行き当たりばったりの修行
ルカの足の怪我については、二週間も経つ頃には退院の許可が出た。
ただ、完全回復というわけにはいかず。
筋力の衰えも手伝い、軽い歩行にも違和感がある。
その辺りをジャックが関係者に伝えていたのか、しばらくは日課の巡回を控えるようお達しが下った。
時間に余裕が出来たため、教会の座学に参加しながら、リハビリを兼ねて村の外で魔術の修行を始める。
先日の出来事によりまたコツを掴んだのか、今まで通りの方法でも魔術の出力は上がっていた。
だが、この程度では駄目だ。
現状では動かずに意識を集中し、数秒掛けてちょっとした火と風の魔術を行使できるだけ。
以前目の当たりにしたレジーナの魔術とは、全ての面で比べるべくもない。
思えば直前の事件で、自身の足を切断したのも魔術だったのだろうか。
だとすれば、あれもレジーナのそれには及ばないが、距離、威力、精度共にかなりのものだった。
流石にそのレベルはまだまだ先の話だ。
今は一歩一歩進めていくしかない。
実戦を想定するなら、目下必要な武器は二つ。
まずは攻撃目的の、高威力の術。
余裕のある状態で使用することが想定のため、多少の溜め時間は目を瞑る。
もう一つは防御目的の、高速で発動できる術。
相手に接近された際に意表を突いて状況を有利、またはリセットできれば良く、威力は二の次。
この二つの方面で練習を始めることにする。
が、しばらく練習しても成果が上がらない。
時間を掛けて、より強く大きいイメージを描いて術を発動しても、労力に見合う出力は得られず。
走りながら単純なイメージを描いて術を発動すると、発現すら覚束ない。
失敗を繰り返す度、頭痛と眩暈が強くなっていく。
ルカはこれまで、短時間で集中的に魔術を使用したことがなかった。
その痛みが魔術の使い過ぎから来るものか、失敗による反動なのか判別できない。
挙句、苦手意識がこびり付いたからか、元の方法で発動する魔術の出力も落ちたように感じる。
思い付きの独学では厳しいのか。
だが、幸い村には高度な魔術を使える人物が何人もいる。
聞くは一時の恥、ルカは先達に教えを乞うことにする。
彼らはどうやって、その域まで達したのか。
ロザリー曰く。
「うーん、私の場合は必要に迫られて使ってる内にこうなったので。
追い詰められたりといった状況が必要なんじゃないですか?」
ジャック曰く。
「好きこそ物の上手なれ。
只管興味を持って繰り返していれば、結果は付いてきますよ」
ナーシュ曰く。
「やっぱり環境じゃないかな。
私も以前は周りからの期待や圧力に晒されながら過ごしていたからね」
レジーナ曰く。
「才能」
体系的に魔術を学んだ者はおらず、感覚的な体験談ばかりが返ってきた。
だが、本質を突いているのでは、と思うこともある。
ルカの場合も、死が間近に迫って意識を失った後、何となく『こうだ』という感触を得ていた。
では、再度同じ体験をするか?
冗談ではない。
だが、魔術を使い続けて出てくる負荷のようなもの。
あれは死の淵で感じたものに似ているような気がする。
どうしても進展がない場合は、負荷の先を覗いてみるのも選択肢の一つか。
とはいえ、そんな何の保証もできないものは最終手段。
今はもう少し試行錯誤を繰り返すことにする。
結局得られるものはないに等しく、手探り状態で魔術を行使する日々が続く。
ルカが修行を始めて二日後。
気分転換を兼ねてふらりと冒険者ギルドを訪れると、賑やかな話し声が聴こえてきた。
レジーナとミリィだ。
その眩しいような雰囲気が漂う領域に踏み込むことが出来ず、居心地悪そうに近くの椅子に座る。
時折さりげなく二人の方に視線を向けていると、ミリィに気取られてしまった。
「イヤらしい視線を感じると思ったらルカじゃん。
何、ガールズトークに混ざりたいの?」
ガールの定義とは。
否定する間もなく、レジーナもルカの方へと振り返る。
「イヤらしい視線~?
困るわねお客さん、高くつくわよ」
言いがかりはやめてほしい。
が、話したい事もあったので、難癖は聞かなかったことにしてこれ幸いと用件を告げる。
「いや、もうすぐレジーナが村から出ていくって聞いて」
そんな話が、いつの間にか耳に入っていた。
「あー、まあね。
周辺の掃除も済んで、ナーシュも肥えてきてるし。
アンディのアホも村でぷらぷら歩いてて、村は落ち着いてるでしょ。
最近は境界の奥に挑もうっていう男前の冒険者もいないし、ここにいても暇だからね。
しばらくは内側で物見遊山でもするわ」
知っていたことだが、彼女はこの村に定住しているわけではない。
定期的に村に寄り、必要に応じて依頼という形で要望に応える。
今回は長期的な村の警備を頼まれていただけ。
「その、短い間だけどお世話になりました」
「何、改まって?
しばらくしたらまたここに寄るって」
レジーナとすれば、それが日常。
村の人間にとってもそうだ。
だが、ルカは記憶喪失の件もあり、知己との別れに慣れていない。
何とも言えない喪失感を覚え、上手く言葉が出なかった。
「あんたもこの数か月で少しは見所が出てきたかもね。
もう少し男前になったら、また境界に連れてってあげる」
「それは遠慮しとく……」
その後も他愛無い会話を続け、用意があるからと、レジーナは宿へと戻って行った。
「それにしても、レジーナとアンディさんが仲悪いってほんとだったんだね」
「単に仲が悪いだけじゃないんだけどね。
愛憎っていうかなんていうか」
「アイゾー?」
「うーん、あんたにはちょっと早い話だったかもね」
ミリィはカウンターに頬杖をつきながら、小馬鹿にするように笑った。




