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冒険者捜索_3

 捜索二日目。

 三人は周囲が明るくなってから行動を開始した。

 当初は昨夜の話が重圧となってルカの足が重くなったが、レジーナのせっつきがあり、前日より少し遅い程度の速度で落ち着く。


 道中を進むごとに、旧文明の遺跡が顔を見せる頻度が上がっていく。

 半ば自然に侵食されながらも、過去の世界の技術力と豊かさを想像させる。

 似たような形で規則正しく並んだ複数の建物、倒れた細長い塔、腐食した長大な鉄の箱──

 これまでの人生で歴史の事など深く考えたことがないルカにも、好奇心が芽生えてくる。

 暇なのかルカを気遣ってなのか、時折緊張を解すようにレジーナが声を掛ける。


「遺跡で見つかるものの中で最も高く売れるのは機械、特に動作するもの。

 ただし滅多に見つからない上に、売り捌くのにクリアしなきゃいけない条件が一つあるわ。

 機械自体も重量があって嵩張るし、初心者は狙わない方がいいかもね。

 安定した狙い目は文献。

 買い手を選ぶけど軽いし良いお値段になる。

 大抵風化しかけてるから帰り道でオシャカになることも多いけど。

 後は勘に任せて金になりそうなものを持って帰れば物好きが買ってくれるわ」


 遺跡荒らしもとい、トレジャーハンターのありがたいお言葉である。

 歴史的、学術的価値に一切触れずに金銭的価値を語る辺り清々しい。

 浪漫も何もあったものではないが、参考になる話だ。




 ルカの緊張感とは裏腹に、魔獣に遭遇することなく探索を続けて昼過ぎ頃。

 疲労を感じ始めた一行に転機が訪れる。


「待った!

 ……石に反応がある」


 全員の視線が、一斉に捜索石へと向いた。

 レジーナが振っても回転させても、石は一つの方向を指し続けていた。


「まだ目的地まで七割ちょいってとこだぞ。

 こんなとこで全滅したのか?」


 ランツが疑問の声を上げる。

 彼の中では、捜索対象の冒険者たちは全滅扱いになっているようだ。


「いや……石が動いてる。

 移動してるわ」


 その事実が意味するところは──


「まさか、生きてる?

 じゃあ見失う前に声掛けないと……!」


 ──元の持ち主の生存とイコールではない。

 逸るルカをランツが手で制止する。


「持ち主とは限らねぇ。

 魔獣が冒険者ごと食って動いてるやら、他の探索者に襲われて戦利品として持ち歩いてるやら。

 油断すんな」


 後は目標と接触して帰るだけだと勇んでいたところを現実に引き戻される。


「遠くから様子見て、大丈夫そうなら俺が話しかける。

 お前らは隠れてすぐ援護できるようにしといてくれ」


 そうして三人は、捜索石の示す方向へ慎重に進み、しばらくして動く影を見つける。

 五人チームだったはずだが、見る限りは二人の男しか確認できない。

 一人は遠目に見てもわかるほど憔悴している、無精髭の男。

 もう一人は疲労こそ感じさせるものの多少は余裕がありそうな、頬に傷跡のある男。

 ルカは周囲を警戒し、近くに他の気配がないことを確認してランツに目配せをする。

 それを見て、ランツは男たちの前に姿を現して声を掛ける。


「よう」

「っ!?

 ……に、人間?」


 二人の男は酷く怯えた様子で、幽霊でも見たかのような反応をした。


「俺らはアランダ村から人探しに来てるもんだ。

 お前ら十日ちょい前に村から出て来た冒険者か?」

「え、ええ。

 私たちは──」

「た、助けてくれ!

 魔獣が追って来てるんだ!!」


 頬傷の男が返答しようとしたところを、無精髭の男が遮った。


「おっと動くな、悪いが確認が先だ。

 何人で来た?

 目的は?」


 ランツは近付こうとする男を牽制しつつ、冷ややかに質問を続ける。


「そんな問答してる場合じゃない!

 早くしないとあの化け物が──」


 忠告を聞かず取り乱し続ける男を止めるように、もう一人が横顔に拳を叩きつける。


「落ち着け!

 ……すみません、私たちは五人で魔獣狩りに来ました。

 あなたはこの石の反応を追って来てくれたんでしょう」


 そういって背嚢から例の鉱石を取り出した。

 そこまで確認すると、ランツは手を上げて待機している二人に合図を送り、隠れていた二人も姿を現す。


「魔獣に追われてるってのは本当か?

 それにしちゃ姿が見えねえが」

「はい。

 まず当初の目的地で複数の魔獣に襲われて、すぐに逃げ出しました。

 そのまま村に戻ろうと西へと進んでいたところでその魔獣に伏撃されて、三人が犠牲に。

 幸い相手の足は遅いものの執拗で、振り切れないまま現在地がわからなくなって逃げ回っている状況です」


 無精髭の男は殴られて以降黙ったまま頻りに元来た方向を気にしている。

 それとは逆に頬傷の男は比較的冷静だった。


「救助に来てくれる方は対魔獣の達人だと聞いています。

 撃退できますか?」

「そりゃ相手次第だな。

 追って来てる魔獣の特徴は?」

「人丈ほど体高の、蜥蜴のような奴です。

 鱗が異様に硬く、火を吐いてくる。

 やられた仲間の様子から察するに、牙には毒があると思います」


 実物を見ないと想像できないが、かなり大きい魔獣のようだ。


「レジーナ、いけるか?」

「こいつら限界みたいだし、少なくとも誘導はしないとでしょ。

 相手はどう?」


 ランツは何かを確認するように二人の冒険者が逃げて来た方を凝視する。


「まあ……何とかなんだろ。

 ルカ、そいつら連れて少し戻って、食料と薬品渡してやれ」

「た、戦うの!?」

「流石にそいつら連れてたら逃げ切れねえよ」

「見捨てるのも寝覚めが悪いしね。

 ま、予定より早めに帰れそうだし報酬分くらいは働くわ」

「安全なとこまで避難させたらお前も来てくれ。

 加勢の必要はねえが、乱入してきそうなのが居たら教えてくれ」


 そう言うや否や、ランツとレジーナは森の影に消えていった。

 ルカも指示の通り、冒険者を連れてもと来た道を戻り、拓けた場所で手持ちの物資を渡す。

 そして、胸の奥から滲み出る恐怖心を抑え込みながら先行した仲間の下へと走り出した。

 向かう先からは既に、腹の底まで響くような轟音が断続的に鳴り響いていた。


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