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ジューダ・アマルガム

ジューダ視点のお話です。

内容は前回までのおさらいみたいな物です。

読まなくても問題ありません。

 ジューダ・アマルガム……彼は中位魔族としてこの世に生を受けた。

中位ながらもその魔力量は上位に迫る程であり、彼は上位魔族への進化を目的とした一族の期待を背負い成長していく。

そんな彼であったが、魔力の強さに比べて肉体的な強さは中位でも下の方であった。

魔法に特化していたその肉体は、上位の魔族から見れば脆弱そのもので、それによって彼は魔力だけが取り柄の弱者というレッテルを張られる事になる。


 魔王が言うように、全ての魔族は本能的に至高の存在たる魔王を目指す。

だが、本気で魔王を目指すのは上位魔族で、中位や下位は夢見る程度が現状だ。

それでも個人としての力を付け、その力を次代に継ぐことで上位魔族となり、最終的には魔王へと至るという考えを持つ魔族も存在する。

ジューダはそんな一族の生まれだったが肉体的な弱さから、結局は期待外れと見做されるようになった。


 そうして燻っていた矢先、遂に魔王が誕生した。

並み居る上位魔族達を打ち破り、頂点に到達した至高の存在、魔王ザンデル。

頂点たる魔王の元、魔族は一つとなり永遠の繁栄が約束される……その時の魔族達はそう思っていた。


 それから暫くの間は、魔族達にとっては平和と言える穏やかな時間を過ごしていた。

だが、ある日突然魔王は、人間達の住む領域への侵略を宣言する。

これには多くの魔族達が驚いたが、上位の魔族達は喜んでいた。

ジューダ達のような中位や下位からすれば、穏やかな世界はとても過ごしやすく良い世界であったが、上位魔族にとって平和な世の中なんぞ退屈な世界であったからだ。


 魔王の宣言より、後に『人魔戦争』と呼ばれる永き闘争の日々が始まった。

破壊と殺戮に酔う上位魔族と異なり、ジューダ達はこの戦争に疲れを感じていた。

何時だって犠牲になるのは弱い者達だからだ。

中位や下位の魔族にも自分達よりも弱い種族である人間達を見下し、虐殺する者達もいる。

だが、人間達もやられっ放しではない。

逆襲を受け、滅んだ一族も少なからず存在する。

少数であるが、上位魔族すらも屠る恐るべき戦闘集団の存在も確認していた。

 

 このまま戦い続ければ、魔王はともかく自分達弱小魔族は人間の手によって滅ぼされるのではないか? という危機感をジューダは抱いていた。

それから幾らか年月が経った頃、ジューダはこの戦争を起こした魔王の真意を知る事となる。

魔力の強さだけが取り柄とされているジューダだが、頭の回転が速い彼は魔族軍において物資の補給や運搬を取り仕切る立場へと出世していた。

基本圧倒的な戦闘力で人間の軍を相手取るワンマンアーミーな上位魔族と違い、中級以下は部隊や軍を率いて戦うため物資の支援などが無ければ戦えなかった。

ジューダは優秀であり、仕事は確かであった。

その為彼は魔王の目に留まった。


 魔王への謁見を経て、戦況の報告など魔王の秘書官に近い地位に立った彼は間近で魔王を見ていた。

そして気付いてしまった。

魔王が魔族の繁栄の為に戦いを起こしたのではなく、ただ自分に挑むだけの力を持った者達が現れる事を願っていただけに過ぎない事に。

そんな下らない個人的な欲求の為、魔王は全世界を巻き込んだ戦争を始めたのだ。

ジューダは魔王に対して激しい怒りと憎悪を抱いた。

だが、悲しいかなジューダ程度の力では魔王に及ぶべくもない。

彼の力では魔王打倒は不可能である。

考えに考え抜いたジューダは人間達と手を組むことにした。

彼等にとって魔王は共通の敵である。

きっと人間側も自分の話に耳を傾けるだろう。

そして目論見通り、人間側の王達もこの戦争を終わらせたかった為、ジューダは手を組むことに成功した。


 人間達と秘密裏に同盟を組むことに成功したが、それだけでは魔王打倒は叶わない。

もっと強力な戦力が必要だ。

神聖人理教団なる人間の武装集団は上位魔族にも対抗出来る力を持つが、魔族その物に対する敵意が激しい。

自分達、善き魔族に対しても牙を剥くような狂信者共だ。

何れは滅ぼさなければならない集団である。

そして、魔王を倒すにはまだ力が足りない。

魔王は上位魔族とも比べても圧倒的な強さを持つ化け物だった。

対抗できる程度では勝てない。

そこでジューダは王達とも話し合い、ある結論を出した。


 この世界の外から、魔王に匹敵する存在を呼び起こすことだ。

そう、勇者召喚である。


 召喚術自体は存在するが、この世界の外から喚び出す事は通常のそれとは違う。

発動には多くの苦労があったが、遂に召喚を実行し成功させた。

喜びに沸く一同だったが、喚び出されたソレはとても勇者と言えるような存在では無かった。

強大な力と悪を許さぬ善なる心を持った救世主を求めていたのにも関わらず、知性も品性も容姿も、勇者という希望とはとても思えぬ凡夫。

ソレが勇者レオに対する評価だった。


 力はそれなりだったが求めていた物には遠く、召喚は失敗だった事は明白だった。

だから適当に言いくるめて廃棄した。

運が良ければ何処かで細々と生きているだろうと。


 その後も救世主となる存在を召喚すべく、様々な試みをするも成功には至らなかった。

こんなはずではなかった……絶望するジューダ達であったが、そんな彼等の元にある報告が届く。

教団が次々と上位魔族を滅ぼしているのだ。

彼等は驚愕する。

その教団の中で活躍する勇者レオこそ、数年前に召喚失敗として廃棄された男だったからだ。

そんな男がよりによって狂信者達と共に行動し、勇者として名を馳せるなど全くの想定外だった。

頭を痛めつつも、魔王の打倒を目指す上で戦力となる事が分かったため、今後はソレを利用する考えに至る。

同時に、魔王を討った後の事についても考えを巡らせる。

勇者と教団の始末をどう付けるのかを……。


 それから時が経ち、遂に魔王との決着を付ける時が来た。

ジューダは強者との戦いを心待ちにする魔王に、余人を交えずに全力で戦えるよう、勇者達を魔王の元へ呼び込む作戦を提案した。

魔王はそれを了承し、お膳立ては整った。

ジューダはほくそ笑む。

待ち望んでいた悲願を達成する事が出来ると。


 人類連合軍との一大決戦という名の茶番が始まる。

尤も、最初は未だ人類を見下す旧世代の遺物共と狂信者共をぶつけ、互いを消耗させるために戦うが。


 戦いも佳境に近づいている。

遺物共は殆ど倒された。

狂信者共もかなり消耗している様だが、士気は高い。

頃合いと見て、本隊を動かす。

狂信者と本隊がぶつかり合う直前に、後ろから奇襲を受ける狂信者共。

味方であるはずの人類連合軍が後ろから刺してきたのだ。

混乱し、指揮系統が乱れた狂信者共を本隊が襲う。

挟み撃ちの形となったその戦いはあっさりと終わる。

自軍の犠牲をほとんど出さずに、勝利した。


 次は勇者と魔王だ。

相打ちで果てていれば言う事は無しだが、果たして魔王は討ち取られていた。

そして勇者も虫の息だという。

ほぼ理想的な結果に、思わず笑みがこぼれる。


 勇者に全ての真相を話した。

案の定勇者は激高していたが、真面に動けず密かに力を溜めている様だ。

だが、それはこちらも同じこと。

話が終わるのと同時に予め待機させていた術者達を使い、勇者の動きを封じ込める。

100人もの封縛術には勇者も手も足も出ないようだ。

ジューダはバルト王と共に動けなくなった勇者をその手に掛けた。


 魔王は滅び、勇者も討ち取った。

残るは教団だが、主力を失った以上大した脅威にはなり得ぬとジューダは思った。

勿論、邪教としてこの世から滅ぼすが。


 それからジューダは自らが治める国を建てた。

人魔戦争を終わらせた英雄が興した国だ。

瞬く間に力を付け、協力者であった4人の王と並び、五大国家としてその名を馳せた。

だが、ジューダの野望は此処で終わらなかった。

永い時間をかけ、ジューダは己を魔王を超える人魔の王として世に立つべく暗躍した。

各国と関係を深めつつ、その国に徐々に触手を伸ばしていく。

自国の王位は息子に譲ったが、来るべき時に世界を制し全ての頂点に立つ為の努力を惜しまなかった。


 そして人魔戦争から200年を記念した式典において、兼ねてから抱いていた野望への大きな一歩を踏み出す……そのハズであった。

ありがとうございました。

評価を頂けると嬉しいです。

また、感想や誤字脱字報告もして頂けると嬉しいです。


次回で最後です。

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