同級生40名と一緒に異世界転移
放課後、怒長介は、いつものように誰の話にも笑わずに帰り道を歩いていた。クラスメートからは「笑わない男」「鋼の表情筋」と呼ばれているが、本人としては「面白くないから笑わない」だけのつもりだった。
その日、3年A組の40名は、学年レクリエーションの罰ゲームで「お笑いライブ観覧」に参加させられていた。会場は雑居ビルの地下にある小劇場。出演者は無名のピン芸人だったが、ステージに立った瞬間、芸人の背後に謎の光――まるでスポットライトが暴走したような、虹色に渦巻く発光体が現れる。
「なんか光ってる…CG?」
「いや演出だろこれ」
クラスメートたちが笑いながらざわめいた瞬間、光は爆発的に広がり、会場全体、そして40名全員を包み込んだ。
気づくと、そこは見渡す限りの草原。空は奇妙な虹色に発光し、どこからか軽快な笑い声のようなBGMがエコーのように響いている。
「……ドッキリ?」
誰かが言うと、何人かが「ドッキリだ!」「カメラどこ!?」と笑い始めた。長介だけが、その笑いに違和感を覚えていた。クラスメートたちの笑い方が、徐々に普通ではなくなっていく――目が笑っていない、顎が小刻みに震えている、声が止まらない。
「……あの、ちょっと笑い方おかしくない?」
長介が指摘したときには、数名が腹を抱えてのたうち回り始めていた。「お、おなかが、痛い」「息が…できな……」
そこに、空気そのものから声のようなものが響く。
『ここは笑界。大気中に笑気成分を含む世界です。笑気への耐性がない者は、過度な笑いにより腹筋崩壊、顎関節脱臼、最終的には笑い死にに至ります』
長介は青ざめた。だが奇妙なことに、自分はまったく笑いたい気持ちにならない。周りのクラスメートが次々と笑気に侵されていく中、長介だけが平然としていた。
「お前…なんで平気なんだよ!?」
「わ、わかんない…昔から、何見ても全然笑えなくて」
実は長介は、生まれつき「笑いのツボ」が極端に高い体質だった。クラスでは「面白くない男」「空気を凍らせる男」と陰で呼ばれ、誰のギャグにも反応しないことが一種のコンプレックスだったのだが――この世界では、それこそが「笑気耐性」という最強のスキルだった。
『笑気耐性適性者を確認。チュートリアルを開始します』
声に従い、長介の前に半透明のステータス画面が表示される。
```
名前:怒 長介
スキル:笑気耐性(初期値:極高)
特殊技能:口プロレス(未開放)
```
「口プロレス…?」
困惑する長介の周りで、クラスメートたちはまだ笑い続けている。幸い、軽度の笑気中毒は休めば回復するらしく、ほとんどの生徒は涙を流しながらも息を整え始めた。
「みんな、大丈夫か!?」
長介は一人ひとりに声をかけ、回復を確認していく。クラスの中心人物だった陽キャグループも、いつも大人しかった生徒も、この異常事態の中では関係なかった。長介は気づかぬうちに、クラスをまとめる役割を担い始めていた。
「とりあえず…動ける人から集まって。状況を整理しよう」
40名のうち、数名はまだ笑気の影響で苦しんでいる。遠くには、明らかに「モンスター」と呼べる奇妙な生物の影が見えた。
長介は、自分の頬を一度叩いた。痛い。これは現実だ。
「みんな、悪いけど…ここからは、笑ったら死ぬ世界らしい」
誰も笑わなかった。それが、せめてもの救いだった。




