まっていた。


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