めでたし
「本当だな、本当に大事ないのか?」
屍蛇は、ウララを診察した医師に、何度も訊ねた。
おぼれた人間が、後から死する話も聞いたことがある。
馬車の事故にあった人間が、数日後に昏睡した話も。彼は心配で堪らなかった。
「そうですね、今のところ、見当たらないとしか、申し上げられませんが……」
「今の所だと⁉」
屍蛇の剣幕に震える医師を、狼獣人が誘導して外へ出した。
「くそっ……あの男たちはどうした」
「死体を回収して、広場に晒しています」
「気が収まらない、バラバラにして、犬にでも食わせろ」
「犬も食いたくないんじゃないですかねぇ」エナガがやってきて口をはさんだ。
「おぉ、エナガ。ウララはどうだ?」
「目を覚まして、饅頭食べてから風呂に入ってます」
「そうか、女官はちゃんと監視しているか?」
「はい、窓に各二人、扉に三人、湯船の側に四人いるらしいです」
「しかし、それでも飛んで逃げたら、我らには追えない。鳥獣人の雇用はまだ決まらないのか」
「それぞれ出自の洗い出しに苦労しております。今しばらくお待ちください」狼獣人が気まずそうに頭を下げた。
「鳥獣人、あっちこっち飛び回って生きてる人が多いからねぇ」エナガが彼に同情した。
「やっぱり、卵産ませるのがいいんじゃないですか? さすがのウララも親になれば少しは落ち着くんじゃないかと」
エナガの提案に、屍蛇は動きを止めた。
「私は、彼女に長く生きて欲しい」
「いやぁ、次から次へとなら別ですけど、普通の女性位なら別に変らないんじゃないかな、寿命」
「そう、なのか?」
「はい」
「し、しかし……」
「慎重に生きても、どうなるかなんてわからないじゃないですか。今日だって、死んでておかしくなかったわけですし。ウララがどう生きたいかが重要なんじゃないですか?」
エナガは、独り言のようにつぶやいた。
そして、屍蛇は無言で席を立って、歩き出した。
〇〇〇〇
「ほっかほっかの、湯で鳥が出来上がりましたよぉ」
自室にて屍蛇が待っていると聞かされ、ウララは扉を開けるなり冗談を言った。
しかし、屍蛇は席にも座らず、部屋の真ん中で棒立ちしていた。
(あれ? 真剣な雰囲気かなぁ)
ウララは、口をきゅっと閉じて、真面目な足取りで屍蛇に近づいた。
「屍蛇さま?」
声をかけると、屍蛇は振り返り、ウララの肩を掴んだ。
「ウララ、我が妃よ、聞きたいことがある」
「……はい」
髪を拭いていた手ぬぐいが落ちた。
あっ、と視線をそちらに移したが、ウララ、と声を掛けられ、屍蛇を見つめた。
「私は、当初、白い結婚を申し出たが……君の希望を聞かなかった」
(なんの話が始まったのかなぁ?)
ウララは、きょとんと屍蛇を見上げている。
「君は、どう思っている? 君は、その――私との子を望んでいるだろうか」
「ん?」
「私は、君の寿命を縮めてまで、子を設けたくないと思っていたが、今日のようなことがあると、心がゆらぐ……私とて、いつまで生きているかはわからない」
「ど、どうしたの屍蛇さま」
「君はどうしたい?君にとっての幸せとはなんだ?」
「私の幸せ? そんなの決まってます。屍蛇さまと、ずっと一緒に居て、屍蛇さまが、ひもじい思いとか苦しい思いとかしないで、幸せで。寒いときとかはくっついて、あったかいねとか言って。屍蛇さまが私の事、ずっと好きだよって言ってくれて……それから、卵も産んで、生まれて来た子を抱えて飛ぶの。ほら、見て!世界はこんなに広くて楽しいよって」
ウララが息ができないほど、しゃべっていたら、彼女の頬に屍蛇の手が伸びた。
そっと添えられた手に、彼女の体温を感じ、屍蛇が安堵して微笑み、その五月蠅いくらい喋る唇を啄んだ。
「し、じゃさま……」
「ウララ、私は、今、とても困っている」
屍蛇は、ウララの顔から手を離し、自分の顔を覆い天井を見上げた。
「どうしたの?」
「君に求愛する舞を――踊りたくないが、踊りたいのだ」
あぁ、と絶望しながら笑う屍蛇に、ウララは愛しさが爆発した。
「屍蛇さまー!!いいよ、踊らなくていい!大好き!」
ウララは、屍蛇に飛びついて、頭突きするように接吻を繰り返した。
めでたし、めでたし。
最後までお読みいただきありがとうございました。
もしも気に入っていただけたら、ブクマ、評価、リアクションをお願いします♪
誤字脱字報告、感想もお待ちしております。




