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第123話 地元VS横浜の泥沼商戦と、空飛ぶバスの宣戦布告

 昭和52年(1977年)、冬。

 ついに「相鉄・京急 小田原合同ターミナル」の巨大な扉が開かれた。

 その光景は、小田原の地元商店街にとって「黒船来航」という生易しいものではなく、**「資本主義の絨毯爆撃」**だった。

「……さぁさぁ奥様方! オープン記念の大盤振る舞い! 横浜・元町仕込みの最新ファッションが、今日だけ全品半額の大放出だァ!!」

「……伊勢佐木町から直送の高級牛肉! 小田原のスーパーじゃ絶対お目にかかれねえ極上品を、赤字覚悟で叩き売りだァ!!」

 ターミナル内には、横浜からやってきた野心剥き出しの商人たちのダミ声が響き渡る。

 彼らは、小田原の「お上品な義理人情」など一切無視した。ブラスバンドを呼び、ド派手なチンドン屋を練り歩かせ、「原価割れの特売」という名の札束での殴り合いを仕掛けたのだ。

「……な、なんだあの品のなさは! あんな商売、長続きするはずがない!」

「……そうだ! 小田原の人間は、昔馴染みのウチの店を裏切ったりしないはずだ!」

 駅前のアーケード街から様子を窺っていた地元商店の店主たちは、震え声でそう強がった。

 ……しかし、現実は残酷だった。

 彼らの店の前を素通りし、我先にと京急のターミナルへ吸い込まれていくのは、他でもない「昨日まで自分の店で大根や服を買ってくれていた、地元の馴染み客たち」だったのだ。

「……あっ、山田の奥さん! なんであっちに行くんだい!?」

「……ご、ごめんなさいねぇ。でもあっちのデパ地下、お肉が半額だし、横浜の珍しいケーキが売ってるんですもの……!」

 客は、義理ではなく「安さと目新しさ」で動く。

 小田急の言う通りに京急ビルへの入居をボイコットした結果、地元商店街は**「ターミナルの外に取り残され、ただ顧客を吸い尽くされるだけの完全な負け組」**へと転落した。

 横浜商人たちは、容赦なく小田原の商圏の血肉を啜り、ターミナルは連日満員御礼の熱狂に包まれた。

「……どうだ、小田急のボンボンども。これが俺たち横浜の『商売』だ。てめえらの縄張りごと、骨の髄までしゃぶり尽くしてやるよ」

 熱狂の渦巻く1階コンコースを見下ろしながら、五代はステッキを片手に冷たく笑った。

 そして、ターミナル開業の記念式典の壇上。

 無数のマスコミと、顔面蒼白の小田急幹部たちが見守る中、五代はマイクを握り、真の目的を告げた。

「……皆様、本日は当ターミナルにお越しいただきありがとうございます。しかし、皆様にお伝えしなければならない事実があります」

 五代はわざとらしく間を空け、ニヤリと笑った。

「……実は、この巨大なビル。我々にとっての**『ただのバス停(待合室)』**に過ぎないのです」

 ざわっ、と会場がどよめく。

「ただのバス停だと……? これほどの商業施設を建てておきながら!?」

「ええ。我々の真の目的地は、ここから先の『箱根の山』です。……しかし、現状の国道1号線と早川の谷間は、小田急様の登山鉄道とマイカーの大渋滞で、完全に動脈硬化を起こしている」

 五代は背後の巨大スクリーンに、1枚の「設計図」を映し出した。

 それは、小田原駅のターミナルから伸びる、空中の専用軌道(コンクリートの高架橋)。そして、そこを走る「謎の車両」の図面だった。

「……道路が塞がっているなら、空を飛べばいい。我々相鉄・京急連合は、このビルの3階から箱根湯本、さらにその先の急勾配を直接ぶち抜く、**『アプト式(歯車付き)ガイドウェイバス』**の専用高架線を建設いたします!!」

 フラッシュが一斉に焚かれる。

「渋滞知らずの空飛ぶバスが、ターミナルから箱根の山頂まで、客を直通で運び上げる! 小田原はその『発射台』として機能します!!」

「……き、貴様ァァァ!!!」

 小田急の幹部が、壇上の五代に向けてついに発狂したように叫んだ。

 商業の敗北だけでなく、自らの最大の聖域である「箱根の山」への、完全なる物理的侵攻の宣言。

 横浜の商人たちの熱狂と、小田急の絶望が交錯する中、五代の「空飛ぶバス」という最狂の土木計画が、ついにその全貌を現したのだった。

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