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方舟の巫女姫 〜Eternal lovers〜  作者: 東屋チコ
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09.遭遇

パチパチと火が爆ぜる音で目が覚めた。

何故か体のあちこちが痛い。


頭がはっきりするにつれて、食後の談笑が思い出される。


話題はなかなか尽きなかったが、さすがに明日にひびくと、

火の番をしながら、2人1組で交代しながら見張りをすることにし、お開きにしたのだ。


そして、今まさに、バルカは見張りの最中に居眠りをし、目を覚ましたところだった。


(しまった…)


隣を見ると、ナチが座ったまま舟を漕いでいる。


「おい、ナチ」


軽く肩を揺さぶると、ナチが倒れ掛かってきた。

まあ、自分が起きていれば問題ないかと、とりあえずそのまま寝かせてやることにした。


むにゃむにゃとナチが寝言を言う。

「…お兄ぃ…まーしゃ…待って…」

(まーしゃ?ああ、マルシアの愛称か…)


夢の中で子供の頃に戻っているのだろう。

そっくりな可愛い3人が走り回っている姿を想像して、バルカの頬が緩む。


しばらくすると、幸せそうな顔で夢を見ていたナチの体が震える。

焚火のわずかな明かりの中でも、顔の血の気が引いていくのが分かる。

苦悶の表情を浮かべながら、ナチがうなされた。


「いや、いや!待って!!いかないで…!!」


兄が病に倒れた辛い過去が悪夢となって彼を襲っているのかもしれない。

バルカは、ナチを起こそうと強く肩を揺さぶる。

それでもナチは眼を開けず、バルカに必死で縋り付いてきた。


涙ながらうなされるナチを、バルカは抱き寄せる。

自分より少し背の高いナチだったが、思っていた以上に華奢だ。


「大丈夫だ。ここにいるよ。」

背中を撫で、耳元で何度も宥めると、浅かった呼吸が落ち着いていく。


ふと、自分の腕の中の体に意識がいく。


(ん…?)


見知った感触。この違和感。


(あれ…?こいつの体…すげぇ華奢なだけじゃなくて…なんか胸?ないか?)





正直な話をすると、バルカの身の回りに色めいたことがなかったわけではない。

イシスの下にいた奴隷の中には、バルカの髪や瞳の色を気味悪がる者もいたが、年の割に鋭い輪郭や整った目鼻立ちをしたバルカに、目を付ける異性は少なからずいたのだ。


そういった時、バルカは、相手が信頼に足ると判断できれば、深入りしない程度に応じていた。

多くは年上だったが、時々は性根の優しさを見抜いたのか、年下の少女に懐かれることもあった。

年上よりも年下の彼女たちを無下にするのは、難しく、リクエストに応えて抱きしめるくらいはしていた。


バルカは、当時の記憶を引っ張り出そうとする。

まだまだ未発達な、少女の体。

今、自分の中に納まっているナチの体と完全に一致するのは気のせいなのか。



困惑しながらも、ナチのマントを払い確認する。

胸には小さいながらも確かな膨らみがあった。


(マジか…)


この状況はまずいと、今一度起こしにかかろうとバルカがした瞬間。

遠くで音が聞こえた。







もう一度耳を澄ませる。


はっきりと獣の遠吠えだった。


近い。

おそらくこちらに気付いて仲間を呼んでいる。


「みんな!!起きろ!!獣だ!!!」

バルカは叫び、今度こそナチの肩を思い切り揺さぶる。

そして、傍らの弓を手につかんだ。


月が雲で隠れてしまい、闇が深くなる。

それでも、荒野に小さな影が確実にこちらに向かって集まってくるのが分かる。


バルカの声に、みな武器を手にテントから飛び出してきた。

「くそ!みんな松明を持つんだ!!」

カルタが、馬の油を含んだ太枝をみんなに渡し、誰もが一斉に火をつける。


バルカは、準備が整うのを待ち、

獣たちが弓の射程距離に入ったところで慎重に狙いを定めて放つ。


「ギャイン」


続けざまに4本放つ。



放たれた矢が青い光を纏う。


(え・・・?)


風を切る音がし、すぐに獣が悲鳴を上げた。


弓の腕に自信はあるし、確かに十分に引き付けはしたが、素早く動く的に放った矢が全て命中するなんて。


(・・・奇蹟的すぎないか。)


まわりの仲間の息を飲む気配がした。


が、バルカたちに余裕などなかった。

獣たちが仲間がもだえる声を聞き、一斉に襲いかかってきたのだ。


松明の火に敵が姿を現す。

照らし出されたそれらは、銀の狼だった。

獰猛な牙の間から涎が滴っている。

狼たちは、野営中の人間を襲い慣れているのか、火を恐れず、突進のスピードを緩めない。


弓で対処するにはすでに間合いが詰められすぎた。

バルカは急いで松明を手に取り、飛び掛かる狼を松明で殴りつける。

メンバーも必死で応戦している。


マルシアでさえ、女子とは思えぬ機敏さで狼たちを倒していく。


1匹2匹と殴りつけるが、致命傷にならず、再び起き上がる狼もいる。

バルカの息が上がる。肩が大きく上下する。

このままではマズイ。

打開策を探し、頭を巡らせていると、左から襲いかかられた。


「うわぁぁぁ」

とっさに松明で狼の眼を狙う。


「ギャイン」

眼を焼かれた狼がのたうち回った。


息をついたその時、短い悲鳴が聞こえた。


振り向くと、ナチの松明の柄に、狼が食いついている。

身動きの取れないナチに他の狼が、飛びかかる。


「くそっ」


(戦え!)


誰かがバルカの頭の中で叫んだ気がした。


バルカは、松明を大きく振り投げ、とっさに背に抱えた弓を取る。

落ちてきた松明がナチと狼を照らす。

わずかな光で必死で照準を合わせ、放つ。


さっきよりも強い青い光に包まれた矢が、風を切る。


バシッ


狼の頭を貫通した。


狼が声も無く、倒れる。


(な、なんなんだ・・・)


しかし、まだもう一匹いる。

ナチが狼に食らいつかれた松明を離した。

次の瞬間、腰に下げた短刀を抜き、狼の首に突き刺した。

ナチの顔が返り血で染まる。


バルカは、ナチに駆け寄った。


「大丈夫か?」


尻もちをつき、呆然とナチの手を取ると、比較的軽い力でナチを引き上げられた。

ほっとした瞬間。


「後ろよ!!ナチ!!バルカ!!」


マルシアの叫び声に振り返ると2匹の狼が飛びかかってきた。

もう間に合わない。

硬く目をつむった瞬間、2人を強い青い光が包む。


狼がそのまぶしさに怯んだ。

その時、けたたましい破裂音が耳を裂いた。



パーン



それは銃声だった。

銃弾を撃ち込まれ、残りの狼たちも次々に倒れていく。


(え・・・助かった?)


バルカたちは銃声のほうに目を向けた。

少し離れた廃墟に10人ほどの人影が見える。


雲に隠れていた月が顔を出し、人影はくっきりと映し出された。

バルカたちと同じく、長いマントのフードを被り、ゴーグルにマスクをしている。

突然、風が強く吹き、フードが飛ばされた。闇夜と同じ漆黒の髪がなびく。


(俺と…巫女姫と同じ髪色…)


「な…待て!!」


バルカは大声で呼び止めたが、彼らはすぐに岩場に姿を消した。

5人は、彼らが去っていった方向を、幽霊でもみたかのような顔で見つめた。


月が赤い塔を照らしだしていた。

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