第78話 鎌倉四天王・最弱の証明 ~台風と、揺れる懸垂線~
昭和51年(1976年)、台風シーズン。
大船の空に、鉛色の重い雲が垂れ込めていた。
湿った強風が吹き荒れ、街路樹が激しく揺れている。
そんな中、頭上を銀色の車体が、悲鳴のような金属音を立てて通過していく。
湘南モノレール江の島線。
強風注意報が出ているにも関わらず、彼らは運行を強行していた。
それを地上の喫茶店から見上げる、五代と高見(相鉄)の姿があった。
「……五代さん。……結構揺れてますよ。……見ていて怖いな」
高見が眉をひそめる。
五代は、揺れる車体と、その向こうに見えるドリームランド線の廃墟(死体)を交互に見比べ、静かに口を開いた。
「……高見。……この鎌倉・湘南エリアを支配する**『四天王』**を知っているか?」
「……四天王、ですか? ……まあ、国鉄横須賀線、小田急電鉄、江ノ電、そしてこの湘南モノレール……といったところでしょうか」
「……そうだ。……だが、その力関係は平等ではない」
五代は、テーブルに置かれたシュガーポット(国鉄)、ミルク(小田急)、スプーン(江ノ電)、そして使い捨ての紙ナプキン(モノレール)を並べた。
「……国鉄は『武力』だ。横須賀線の輸送力は圧倒的だ。
……小田急は『政治力』だ。背後で全てを操る黒幕だ。
……江ノ電は『生命力』だ。古くて遅いが、地面を這う雑草のようなしぶとさがある」
そして、五代は紙ナプキンを指で弾いた。
「……だが、こいつ(湘南モノレール)はどうだ? ……ハイテク気取りだが、風が吹けば止まり、雪が積もれば滑り、桁が腐れば落ちる。……逃げ場のない空中で、常に『構造的欠陥』と戦っている」
五代は、断言した。
「……こいつが**『四天王・最弱』**だ」
* * *
キィィィィィン……!!
突風が吹き、頭上のモノレールが大きく横に振られた。
車輪と桁が擦れ合う、嫌な音が響く。
「……見ろ。……無理をしている。……『うちは風に強い』とアピールしたいのだろうが、その過信が命取りになる」
「……ドリームランド線の二の舞になりますか?」
「……なるな。……奴らは『重さ』で死んだが、こっちは『風』と『過信』で死ぬ」
五代は、窓の外の雨脚が強まるのを見て、冷酷に笑った。
「……放っておけ、高見。……最弱の王が、自らの脆さを露呈して自滅する瞬間は、そう遠くない」
「……助けないんですか? ……相鉄の技術力なら、補強工事や防風壁の提案もできますが」
「……塩を送る必要はない。……奴らが無様に止まり、客が空中に閉じ込められた時こそ……住民は思い出すだろう。……『やっぱり、地面を走る相鉄(鉄道)が一番だ』とな」
昭和51年、秋。
台風の目。
鎌倉四天王の中で最も脆い「空の道」に、自然の猛威と、五代の冷たい視線が突き刺さる。
その数時間後。
大船の空に、決定的な**「破壊音」**が響くことになる。




