第6話 絶対に曲げられないゲームのルール
ホームルームが終了した。
本格的な授業は明日からということで、今日は早めの下校になった。
結局、3人のヒロインと関係性を持ってしまった。詩織とは学級委員として、小鞠とは幼馴染として、舞美とは朝の「衝突事件」の関係者として——どれも避けたかった接点だが、ゲームのシナリオはそれを許さなかった。
帰りの準備をしていると、後ろの席の男が声をかけてくる。
「おい、お前。なんで初日からかわいい子ちゃんたちに囲まれてるんだよ。うらやましいな」
ちょっと軽薄そうな見た目の男。早瀬川ヨシオが話しかけてきた。こちらから接触しようと思っていたところだ。ちょうどいい。
本来のゲームではシナリオのヒントをくれたり、ヒロインとの関係性の進行状況を教えてくれる重要なキャラだ。情報収集役として、彼との関係は必須になる。
「俺はヨシオ。この学校の女子のことは何でも聞いてくれ」
ヨシオは手帳を取り出す。開いたページには女の子の情報がこと細かくまとめられていた。写真まで貼ってある徹底ぶりだ。
「なんでお前の周りに、この学校の新入生注目トップ3が集まっているんだ?」
ゲームと同じように、こいつに聞けばヒロインたちの情報が手に入るみたいだ。創太は安堵する。少なくともシステムの一部は正常に機能している。
「別に偶然だよ。星野さんとは朝たまたまぶつかっただけだし、小鞠は幼馴染、霧島さんは学級委員で一緒なだけ」
「おお、南小鞠さんとは幼馴染なんだな。いろいろ教えてくれよ」
そう言われても今朝この世界に転生したばかりの創太には昔の思い出など何もない。面倒くさいな。
「別に話すことなんてないよ。そういう設定なんだよ」
思わず本音が出てしまう。
「そういう言い方はよくないな」
ヨシオの表情が急に変わる。さっきまでの軽薄な笑顔が消え、真剣な顔つきになった。
「高校生活の3年間は大切だぞ。お前の人生にかかわることだ。知ってるか?卒業式の日に学校の前にある大きな桜の木の下で告白されると、二人は永遠に幸せになれるって伝説があるんだ。あの三人の誰があの木の下で待っていてくれるかは、お前の行動次第なんだぜ」
「ちょっと待ってくれ。なんであの三人限定なんだよ。ほかにも女子はいっぱいいるだろ」
ぼくは教室を見回す。クラスには30人ほどの生徒がいる。男女の比率は男性向け恋愛ゲームらしく、一対二くらいで女子が圧倒的に多い。モブの女子生徒も個性は様々だ。黒髪ロング丸メガネのおとなしい雰囲気の子から、茶髪のギャル、小学生のようなロリ顔から、ナイスバディな超絶お姉さままで、ヒロインたちにも負けていない美少女が集まっている。
それに対し、男子生徒はほとんど空気。判で押したようなモブばかり。クラスで際立つのは主人公である創太とヨシオくらいだ。
「わかるだろ?あの三人だけ特別なんだ。お前と俺が目的を果たすにはあの三人の誰かとハッピーエンドになるしかないんだ」
ハッピーエンド。つまり創太の死だ。
なんかおかしい。ゲームのお助けキャラにしては言動が変じゃないか?
「なんで僕が彼女たちと両想いにならなきゃいけないんだ。それだけの情報があるならお前がアタックすればいいじゃないか」
「システム的に無理なんだよ。俺はお前の恋愛をサポートする。それが仕事なのさ」
言葉の端々に違和感を感じる。システム的に?朝のゲームの強制力を思い出す。ヨシオの言葉選びが妙にメタ的だ。
「お前、この世界のこと何か知ってるのか?」
ぼくの質問に、ヨシオの表情がこわばる。しかし、その質問には答えない。苦々しい表情を浮かべ、急にゲーム内と同じ調子でヒロインとの親密度を話し始める。
「今のところ、霧島さんはお前を好意的に思ってるみたいだぜ。神南さんはちょっと不服そうだ。星野さんはかなり機嫌が悪そうだぜ、注意したほうがいいぞ」
これはお助けキャラとしての状況解説だ。彼女たちとの親密度は数値化されたパラメーターがないため、ヨシオの情報から判断するしかない。
今まで普通に会話していたのに、この世界について問うたとたんゲームと同じ設定された言動をした。しかも一瞬見せたあの苦々しい表情が気になる。
創太がヒロインと出会うことを強制されたように、このヨシオもゲームの制約で自由な発言ができないと考えられる。もしかすると、彼も創太と同じようにゲームに捕らえられた人間なのかもしれない。そうなると心当たりがあるのは一人しかいないが、——
「おい、聞いてるのか?」
「あ、ああ。ありがとう、参考にするよ」
ぼくは慌てて答える。ヨシオの正体を確かめるのはもう少しこの世界の情報を集めてからでもいいだろう。
教室の様子をうかがうと、ヨシオの情報通り後ろの席の星野舞美はこちらをずっとにらんでいる。金髪のツインテールが怒りに震えているようにも見える。朝の件をまだ根に持っているのだろうか。
霧島詩織はこちらを気にすることなく帰りの準備をしていた。しかし、時折チラリとこちらを見ているのが分かる。学級委員として今後どう関わっていこうか考えているのだろうか。
最後に南小鞠を見ると目が合ってしまった。
「創太~!一緒に帰ろう〜」




