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冒険者捜索_1

「それじゃルカ、先導任せた」

「近場は大した脅威もないし、相手に気付かれてもいいから不意打ちだけ気を付けて。

 初日は速度重視で距離を稼ぐわ」

「矢も明日まで温存しとけ、もし向かってくる奴がいたら俺らでやる」


 ルカは二人の指示に頷く

 だが、行動開始前に確認したいことがあった。


「そういえば二人の戦い方を知らないんですけど」


 村長には道中で説明してもらえと言われた。

 三人は各々が軽装の防具を身に着けているが、武器は異なる。

 ルカは弓と長めの短剣。

 ランツは長剣を背負っている他、投げナイフ等を携行。

 そしてレジーナは無手。


「細かいことは昼の休憩時にでも話すわ。

 それまでの小競り合いは全部ランツにやらせればいい」

「わかりました」


 反論する気はないのか、ランツは肩を竦めるだけで何も言わない。


「敬語はいらない、敬称も」


 レジーナの言葉に再度頷いて会話は中断、地図の写しを頼りに先行する。

 捜索石は逐一レジーナが確認することになり、ランツは後方警戒。


 行軍している環境は村周辺の森と違い、獣道らしい跡も少なく進むのに若干苦労した。

 気温はそこまででもないが湿度が高く、不快感から集中力が削がれる。

 また、周囲を飛び回る虫の多さにも辟易した。

 だがレジーナの言う通り、まだまだ直接的な脅威は少ないようだ。

 初めての危険地帯ということで緊張していたが、今のところ好戦的な生物が暴れているような様子はない。

 時折新しい獣の糞や足跡が見られ、その進行方向を小さく迂回していく。

 一時間ほど進んでいると、進行方向に小さな影が動いているのを見つけたため、後続の二人に合図を送る。

 小柄な体格、緑色の肌に粗末な装備。

 一体のゴブリンだ。

 木の上に陣取り、暇そうに遠くを眺めていた。


「見張りかな、でも近くに仲間はいないと思う」

「そうね、付近に巣穴か集落が出来てる可能性がある。

 反吐が出るわ」


 レジーナが不快感を隠そうともせず舌打ちする。


「今はスルーしようぜ。

 捜索優先だ」

「仕方ない、お荷物がなければ帰りがけに潰すか。

 ルカ、地図にメモっといて」


 お荷物とは、文脈的に遭難者を発見できた場合ということだろうか。

 指示の通り地図に印を付ける。

 この場にゴブリンの群れがいるということは、先行した冒険者がゴブリンを無視したのか、あるいはこの辺りを通らなかったのか。

 燻る不安を抑えつつ、見張りに気付かれないよう先へと進む。




 索敵の成果か、特に接敵もなく歩を進め、正午を過ぎた頃。

 状況確認と昼食を兼ね、開けた場所で休憩を取ることになった。


「今んとこ目標まで大体1/4ちょいくらいか。

 まあ順調だな」

「このままなら明日中に目標地点に着くけど、明日どのくらいペースが落ちるかが問題ね。

 危ないから目標地点で野営はしたくない。

 早めに到着できそうならいいけど、遅くなりそうなら少し手前で野営して時間調整か」


 昼食の準備を整えつつ、現状を確認する。


「ちなみに持ってくる水は最低限で良いって言われたけど、どうすれば?」


 一昨日、別れ際に村長にそう言われた。

 そろそろ持参してきた水の残量が心許なくなっている。

 ルカは当初は飲み水に出来る水源が多いのだと解釈したが、周囲を見ても水場はない。


「ああ、ちょい待ってなさい。

 ランツ、鍋」

「へいへい」


 ランツが背嚢から鍋を取り出すと、レジーナがその中に向かって手をかざす。

 徐々に肌に纏わりつくような不快感が小さくなる感覚。

 少しして、何かが鍋の底を重く打ち付ける音が響く。

 何事かと鍋を確認すると、鍋の中が屈折して見える。


「……ん、氷?」


 そう、透明度の非常に高い氷が鍋の中に現れていた。


「そ、これが私の魔術。

 溶ければ問題なく飲めるわ」

「おー、すごいねこれ!

 こんなでかくて透明なの初めて見た」


 ルカの興奮気味の賞賛にレジーナはご満悦だ。

 実際、大した時間も掛からずに3リットル程の鍋一杯の氷塊が生成されたのだ。

 その速度はルカの想像を絶していた。

 先程の不快感が消えていった現象は、周囲の水分を利用して氷が作られたからだろうか。


「この辺は冬でもそこまで気温が下がらねえからな。

 村の氷室の氷はこいつが作ってる。

 金は取ってるけどな」

「なんであんたが自慢気に説明してんの……」


 村の南の地下には、確かに大きめの氷室があった。

 どこから氷を調達してくるのかと疑問だったが、レジーナの功績によるものということだった。


「でも、普通に水を出してくれれば良かったんじゃ?」


 ルカがふと浮かんだ疑問を口にすると、レジーナは小さいため息を吐く。


「私が使える魔術は氷や冷気に関して。

 水は直接出せないわ」


 魔術師の使う魔術の属性や種類は、個人に大きく依存する。

 氷を作る方が水を作るより労力が大きそうなものだが、それがレジーナの適性なのだろう。


「で、これが俺の能力だ」


 鍋の中の氷塊が溶けるのを待っている時間が勿体ないと思ったところで、今度はランツが氷塊に手を当てる。

 直後、ばしゃりと氷が溶け、鍋が水で満たされた。


「……ん?

 何したの?」


 目の前で何が起きたのか、理解が追い付かない。

 今の氷の溶け方は、加熱等で起きるような現象とは全く異なるように見えた。


「魔術の無効化ってとこだ。

 こいつが作った氷にやると、細かい理屈はわからんが水になる」

「え、さらっと凄いこと言ってない?」


 魔術の無効化。

 そんな力が使えれば、魔術師に対しては事実上無敵なのではないか。


「やっぱり実はすごい血筋の生まれだったり、伝説の装備持ってたりする?」


 改めて彼の身なりを確認しても、ごく一般的な服、防具と頑丈そうな普通の剣に見える。


「営業秘密だ。

 それに色々と制約があるから万能ってわけでもねえ。

 お前に見せるために使ったが、しんどいからもうやんねえぞ」


 傍から見ると何でもなさそうに見えるが、しんどいらしい。

 何故そんな力が使えるのか。

 ルカとしては色々と興味が尽きないが、秘密と言われてなお追及するのは気が引ける。


 結果として水の問題は解決した。

 それぞれの飲み水を確保した後、拾った枯れ木と枯草を集めて鍋を載せ、ルカは火をイメージして集中する。

 頭の中で出来上がった火を指先に乗せ、解き放つ。


「熱っ!」


 思った以上の勢いで火が噴き出し、枯草を経由して燃え上がった。

 思えば境界の外は魔力濃度が高いという。

 その結果か、これまでの経験より大きな出力になっていた。


「へえ、あんたも魔術使えるんだ」


 レジーナは少し感心したように火を眺める。


「少し前に使えるようになったばかりで、時間も掛かるし火と風の簡単なのしか使えないけどね」

「プラス査定よ、加点しといたげるわ」

「それはどうも……」


 これまではアランダ村でも魔術の使用を避けてきたが、今となっては気にする必要もなさそうだ。

 氷が溶け、水が煮立ってきたところに携行の干し肉と採取した野草を投入し、簡単なスープを作って栄養を補給する。


「俺らの能力についてはさっき見せたが、戦闘では俺が前で時間を稼いでレジーナが後ろから仕留めるのが基本だ。

 連携の都合もあるからルカは更に後ろで様子見てろ。

 言い方は悪いが、今回の行動範囲なら二人で十分だし、それで手に負えねえ奴はお前が何してもどうにもならん」


 彼の言う通りだろう。

 そもそもこの依頼を受けるにあたり、戦闘はランツとレジーナで請け負うという条件だった。

 素人が手を出しても邪魔になるだけだと、ルカは忠告に頷く。


 二人の大まかな戦闘スタイルを知ることができ、ルカの不安は一つ払拭された。

 腹が膨らんで緩んだ気を引き締め、行軍を再開する。


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