冒険者捜索 野営
道中を進んでいると、少し先に森の中には不相応なものが見えてきた。
「あれは……?」
地に沈みかけて傾いた、妙に形の整った長方形の構造物だった。
石のような素材でできており、所々に穴が空いている。
その脇には、見たことのない記号が刻まれた、金属板が埋め込まれていた。
「昔の住居らしいわ。
この手の素材のは今も形を残してるものが多いみたい。
今はもう全部解体されたけど、前は村の近くにもいくつかあったわ」
「中に何か住み着いてることもある。
一応避けて通ってくれ」
頑丈な素材で作られた旧文明の建築物は、ある程度の形を保って現代に残っていた。
奥地に行けば行くほど手付かずのものが多くなり、収穫物も期待できるという。
一方で、この付近のものは大体調査され尽くしているらしい。
午前は順調に進めていたが、さすがに接敵ゼロのままとはいかず、幾度か獣やゴブリンと遭遇した。
その都度、ランツが危なげない動きですぐに仕留める。
夕方に差し掛かる頃に野営地を選定。
火を焚き、夕食を作り終える頃には完全に夜の帳が下りていた。
「あんたら、冒険者の認識票隠しときなさい。
可能性は低いけど、明日目的の連中と鉢合わせることも考えて」
夕食の席で、レジーナが干し肉を咀嚼しながらそんなことを言った。
「なんで?」
「救助に来た奴がCランクとEランクの冒険者でしたーって、絶望ものでしょ」
救助対象はBランクとCランクの混合チームという話だったか。
確かに自分たちより下級の冒険者を見てどう思うかは想像に難くない。
「そういえばレジーナは冒険者じゃないの?」
「私はトレジャーハンター。
ま、他の仕事もあるし、最近はこういった副業の比率も上がってるけどね」
「一人だと奥まで潜れねえからだろ。
トレジャーハンター名乗るなら探知くらいできるようになれよ。
大体お前はどっちかというと遺跡荒らしじゃねえか。
ちょいと前に連れてた男はどうしたんだ?
また逃げられたのか」
「うるさいわね、見解の相違よ」
「いつになったら見解が一致する奴と出会うんだよ」
「うっさいわね。
あんたこそウルに頼りっきりだったから、最近は村に籠もってばかりじゃない」
レジーナの口調がヒートアップしていく。
大声に釣られてか、近くから何かの鳴き声が聞こえた。
少し会話の方向を逸らした方が良さそうだ。
「そのウルって人が、前にランツが組んで冒険者やってたっていう?」
「ん?
ああ、そんなこと言ったっけか」
ランツが手持ち無沙汰に焚き火に薪を投げ入れる。
曖昧に答えたその反応がどういったものから来ているのか、焚き火で表情が揺らめいて分かりづらい。
反応の薄いランツの代わりとばかりに、レジーナがまくし立てる。
「そう、そいつと組んでたのよ。
一年前に散っちゃったんだけど」
「あ、そうだったんだね……」
「とても褒められた性格じゃなかったけど、頼りになる奴だったわ。
英雄色を好むというか、お盛んな奴でね。
それに比べてこいつは素人童貞で──」
「てめえ、ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞ……!」
鎮火失敗、普段冷静なランツまで騒ぎだしてしまった。
どうにもならず、不毛な言い争いを聞き流すこと数分。
「あれこれ適当こきやがって、俺のことはどうでもいいんだよ。
お前も男が見つからねえなら、こいつはどうだ」
「はあ?
ルカねぇ……
ダメな点を挙げると、ガキ、ヒョロい、金持ってなさそうってとこか。
もう少し修行して身を立ててから出直しなさい」
「左様ですか……」
候補に名乗り出たわけでもないのに出直せと言われても、反応に困る。
理不尽ににダメ出しされたが、場が落ち着いたので良しとする。
「それに今日のところは上手く先導できてたけど、明日からが本番。
魔獣に出くわす可能性が上がってくるわよ」
魔獣。
名前だけはいくらでも聞く、人類の天敵と呼ばれる存在。
しかし実際何が恐ろしいのか、ルカは知らない。
聞くは一時の恥、この機会に教えてもらおう。
「魔獣について詳しく知らないんで、どこが怖いとか注意事項とか教えてもらえると嬉しいんだけど」
レジーナは知らなかったのか、といった呆れた表情でルカを見る。
彼女のこういった視線には最早慣れつつあった。
「まあ内側に住んでたら知らなくても無理はねえだろ」
そんな冷えた空間にランツが助け舟を出す。
「学者じみたことは説明できねえが。
魔獣ってのは体の大部分を魔力で作った組織に置き換えてる奴の総称だ。
だから獣と銘打ってるが、トカゲ、鳥、虫、果ては魚と何でもござれってな」
初耳だった。
特に獣以外も含まれるという点。
「魔物とは違う?」
「あー、地域によって呼ばれ方が違うかもしれねえ。
人を襲う生物を魔物って呼ぶことが多いか?
大体魔獣とは別もんのはずだ」
「体が魔力で出来てるっていうのは何か利点があるの?」
「用途は二つ。
一つ目は身体強化だ。
程度はあるが単純に強度が段違いになる。
極まった奴は並の武器じゃ傷一つ付かねえ。
それに魔力で修復できるんでダメージもすぐに回復する。
一応消耗させることには繋がるけどな」
話を聞くに、かなり魔素に依存する身体構造のようだ。
そのため魔素の薄い地域には存在しないのだろう。
逆に、外界はそれらのホームということだ。
「もう一つは魔力の貯蔵庫みたいなもの。
それを利用して、単純なものだけど一瞬で魔術を使ってくるわ。
わかりやすいのは火を吹いたりね。
厄介なのは生態に即した使い方をする奴。
鳥であれば風、水辺にいる奴であれば水を操作して、予想できない動きをすることもある」
「それにその場で魔素から魔力に変換するわけじゃねえから、ストック分は疲れ知らずだ。
傾向で言うと物理寄り、魔術寄り、バランスの三つのパターンがある。
大体は初手と動き方でどれかわかるから、よく見て判断しろ」
「よく見て、ね……」
経験を積めば見てわかるようになるのだろうが、今のルカに言われてもどうしようもない。
「でも、体が魔力で出来てるってことは、ランツの魔術無効化を使えばワンパンじゃない?」
「ありゃ魔術に効くだけで、魔力自体には効きが悪いんだよ。
無意味ってわけでもねえが、割に合わねえ」
そう旨い話はないらしい。
「結論、溜めた魔力の純度とか見た目で判断できない要素はあるけど、原則としてデカい奴ほどヤバい。
手に負えそうにない奴が出てきたら逃げるわよ」
「まあ人間に対して恐ろしく好戦的だから、見つかったら逃げられるか怪しいけどな。
そんなわけで、お前の働きに俺らの命運が掛かってるからしっかりやれってこった」
「魔獣についてはわかったけど、魔人は?
魔獣が色んな分類一緒くたなのに、何で人型だけ別枠なの?」
「魔人が別枠扱いなのは謂れがあるが、今は気にしなくていい。
今回出くわすことはねえだろうし、もし出会ったら俺らだけじゃほぼ全滅だな」
不安だけを煽るような言い方で濁され、その日の活動は終了。
交代で見張りを立てつつ休息を取り、次の日を迎える。
魔獣の話を聞いた後の夜の森は、日中に慣れかけた様相とは違う恐ろしさを感じさせた。




