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第241話 :泥濘のカルテル 〜業火の泥濘と、燃えゆく札束〜

本日最後です。

千葉・成田。

横転した装甲ダンプの荷台から、泥まみれの狂犬たちが次々と這い出してくる。

彼らの手には、巨大資本ホームセンターで買い占めた空き瓶とガソリンで作られた、無数の手製【火炎瓶】が握られていた。

「ヒャハハハッ!! 燃えろォォォッ!! 俺たちのインフラ(正義)の炎だァァッ!!」

「権藤のジジイの重機ごと、テロリストどもを焼き尽くせェェッ!!」

パリンッ! パリンッ! ドゴォォォォォンッ!!!

狂信的な雄叫びと共に、雨あられと投げ込まれる火炎瓶。

ガソリンの炎が、権藤の部下が操る巨大なユンボ(油圧ショベル)の操縦席を瞬く間に包み込んだ。

「うわああああっ! 熱い! 助けてくれェェッ!!」

全身火だるまになったオペレーターが、悲鳴を上げながら重機から転げ落ちる。主を失ったユンボの巨大なアームが、虚しく空を切って停止した。

「ヒィィッ……! ダメだ、狂ってやがる! 止められねえ!!」

長年、機動隊の盾を撥ね退けてきた成田の防衛部隊も、痛覚すら麻痺した若者たちの【純粋な殺意】の前には成す術がなかった。

鉄パイプで頭を殴られ、腕の骨が折れても、若者たちはニタニタと笑いながら相手の喉笛に噛み付いていく。

大義名分という劇薬は、彼らを完全に「死を恐れないバケモノ」へと変貌させていた。

圧倒的なまでの熱量と狂気が、成田の要塞をジワジワと喰い破っていく。

***

その混乱の最奥。炎に包まれつつあるプレハブ小屋の中。

裏切り者の『サブ』は、持ち逃げした数千万の現ナマを震える手でボストンバッグに詰め込み、裏口から逃げ出そうとしていた。

「クソッ! クソッ! なんで俺がこんな目に……ッ! 権藤のジジイ、話が違うじゃねえか! ここは絶対に安全だって言っただろォォッ!!」

外からは、かつての仲間たちが自分を殺すために上げる狂ったような歓声と、物が燃え、人がすり潰される絶叫が絶え間なく響いてくる。

サブはバッグを抱え、這うようにしてプレハブの裏口のドアノブに手をかけた。

ドガンッ!!! メリメリメリッ!!!

その瞬間、プレハブの壁そのものが、残った別の装甲ダンプの突撃によって完全にぶち破られた。

「ヒィッ!?」

吹き飛んだ壁の粉塵と、早朝の冷たい風が室内に流れ込む。

ダンプのH鋼バンパーの上に立ち、逆光と炎に照らし出されたのは——かつてサブを「アニキ」と慕い、そして無惨に裏切られた、若者たちのリーダーだった。

その手には、炎を上げる火炎瓶が、静かに握られている。

「……見つけたぞ。成田の裏切りテロリスト

リーダーの声は、怒りよりもむしろ、神聖な使命を帯びたような不気味なほどの平坦さを持っていた。

「ま、待て! 話を聞け! 悪かった、俺が悪かったよ!!」

サブは腰を抜かし、プレハブの床を後ずさる。そして、命より大事なボストンバッグのジッパーを引きちぎり、中に入っていた数千万の札束を、リーダーの足元へと狂ったようにばら撒いた。

「こ、このカネを半分……いや、全部やる! 全部やるから、見逃してくれェェッ!!」

帯封のついた一万円札の束が、泥だらけの床に散乱する。

かつて彼らが、これのために血を流し、ヤクザから逃げ惑った『絶対的な力(資本)』。

しかし。

リーダーの濁った瞳は、もはや【カネ】など一切見ていなかった。彼が見ているのは、優しいお兄さん(巨大資本のフロント)から与えられた、『この国のインフラを守る』という【絶対的な正義】だけだった。

「……汚えカネだ」

リーダーは無表情のまま、ボソリと呟いた。

自分たちが手にした資金の出処が、目の前のサブよりもよほど巨大でドス黒い『資本(京急)』であることなど、微塵も疑わずに。

「そんな紙切れで、俺たちの正義が買えるかよ」

リーダーは、腕を振り上げた。

「や、やめろォォォォォォッ!!!」

サブの絶叫を遮るように、火炎瓶が、ばら撒かれた札束の山の中央に向かって投げ落とされた。

ガシャンッ!! ゴォォォォォォォッ!!!

弾けたガソリンが、数千万の現ナマを一瞬にして飲み込み、紅蓮の炎を吹き上げる。

燃え上がる札束の明かりが、リーダーの狂気に満ちた恍惚の笑顔と、業火の中で悶え苦しむサブの姿を、まるで地獄の絵画のように克明に照らし出していた。

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