16 名前を書いたら大騒ぎ
「じゃあ、リリーは乙女なの?」
って、ヒューがキラキラおめめで聞いてくるんだけど、ねぇ、どうしたらいいかな?
……乙女って、私、年齢的にもどうなの?
まぁ……未婚、ではあるけど。
私が答えに困ってると、
「ヒュー様、レディーにそのような質問は失礼ですよ?」
って、ゲラルド先生が助け舟を出してくれました。
「ちなみに乙女神が守護するのは、こちらの農業大国ユンカーも同じです」
ヒューの気をそらすように、さらりと授業を進めるゲラルド先生。さすがです!
ヒューも私も、ゲラルド先生が指差して示す先に顔を向けた。
地図上の、大国リッツェンの東側にユンカーと国名が記されている。
東西に長いその国は、西の国境はリッツェンに接してて東は海に面してた。
「この国も付き合いにくいんですか?」
私が尋ねると、
「いえ、それが全く。ユンカーは乙女神ヘスティアを信仰しているのですが、聖フロイライン国とは真反対の国民性なんですよ」
「僕知ってるよ。ユンカーの人はね、陽気でのんびり屋さんなんだって」
へー。
なんでだろうね……あ、海があるから!?
いや、日本もそうか……海、関係ないわ。
あ、でも気候は関係あるかも?
なーんてあれこれ考えていると、頭の上から声を掛けられた。
「それ、ニホンゴですか?」
話を聞きながら、もらった紙にペンであれこれ書いてたんだけど、それをすっごい見られてる。
「うわぁ、すごく難しそう!」
隣に座るヒューも、興味津々な様子で私の手元を覗き込んでくる。
「実は私、こちらの文字は読めるんですが書けなくて……」
残念ながら、この世界の文字は読めても書けないことがさっき判明したばかり。
この世界の文字自体は意味不明なんだけど、読もうとすると瞬時に翻訳されるんだよね。
異世界特典、ほんと助かる。
でも、ついでに私の日本語が翻訳されるかなと期待して書いてみたけど、それはダメだった。
手元の紙には地図も書き写してある。
だって今後のために必要でしょ?
途中から学生時代を思い出した私は、けっこう楽しんでノートを取っていた。
「へえ、絵がお上手なんですね」
「リリー、すごいね!」
とか言って、ゲラルド先生もヒューもずっと私の手元を覗き込んでる。
「それにしても複雑な文字ですよね……」
「そうですか?」
ゲラルド先生が、私の書いた日本語を見て言う。
「ええ、全く読める気がしません」
「不思議な文字だね!」
あ、そうだ。
私は紙にヒュー、そしてゲラルド先生の名前を書いて見せた。
「こっちが『ヒュー』ね。
そしてこっちが、『ゲラルド』先生のお名前です」
名前を書いた紙をそれぞれに渡す。
そしたら二人、そのメモ書きを高々と持ち上げてめちゃくちゃ興奮してる。
「やったー! ニホンゴだぁ!」
「え、これ、頂いても?!」
ヒューは、紙を持ってぴょんぴょん飛び跳ねてるし、ゲラルド先生に至っては、ひとしきり指でカタカナをなぞった後、まるで宝物のように胸に抱き締めると、そっと折りたたんで上着の内ポケットにしまってた。
ただ、メモ用紙にカタカナ書いただけなんですけど……そんなに??
まぁ、喜んでもらえたならいいか。




