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第五十五話 「戦場に立つ理由」

 

 俺は五人を連れ配給所まで走っていた。一応、武装はさせてきている。

 走りながら、胸中にうずまく怒りを抑えこもうとするけれど、いまにも爆発しちまいそうになっている。ずっと気に食わなかった。リベンタの人間は選民思想にとらわれ過ぎている。大国から逃げ出したうしろめたさ、劣等感の裏返しなのかもしれないが、ここまでくるともう許容できない。それに、袋叩きにされてんのは預かっただけとはいえ、俺の部下だ。

 もう……引き下がったりは、しない。


 全力で走り配給所に着くと、数十名の人だかりができていた。俺はそれをかき分け中央まで身体を押し通す。そこには……。

 ボロボロにされた俺の部下らしき奴らがポイ捨てされたゴミのように転がっていた。

 俺は周りを囲む騎士達を睨みつけ、吐き捨てるように言う。


「……誤解があるといけねえから、確認だけはしてやる。これは、てめえらがやったってことで間違いねえよな?」


 リーダー格と思しき人物がニヤけた面で答える。


「そうだが、なんか文句あんのかよ」


「どうして、仲間内でこんなことすんだ」


「さあ? 目障りだったからじゃねえか?」


 クソ野郎の仲間達からゲラゲラと爆笑が起こった。

 リーダー格の男は続けて言う。 


「くくくっ! 生憎、役立たずのタダ飯喰らいに配る配給は持ち合わせてねえ。そんなこともわからねぇのかシルフヘイムの将軍様? わかったのなら、さっさとそこに転がってるゴミを片付けてくれよ。邪魔で邪魔で仕方ねえんだわ。他にも配給受け取りに来る奴らが大勢いるんでね」


 ……腐ってやがる。もはや無法地帯だ。人には汚い部分があるのはわかってはいる。でも、こんなのは行き過ぎてる。間違っている……っ。


 挑発され、馬鹿にされたとなればあの男が黙っている訳がない。

 ベオはリーダー格の男に詰め寄ろうとする。


「おっ? やるかクソガキ? たっぷり可愛がってやるぜ! ギャハハ!」


 毛が逆立ち、ベオは臨戦態勢に入る。俺はベオに一つだけ言い付けた。


「待て、ベオ」


「おいおい、この状況で止めるなんてことしねぇよな隊長」


「まさか。俺だってブチ切れてる。かまわねえ、思いっきりぶちのめしてやれ。ただ、殺すな。クズみてえな奴らでも、肉の壁くらいには使えるだろうからな」


「……へへっ。了解!!」

「であれば、儂らも」


 ベオの隣に並ぶように立つボル爺。更にセタンタ・ベムブル・ニューラーも続く。

 頼りがいのある五つの背が並ぶ。こいつらの実力の程はまったくわからないが、安心して任せられる気がした。


「ボル爺……良いか?」


「お任せを。隊長殿のお手を煩わせる程の相手ではありませぬ故。隊長殿は怪我をしている者達の具合を見てやってくだされ」


「頼んだ」


「然らば」


 ボル爺の目がスッと冷めた色に変わり、じりじりと詰め寄る周りの連中を見渡しながら必四矢に檄を飛ばす。


「相手はたかが六倍の三十人程じゃ。この程度の戦力差、覆せぬようでは隊長殿の下につく資格なしっ! 剣を執れい! 我らに喧嘩を売ればどうなるか、存分に味合わせてやるぞい!」


 ベオの咆哮を皮切りに、怒号飛び交う大乱闘が始まった。

 俺はすぐに倒れている部下に駆け寄り怪我の具合を確かめる。だいたいの奴がたいしたことのない怪我で済んでいる中、一人だけ腕を骨折してる奴がいた。俺はそいつに声を掛ける。


「安静にしてろ。ぽっきり折れてる」


「……申し訳ありません、隊長殿。配給を受け取る簡単なことすらままならない僕をお許しください」


「気にすんな。お前らに落ち度はないよ」


「しかし……っ! このままでは余りものの役立たずである僕達の面倒をみてくれている隊長殿に恩返しが……っっ。せ、せめて我らも副隊長達の手助けを」


「いいって。今は事の次第を見守っとけ。きっとすぐに済む」


「えっ?」


 俺が視線を上げると釣られるように骨折した男も視線を上げる。

 まず目に付くのは、俺や怪我人に近付く者の露払いをしてくれていたボル爺。その姿はまるで剣鬼。鞘に収まったままの剣を手足のように自在に操る華麗な剣捌き。然りとて、真に注目すべきは、その先の先を読み切り、相手が動き出すと同時に打ち込む事を可能とする経験と眼であると言えるだろう。

 技量だけで言うなら、下手したらブラッドに比肩するかもしれねえ……。ボル爺なら安心して任せられるだろう。

 続いてベムブルとニューラー。この二人の戦い方は対照的だった。ベムブルは鈍重ながらも、がむしゃらに剣を振り回し、その様はまるで子供のグルグルパンチのよう。しかし、ベムブルの怪力も相まってフォンフォンと恐ろしい音を鳴らしながら振り回される剣は台風そのもの。無駄な動きこそ多いが、脅威の膂力と言えるだろう。

 打って変わり、ニューラーは無駄を極限まで省いた徒手空拳で立ち回っていた。迫る剣を僅かな身体の捻りで躱し、相手が自身の力で振り回されバランスを崩した所で顎先に拳を置くようにして打ち抜く。相手は次々、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。迫る相手がいるから戦っているとわかるが、仮にニューラー一人で同じ動きをしたら流麗な舞にしか見えなかったことだろう。それ程に見事な体捌きだった。腰にチラつくダガーがあいつの得物のようだが、殺さないよう武器の使用は控えているようだ。まだまだ底が見せていないのが、頼もしくもあり、恐ろしくもあるな。

  だがしかし。どこに出しても恥ずかしくないような三人の騎士を差し置き、その乱闘の中もっとも輝きを放っていたのはベオとセタンタの二人だった。

 実力的には先の三人に劣っているかもしれないのに、目を奪われるのは両者共通して見せるその圧倒的戦闘センスである。

 セタンタは持ち前の俊足を生かした機動力を駆使し相手を翻弄。隙を突き放たれる一閃は、基本的な一振りでありながらも、普通の騎士の放つ一閃とは一線を画す完成度。その一振りはあまりにも美しすぎたのだ。語られずとも血の滲むような鍛錬の日々を感じさせた。だが、セタンタの特筆すべき点はそこではない。基本に忠実だったかと思うと、次の瞬間には今まで見たことのないような一閃を放ってみせる。恐らく、戦いの中でもっとも効果的な攻撃を瞬時に考え、実行させているんのだ。まさに才能の成せる技と言えよう。少年兵とは思えない程の完成された武。このまま順調に成長していった時の事を考えると末恐ろしい。

 ベオの剣技はお世辞にも完成とは程遠いと、最初は思った。恐らく剣を振る事自体が初めてに等しいのかもしれない。しかし、その圧倒的吸収力。相手の繰り出す剣技を躱すと同時に、同じ技を放ってみせる。だが、ベオの才能はそこで終わらない。吸収した技を放つ度に首を傾げているのだ。納得がいっていないのだろう。彼の才能が違うと囁いているのかもしれない。けれど、首を傾げた次の攻撃には微調整され、より優れた一閃を体得してしまっていた。教わらずとも身体が、本能が技の本質を見抜き、最適な動きを選択させている。まだまだ粗削りだが、伸びしろは随一なのは間違いない。


 輝きを放つ五人の圧倒的実力を前に、乱闘は早々に決着を見せることになる。

 その場に立つのは五人のみ。三十人程いた係の者たちは全員が地面に倒れ伏していた。


「す、すごいですね……あの五人の方たちは……」


「おお……。まじですごかったな……。こんな強いとは思ってもみなかったぜ」


 俺と骨折男でビビりながらも呆然としていると、馬蹄の音を鳴らしながら数騎が駆けつけてきた。


「なにをしてやがんだ馬鹿垂れ共がッ! 状況を説明……って、またてめえかコノヤロウ!」


 駆けつけてきたのは騒ぎを聞きつけたバルカンとその側近達だった。

 俺は立ち上がりながら、真剣に訴える。


「俺らはなんもおかしなことはしてねえ。文句があるなら、その辺に転がってる配給の奴らに言えよバルカン」


 バルカンは訝し気に辺りを見渡し、リーダー格の男を睨みつける。


「……説明しろ」


 震えながら、リーダー格の男は言う。


「わ、わたくしはなにも……」


 その言葉に反応し、すぐさまリーダー格の男の顔を蹴り上げるのはベオ。リーダー格の男は仰向けに倒れ気絶したので、ベオが後を引き継ぎ吐き捨てるようにバルカンに言う。


「こいつらは、意地の悪い事に配給を渡そうとしなかったんだよ! おい! どうなってんだよバルカンのおっさん! オレらは身内で争うためにここにいるのかよ?!」


 バルカンもやっと状況を把握し、大きくため息を吐きながら側近の男に一言だけ言い残し踵を返す。


「配給の者は全員入れ替えさせろ。あとは任せる」


 ベオはそれだけで済まされたのが納得いかないのか、バルカンの背に怒鳴りつける。


「おい! なんの詫びもなしかよ!」


 バルカンは無視してさっさと帰ってしまった……。

 俺はベオの肩に手を乗せ、落ち着かせる。


「もういいよ、ベオ。ご苦労だった。さっさと配給受け取って、パーッと飲もうぜ」


「でもよぉ……!」


「これ、小僧。隊長殿がもういいと言っているのじゃから、早う引き上げる準備じゃ」


「ちっ、しゃねえなあ……」


 何事もなかったかのように配給を渡され、怪我人を連れ自分達の天幕まで引き上げ行くのだった。





「じゃあ、開戦前夜の景気づけといこうか! 乾杯っ!!」


「「おおーー!!」」


 ちっとばかし遅くなっちまったがやっと晩飯にありつけることになり、焚火を囲みながら百人の部下達と酒と飯を食う。

 俺の周りにはボル爺、必四矢、何故かわからんが骨折男がいてそれぞれがリラックスした状態で飯や酒を飲んでいる。


「オレぁまだ納得してねえぞコラぁ!」


「おいおい、ベオお前もう酔っぱらってんのかよ! 酒弱すぎ!」


「うるへぇ隊長! オレは酔ってねえ!」


「はいはい。おい、ベムブル。飯足りてっか? 俺の肉やるからお前の分の酒寄越せ」


「い、いいんですか隊長さん? オラ酒より肉の方が好きなもんで」


「隊長殿、失礼してお酌を」


「おうサンキュ、ボル爺。あんたもほれ、俺が注ぐよ。なんだか今日の酒は品の良い味するぜ」


「これはこれは、失敬。ありがたくちょうだい致しますじゃ。うむ、確かに良い酒ですな。美味い」


「だよな。ニューラー! お前はしっかり飲み食いしてるか?」


「はい。十分いただいております」


「そうか。って、セタンタ! おめえなんでナイフとフォーク持ち出してんの?」


「え? 食事って普通こうですよね?」


「……まあ好きにしてくれていいけどよ」


「おらぁ! 隊長! オレは納得してねえって!」


「うっせえ! わかったつの。っと、そういやお前は調子どうだ? 骨折は痛えだろ?」


「痛いですが、僕は平気です」


「つってもなぁ……。その怪我じゃ戦闘は絶対無理だし、本国に帰ってもらうしか……」


「そ、そんな! なにかお役に立ちたいのです。戦闘は無理でも隊長殿の身の回りのお世話くらいならできます! どうかお傍に!」


「えー……」


 男にラブコール送られても嬉しくねえんだが……。

 捨てられた子犬のような目を俺に向けてくんのが少し気持ち悪いが、肩もみ要員として残してやるのもいいか……。


「お前、名前は?」


「僕の事は、ロプトとお呼びいただければ」


「そうか。お前は俺の肩でも揉んでろ」


「はい! ありがとうございます!」



 わいわいがやがやと騒がしくもあり、楽しい時間を過ごした。

 飯を食い終わり、銘々に寝床に戻ってゆき、焚火の周りに残るのは俺と幹部連中とロプトの七人だけとなった。ベオはいびきかいて寝てるけど。

 静かになった場の雰囲気と揺れる焚火を見ていると、自然にぽつぽつと言葉が溢れてくる。


「しかし、解せねえなあ。ロプトの雑魚っぷりは、まあ余りものになるのもわかるってもんだが、他の五人、いや、三人か。ベオとセタンタは初陣だから除外して、ボル爺もベムブルもニューラーも余りものになるとは思えねえ力が、俺にはあるように感じたもんだ。お前ら、猫被ってんだろ?」


「ふぉっふぉっ」

「オ、オラは先程言った通り、力だけのノロマなので……」

「……」


 なんかうまい具合にはぐらかされてる気が……。


「詮索する気はねえよ。ただ、不思議でよ。お前らぐらいの実力があるなら、真剣にやってりゃそれなりの地位にいてもおかしくねえと思ったんだよ。余りものだなんだと言われて、蔑まされるのが納得できねえというか……」


 酒の飲みすぎか? 自分でもなに話してるのかわからなくなってきたわ。


「そうですな〜」


 ボソリとボル爺が呟く。


「儂はこれしか生き方を知りませぬ」


 愛用している剣を掴みながらボル爺ら遠い目をして続ける。


「故に、儂が求めるのは地位や権力、富や名声ではござらん。戦場に立つ事が望み。人の上に立つ事は柄ではありませんしな。ふぉっふぉっ」


「そうかい」


 めずらしい男だ。権力や名声は誰しも多少は欲しているものとばかり思ってたが、唯一望むのが自由に剣を振るう事とは。恐れ入った。まさに剣鬼だな、ボル爺は。


「オ、オラは家族のために戦場に立っています! バカにされたってかまわない! 家族を思えば、我慢できる!」


「ああ、そうだな。うっしベムブル! お前今回で絶対死ぬなよ! この戦いが終わったら嫁さんと子作りに励め! 戦場で頑張れる動機を増やせ! ガハハ!」


「は、はい! 頑張ります!」


 俺はニューラーに視線を送りながら言う。


「別に無理に話す必要はないぞ、ニューラー」


「いえ。隠すほどの事でもございませんので。そうですね、強いて言うなら生きる為、ですね。最低限の生活ができる金があるなら、本当はのんびりと過ごしたいものだと常々思っております。今回の報酬は三倍も貰えるので、しばらく遠い国に旅行できるかもしれない」


「要するに平穏に暮らしたいわけか」


「はい」


「結構な理由だ。でも、そうかー。やっぱり惜しいと思っちまうなぁ」


「ふぉっふぉっ。そう言ってくださるのは隊長殿くらいですな。それだけで儂らは満足。無用な心配はしてくれますまいな」


「……悪い。つい、な」


 少し羨ましさと、嫉妬を覚える。武の才能があるのに、その先に手を伸ばさないのは。

 ま、人の選択にとやかく言うのは野暮ってもんだ。こいつらの生き方を否定したくもねえし、これ以上は無粋になる。


「隊長! ボクにも! ボクにも聞いてください、ここにいる理由!」


「なんだこの主張したがり屋さんめ! ようし、言ってみろセタンタ!」


「はい! ずばり、武者修行しに!」


「ほう。武者修行か。それはまた……初陣から強烈な一戦になっちまって。お悔やみ申し上げるよ」


「死ぬ事前提ですか?! いえいえ、ボクは死にませんよ。死ぬなら自分の生まれ育った国で死にます。ここが死に場所にならないよう精一杯頑張るつもりです」


「お前さん、生まれはどこなんだ?」


「……えぇと。とても遠い所です」


 ふぅん。地方貴族が遠路はるばる武者修行ってか。物好きな奴というかなんというか。


「ま、精々死なねえように気張れよ、セタンタ」


「はい! 頑張ります!」


 その時、いびきをかいて寝てたはずのベオががばっと起きて大声で叫び散らす。


「オレはぁ! なる! 将軍になって、母ちゃんを馬鹿にした奴らを……っ!! むにゃむにゃ……」


 起き上がったと思ったら、すぐ倒れまたしてもいびきをかいて寝てしまった。

 うん、ベオにもなにかしら信じたいもののためにここにいるんだな。

 俺は立ち上がり、ケツの砂を払う。


「そろそろお開きといこうか。明日は早え。たっぷりと寝て、明日に備えるぞ」


「「はっ」」


 後片付けを任せ、俺は自分の天幕に戻る。

 ……つか、一緒にロプトが着いてきてるんだが。


「チ、チミはちなみにどこまで着いてくるのかな?」


「はい! 毛布を掛け、隊長殿が寝付くまでお世話します!」


「気持ち悪っ! いらん! もうお前も自分の寝床に帰れ!」


 俺は逃げるように走り出すが、横にぴったりと着いて離れず並走してくるロプトくん。

 怖すぎるんですけど? こいつ、こっちの人? だとしたらまじでボクのおちりが危険だ!


「隊長殿……僕は。僕はですね」


 ひええええ。

 なに、なに告白? やばすぎる。助けてピサ! 助けてシャノン! 助けてリズ!


「僕は人の真価を信じたい。だから、戦場に立つんです」


「……は?」


 俺は足を止め、少し先で止まったロプトの後ろ姿に悲哀を見た。


「お前……」


「今日はここで失礼します! また明日、戦場で!」


 あっという間にロプトは走り去っていた。

 とぼとぼと歩き、自分の天幕に到着し早々に床に就く。天幕の天井をボケっと見ながら、さっきの言葉が何回も繰り返し流れた。

 人の真価を信じたい。その言葉は寝るまでずっと耳を離れることはなかった。 



 翌日、日が昇る少し前に起きる。

 薄暗い、しかし、夏本番前というのにすでにうだるような暑さを肌で感じた。これは今日の戦況を示すもんか? そうならないことを願うばかりだが。

 俺は整列し、待機する特殊遊撃部隊百名の前に立ち一望し、本日最初の指示を飛ばす。


「全員速やかに……!」


 ごくりと部下達から喉が鳴る。

 戦闘前の一番緊張する瞬間。それは命令を下される時だ。空気が張り詰める、が……。


「とりあえず待機ね」


 がくぅ! とずっこけるものが数名ちらほらいたが、すぐにビシッと整列し直す。

 ちょっと面白い。っと、いけねえいけねえ。今日はおふざけはなしだった。


「悪い悪い。まぁ、そう肩ひじ張るな。俺らの活躍は相手の出方次第だ。それまでバルカンの本陣で待機させてもらうとしよう。あそこにゃあ、キンキンに冷えた水がしこたまあるらしいからな。本番までそこでのんびり戦況観察といこうや」


「いやいや、ちょっと待てよ隊長! そんなちんたらしてたら誰かがフィヨンドの首とっちまうんじゃねえのか?」


「落ち着けよベオ。そんなすぐに大将の首が取れるわけねえだろ。大将は三万の兵の後ろにいるんだ。初日から飛ばしてちゃ、いざ大将に届いたって時に体力残ってねえ! ってことになる。だからいまは待機。わかったな?」


 納得いかなそうにしてたが、ボル爺に脇を小突かれると大人しく引き下がった。


「さて、他に異論はねえな。じゃあ移動開始。バルカンの本陣にお邪魔するぞー」


「「おおー」」



 俺達の到着にバルカンはこめかみをピクピクと震わせ、いまにも発火しそうな程怒りに震えていた。


「まあまあ。そんないきり立つなって。ほい、冷たい水」


「勝手に飲んでんじゃねえ! てめえはいつもいつも……っ!」


「将軍。そろそろ……」


 バルカンの側近が戦闘が始まることを知らせに来た。

 バルカンは歯ぎしりを解き、大きく息を吐きながら俺から戦場に目を移す。


「隅っこで大人しくしてろクソ野郎。邪魔だけはするな」


「仰せのままに、大将」


 ったく。ピリピリしすぎ。いや、あれが普通か? 俺がボケっとし過ぎなのか?

 まあ今はそんなことはどうでもいい。もう始まるのだ。あの四騎士フィヨンドの精鋭達と。波の騎士の異名を持つ四騎士フィヨンドとの。

 戦場を見渡してみる。こちらの陣形は基本的な横陣。もっともポピュラーでだいたいの戦争ではこれが始まりの陣形だ。

 対してフィヨンド軍は。


「おいおい……。正気か? フィヨンドさんよぉ……」




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