魔王軍四天王 ギャップドラゴンとの戦い
霧の村を抜けると、一行は広大な渓谷に到着した。渓谷の中央には、全長50メートルにも及ぶ、漆黒の竜が鎮座していた。鱗は鋭く、目は赤く光り、その威圧感だけで、空気が震えるようだった。
「う、うわああああ!!」
クラスメートたちは、その姿を見た瞬間、一斉に逃げ腰になった。
「これ、絶対やばいやつだ!逃げよう!」
「待て、まだ何もしてきてないぞ!」
ステータス画面を確認する。
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名前:ギャップドラゴン
種別:ギャップ系モンスター
見た目:全長50mの黒竜
実態:極度の小心者(人前で緊張する)
能力:見た目だけで敵が逃げる
弱点:褒められると照れて動けなくなる
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「……見た目だけで敵が逃げる、って……」
長介は、ステータス画面を読み上げた。
「みんな、ちょっと待って。これ、実態は『極度の小心者』らしい」
「は?こんな見た目で?」
ギャップドラゴンは、巨大な体をゆっくりと動かし、低い声で唸った。
『グ……グルル……』
その声だけで、クラスメートの何人かは膝が震えだした。
「お、おい、近づいてきてるぞ!」
『グ、グルルル……(あ、あの……えっと……)』
「……何か、言いたそうにしてないか?」
長介は、よく観察した。ドラゴンの巨大な体は、よく見ると、わずかに震えている。目は赤く光っているが、その奥の瞳は、どこか不安げに揺れていた。
「……これ、本当に小心者なのか……?」
長介は、一歩前に出た。
「おい!」
『ビクッ!!』
長介の一言に、ドラゴンの巨体が大きく震えた。
「……今、ビクッてした……」
『グ、グルルル……(な、なんだ……人間……何か……言いたいことが、あるのか……)』
ドラゴンは、威圧的な声を出そうとしているようだが、よく聞くと、声が微妙に裏返っている。
長介は、ステータス画面の「弱点:褒められると照れて動けなくなる」という記述を思い出した。
「……お前」
『グ、グルル……(な、なんだ……)』
「めちゃくちゃ、デカいな」
『グ……グ……?』
「その体、本当にすごい迫力あるよ。さっき会った瞬間、正直、ビビった」
『グ……グルル……(……ビ、ビビった……俺に……?)』
「うん。こんなに大きい竜、初めて見たし。鱗の質感とか、目の光り方も、すごくカッコいい」
ドラゴンの体が、わずかに赤みを帯びた。よく見ると、鱗の隙間から、ピンク色の光が漏れ始めている。
『グ、グルルルル……(て、照れ……いや、俺は……魔王軍の四天王として……威厳を……)』
「あと、さっきの『グルル』って声、結構いい声してるよな」
『グ、グ、グルルルル!!(い、いい声……?俺の、声が……?)』
ドラゴンの巨体が、ガクガクと震え始めた。赤みは、もはや鱗全体に広がっている。
「……これ、効いてるな」
クラスメートの一人が、小声で言った。
長介は、さらに続けた。
「お前、本当はそんなに怖い奴じゃないんじゃないか?」
『グ……グルル……(そ、そんなこと……でも……俺は……四天王として……)』
「いや、俺、お前のこと、なんかいい奴っぽいなって思ってるよ」
『グ、グ、グ……!!!(い、いい奴って……俺が……?)』
ドラゴンは、ついに、その場に座り込んでしまった。巨大な体は完全に固まり、ピンク色に染まった鱗から、もはや威圧感は一切感じられない。
『……うう……恥ずかしい……人前で、こんな……』
「……あの、もしかして、もう動けない感じ?」
『……はい……すみません……褒められると、いつもこうなって……動けなくなってしまうんです……』
長介は、少し申し訳なさそうな表情を見せた。
「……これって、勝った、って言えるのか……?」
『……はい……戦闘不能、という形で、ご報告いたします……すみません……』
ステータス画面に記録が表示される。
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ギャップドラゴン:戦闘不能(照れによる行動不能)
備考:称賛攻撃により完全制圧
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クラスメートたちは、巨大な竜が、顔(?)を赤くしてうずくまっている姿を、しばらく無言で見つめていた。
「……あの見た目で、この対応……ギャップがすごいな……」
「むしろ、ちょっと可愛く見えてきた……」
ドラゴンは、うずくまったまま、ぽつりと言った。
『……あの……皆さん……』
「うん?」
『……戦いに来たのに……こんな、情けない姿、見せてしまって……本当に、申し訳ないです……』
長介は、少し笑った(笑気耐性のおかげで、これは「素」の表情だった)。
「いや、別に。むしろ、お前みたいなのも、悪くないと思うよ」
『……ありがとう……ございます……』
戦闘不能になったドラゴンを、根本・川島・田辺の三人が、興味深そうに観察していた。
「……このドラゴン、なんか、俺たちっぽくない?」
「どこが?」
「ほら、見た目はすごいのに、中身は普通っていうか」
「お前、それ、ドラゴンに失礼じゃないか?」
「いや、褒めてるんだよ」
「褒めてるように聞こえないけどな」
三人は、戦闘不能になったドラゴンに、軽く手を振って、その場を後にした。
一行は、座り込んだドラゴンを後にし、渓谷を進んでいった。
戦いの後、土属性のクラスメートが、考え込みながら言った。
「……今回、土属性、関係あった気がするんだけど……」
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新スキル開放:土属性・笑いのツボ「ギャップを支える土壌」
備考:見た目と実態のギャップを受け止め、相手の本質を見抜く力
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「……土って、地に足がついてる、っていうか……見た目に惑わされない、ってことなのかもな」
長介は、ドラゴンの「実は小心者」という本質を、最初から疑わずに受け止めたことを思い出した。
渓谷の奥には、これまでとは違う、奇妙な気配を放つ存在が待っていた。




