第一章8話『ダンジョンへ』
おれが寝泊まりしている貸屋は《鉄壁の要塞》第三ゲートから一キロメール程離れた場所にある。
周りには多くの商店が並んでおり、色々な店を回ってはいつも安いものを探している。
貸屋の家賃は一巡月一万Rで広さは6帖程で破格の安さだ。もちろん、シャワーもトイレもキッチンもある
俺は貸屋にたどり着くと、まず先に少女をベットに横たえた。
少女は道中もすやすや寝息をたてており、今も全く起きる気配はない。
--それにしても、本当にヒトにしか見えない。
背負った際に肌に触れたが、ヒトの肌と遜色ない触り心地だった。
基本的に《召喚魔導機》から排出される使い魔は、主人の魔力を消費し行動するらしい。
この少女も使い魔であるのなら、俺の魔力を消費して行動するのだろうか。
そんな事を考えると急に意識が朦朧としはじめてきた。
--やばい。
そう思った瞬間、俺は意識を失った。
-
--
---
----白い。
窓から差し込む目映い光によって俺の意識は覚醒した。
外は依然として明るく、数刻間程眠ってしまった事が予想できた。
--?
ベットを確認すると、そこにいるはずの少女が何処にもいなかった。
「おはようございます」
少しして、少女が玄関の扉から姿を表した。
起きている少女の姿に驚愕しながらも、状況を確認する。
どうやら服を買ってきたらしい。
「盗んで来たりしてないよな?」
「滅相もありません。ちゃんと買ってきました」
彼女の瞳は俺から見て、右側が緋色に輝いていて、もう片方は銀色だ。
その瞳を見るだけで彼女がただのヒトではないことは明らかだった。
「買ってきたって、金はどうしたんだ?」
「……」
無言で指を指す彼女の視線をたどると、そこにあったのは、借金に追われながらも、こつこつとためたRが入っていたはずのビンだ。
「……」
服を買わなければいけなかったのは仕方ない事なので必要経費だ。
軽いショックを受けながらも仕方ないと割りきる。
時刻を知るための道具、時刻結晶を確認すると、刻まれている8の数字が輝いていた。
8の刻?
「まるまる1番日中寝てたのか?」
数刻間寝てしまったと思ったら、一日中寝てしまっていたらしい。
「主人は魔力供給は初めてですか?」
「主人はやめてくれ、リビ・トーワスだ」
「では、リビ。おそらく一日中も寝てしまっていたのは魔力供給のせいだと思われます。初回起動には二十刻間程掛かるので」
彼女は自分の事をまるで物であるかの様に例えている。
実際にここまでの彼女は表情一つ変えず淡々としており、外見はヒトに見えるが、内面はヒトと言うより《自立式魔導機構搭載四型》などの魔導機に近いと思ってしまった。
「初回起動が二十刻間って、その次からはどのくらい掛かるんだ?」
「おそらく、一日に一回、最低でも四刻間程は魔力供給が必要かと思われます」
そういった後、急に彼女は纏っている布を脱ぎ始めた。
もちろんその下は一糸纏わぬ産まれたままの姿だ。
使い魔に対して産まれたままの姿という表現が正しいのかはわからないが。
「ちょっ!何してるんだ!?」
「見てわからないのですか?」
「わかるけど!そういうのは、俺が出てってからにするのが、普通だろ!?」
俺が慌てふためいていると、錯覚だろうか一瞬彼女の口元が少しつり上がった気がした。
「私は使い魔なので問題ないです。それともリビは使い魔にまで欲情する変態なのですか?」
「……」
俺がポカンと口を開けていると、クスッと彼女が笑った。
「冗談です。見たいのであれば見ていて構いませんが、そこはご自由にどうぞ」
そう言って彼女は着替えを再開する。
俺は慌てて、後ろを向いて彼女を見ない様にする。
--訂正しよう。彼女はとてもヒトらしかった。
少しの間、部屋には衣擦れの音が響いていた。
着替えを済ませた彼女と食事を取る。
使い魔が何を食べるかはわからなかったが、とりあえず俺が渡した干し芋を彼女はちょこちょことかじりながら食べている。
「そういえば、呼び方決めてなかったな」
「なんの呼び方ですか?」
「お前の呼び方だよ」
「使い魔である私の呼び方など、どうぞご自由にしてください」
「じゃあ、レイでいいか?《黒熱の女王》だからレイ、我ながら安直だが」
「どうぞご自由にお呼びください」
レイから淡々とした口調で許可もらう。
「じゃあレイ、早速今後の予定だが」
そこで俺は一呼吸入れる。
「ダンジョンに行こう」
俺達は朝食を終えると早速ダンジョンに向かう為の準備を始めた。