第79話 暴風域の破裂音 ~弾け飛ぶタイヤ、砕ける鉄の腕~
昭和51年(1976年)、台風直撃の夜。
大船~湘南江の島間。
暴風雨の中、湘南モノレールの銀色の車体は、悲鳴のような金属音を上げながら、闇の中を進んでいた。
ギギギギギ……ッ!!
車内は異様な音に包まれていた。
強風で車体が横に振られるたび、頭上の台車が、鋼鉄の桁の内壁に激しく叩きつけられる音だ。
【地上・相鉄建設現場の詰め所】
五代と高見は、その断末魔のような走行音を聞いていた。
「……五代さん。……音が変です。……何かが擦れ合っているような……」
「……無理をしているからだ。……あの『サフェージュ式(懸垂式)』は、車体をぶら下げている構造上、風に弱い。……今、タイヤとホイールには、車重と遠心力、そして風圧という三重の負荷がかかっている」
五代は、稲光に照らされたレールを見上げた。
「……ゴムタイヤは限界だ。……熱を持ち、変形し、……そして『劣化』したホイールが悲鳴を上げている」
その時だった。
バァァァァァァンッ!!!
大砲を撃ったような爆音が、暴風音を切り裂いた。
先頭車両の走行タイヤが、限界を超えて**「破裂」**したのだ。
だが、悲劇はそこからだった。
ガリガリガリガリッ!! ドカァァァンッ!!
弾け飛んだ分厚いゴムタイヤと、粉々に砕けたアルミホイールの破片が、逃げ場のない桁の中で散弾銃のように暴れ回った。
高速回転する鋭利な金属片が、集電レール(電気の通り道)を切り裂き、コンクリートの壁を削り取り、そして――
ズドンッ!!
真下にぶら下がっている**「客車の屋根」**を直撃した。
* * *
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
「何だ!? 天井が抜けたぞ!!」
車内はパニックに陥った。
屋根に穴が開き、そこから暴風雨と共に、砕けたホイールの破片やゴムの塊がバラバラと降ってきたのだ。
さらに、バランスを崩した台車が、桁の開口部に激突。
その衝撃で、車体を支える**「懸垂アーム」**の一本が、根本からへし折れた。
バキィィィッ!!
ガクンッ!!
車両が大きく傾き、火花を散らしながら、レールを噛み砕くようにして急停止した。
アームが外れ、片側の支持を失った車体は、今にも千切れそうな角度で空中にぶら下がっている。
* * *
「……やったな」
五代は、静かに呟いた。
「……う、嘘だろ……!? ……アームが折れた……!?」
高見が双眼鏡を落としそうになる。
「……自業自得だ。……劣化していた部品に、無理な運行を強いた結果だ。……タイヤが弾け、その破片が自らの体を傷つけ、最後に腕をもぎ取った」
五代は、空中で火を噴いている桁を指差した。
「……見ろ、高見。……レール(桁)も破壊された。……もはや自力走行は不可能だ。……そして、電気も止まった」
地上20メートルの暗闇。
暴風雨の中、傾いた車内に閉じ込められた乗客たちの悲鳴だけが、風に乗って微かに聞こえてくる。
「……さあ、どうする? 湘南モノレール。……ドリームランドの亡霊が、お前たちの足を食いちぎったぞ。……ここからが本当の地獄だ」
昭和51年、嵐の夜。
大船の空で、モノレールの「安全神話」が、弾け飛んだタイヤと共に粉々に砕け散った。




