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絶対に気づいてはいけないラブコメ~~ハッピーエンドで必ず死亡する鬱ギャルゲーに転生した俺は死にたくないからボッチを貫く~~  作者: 杜宮みやび


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第41話 絶対に遭難するお約束の山登り みのりサイド

 中間テストは無事に終了した。創太は無事学年2位という好成績でこのイベントをクリアした。

 もっともこのゲームで学力は大きなパラメーターではない。詩織との好感度に若干プラスに働く程度。ミニゲームなんて言うお遊び要素を入れている時点で重要度の低さがわかる。


 私が本気を出せば学年一位も不可能ではなかったが、ここで無駄に目立っても仕方がない。適当に手を抜いて中間程度の順位に納まるよう調整した。


 むしろ問題なのはテストの後に控えている『山登りイベント』だ。主人公と好感度の高いヒロインが熊に襲われて遭難するストーリー。このゲームのお約束として選択を間違えれば簡単にデスエンドに突き進む。


 今の時点で創太との好感度が一番高そうに見えているのは舞美だろうか。

 

 素直にストーリーが進むのならいいが、事故に見せかけて私を排除しに来る可能性も否定できない。できれば遭難に備えていろいろと準備をしておきたいところだけど、ここは恋愛シュミレーションゲームの中の商店街。イベントではデートくらいしか利用されることの無い店に、当たり前だがサバイバルグッズなどという設定はない。


「できればロープやサバイバルナイフくらいはそろえておきたかったんだけどな」

 私は何か使えるものはないかと店を回るが、刃物と言えばカッターナイフと包丁くらいしか見当たらなかった。


「さすがに、山登りに包丁を持っていったら見つかった時の言い訳しようがないわよね」

 武器としてはそれなりに強力だが、抜き身の包丁をリュックに入れて行動するというのは、それはそれで怖い。

 

 いろいろ考えたものの、 結局いざという時の食糧だけを準備して当日を迎えた。使えそうなもの候補はいくつかあったのだが、この体は華奢な女の子。下手に荷物が増えると体力が持たない心配があった。


 * * *


「みんなそろったかぁ、そんなに険しい山じゃないが危険はつきものだ。遭難、がけ崩れ、熊との遭遇。まあいろいろ気を付けてくれや」

 担任の金山先生が明るく言う。まるでフラグを立てるような台詞に、私は苦笑いを浮かべた。


 生徒たちは決められた班ごとに協力して頂上を目指すことになっている。


 主人公である創太とヒロインたちは同じ班。私は幸い創太たちとは違う班に配属されていた。これで少なくとも、直接的な巻き込まれは避けられるはずだった。


 それぞれの班が思い思いに登山道を登り始める。


 隼人として生きてきた現実世界での人生では、ゲーム配信をしていることからもわかるように、どちらかと言えばインドア派の人間ではあったが、アウトドアは嫌いではない。

 むしろ体を動かすことは大好きで、スポーツは人並み以上にできるほうではあった。しかし、それは現実の世界の男の体の場合だ。


 今の姿である佐伯みのりの体は、見た目以上に華奢だった。読書好きなもの静かな女子という設定だ。体力があるはずもない。さらに胸には余計なおもりが二つもついているのだ。


 男と女では体の動かし方も違う。普段の行動には慣れてきていたが、こと運動となると思うようにいかない。息は上がりやすく、足腰も頼りない。同じ班の生徒たちに遅れをとらないよう、必死についていく。


 目的地の頂上まであと少しという所で、グループの歩みが止まった。前の方で何かトラブルが起きているようだ。


「うわああああ!」

 前方から悲鳴が聞こえてきた。見ると、別の班の生徒たちが慌てて駆け下りてくる。


「クマよ!クマがいるの!」

 女子生徒の一人が泣きながら叫んだ。顔は青ざめ、足も震えている。


 ついに来た。山登りのメインイベント。


 私はこのイベントを知っていた。熊が襲うのは、この時点で一番主人公の好感度が高いヒロイン。

 主人公は熊と戦うか、かばって怪我をするか、逃げて遭難するかのルートに分岐する。選択肢によってはデッドエンドもある危険なイベント。


 これまでの流れで襲われるのは舞美だろうと思っていた。創太の舞美への好感度は明らかに高い。舞美が襲われ、創太が助けに入る。そういうシナリオのはずだった。


 しかし――


 茂みの向こうから現れた巨大な熊は、なぜか私の方を見据えていた。


 え?

 なんで?


 私は主人公じゃない。モブキャラクターの佐伯みのりに過ぎない。熊が襲う対象として設定されているはずがない。


 しかし、熊は確実に私に向かって突進してくる。


「きゃあああ!」


 私は反射的に走り出した。同じ班の生徒たちは既に散り散りになって逃げている。

 後ろから熊の重い足音が聞こえてくる。振り返ると、明らかに私だけを狙って追いかけてきている。


 なぜ? なぜ私が?


 走りながら必死に考える。これはゲームのバグなの? それとも、誰かが意図的に私を狙わせているのか?


 息が上がる。この華奢な体では、長時間走り続けることは不可能だった。足がもつれ、バランスを崩す。

 その時、足元の石に躓き、私は勢いよく前に倒れた。しかし、倒れた先は平地ではなく――

 崖だった。


 私の体は崖の斜面を滑り落ちていく。木の枝や岩に体をぶつけながら、どんどん下に落ちていく。


「きゃぁあああ!」

 ドスン、


 永遠の奈落に落とされるかと恐怖したが、私の体は崖からせり出した茂みに引っかかって止まった。


 細かく茂った枝のおかげで大きなけがはなさそうだ。そう思って立ち上がると、右の足首に強い痛みを覚えた。


 転げ落ちる途中でひねってしまったみたいだ、一度痛みを自覚すると、ずきずきとした痛みが広がっていく。靴下で分からないが結構ひどいことになっていそうだ。せめて折れていないことを祈った。


 今落ちてきた崖を見上げると崖はそれほど高くはないように見える。とはいえ軽く数メートルはあるだろう。ロッククライミングでもしなければ上ることは難しそうだ。しかも今は足をくじいてしまっている。私一人の力で上ることは到底無理であることは明白だ。


 まさか、私が襲われることになるなんて……


 自分のうかつさを呪う。


 ヒロインであれば、物語的に必ず何らかの助けが来るだろう。しかし、私はゲームの中ではただのモブキャラクターだ。わざわざ救出する意味はない。


 急に心細くなり、涙があふれてきた。いけない、心までみのりに侵食され始めているみたいだ。でもそれももうどうでもいいかもしれない。私はここでゲームオーバーだ。



 私があきらめてうなだれていると少し上のやぶが大きな音を立てた。

 まさか、熊がここまで追いかけてきたの?!恐怖に震え動けないでいると、やぶをかき分けて現れたのは創太だった。


「佐伯さん、だいじょうぶか?」


「神代君?!何でここにいるの?痛っ……」

 あまりの驚きに、傷めた足で立ち上がってしまい、鋭い痛みにしゃがみこむ。


「大丈夫、今助ける」

 創太は器用に崖を伝ってみのりのそばまでやってきた。

 私は信じられない気持ちで創太を見上げる。


「痛みはどうだ?」

 創太はてきぱきとみのりの靴を脱がして怪我の状況を確認する。足はやはりかなりひどく腫れていた。


「足首を捻ったみたい……立てません」

 幸い骨折まではいってなさそうだが、この状態では歩くのは困難だ。


「崖と熊、イベントの振りをきちんとこなしてくるあたり、さすがゲームだな」

 私の不安を和まそうと、創太は軽口をたたく。


「すいません、私なんかのために……」

 私はうつむいたまま謝った。でも、私の心の中は申し訳なさよりも、助けに来てくれてという喜びに満ち溢れていた。


 * * *


 

 時間はかかったが、私たちは詩織の案内で駆け付けた救助隊によって助けられた。 

 創太にGPSをつけているなんてさすがは詩織だ。だけど今回はそのおかげで私も命を失わずに済んだ。ひとまず感謝をしておく。


 救助された私はそのまま病院に入院となった。

 足のけがはすぐによくなり、退院することができたが、学校では今まで以上にヒロインたちの私に対するあたりが強くなっていて、教室で創太に近づくことさえ許されない。


 今になって考えてみると、あの熊の襲撃は私を殺すために仕組まれていたんじゃないかと思いいたる。


 あの時点で、私の創太に対する好感度が、ヒロインたちよりも上になってしまっていた。それをわかっていた詩織たちは私が熊に襲われるのをわかっていて私とは離れた場所にいたのだろう。


 彼女たちの誤算だったのは、詩織たちの静止を振り切って、創太が助けに行ってしまったこと。

 本来なら私はあのまま死んでいたのだろう。創太によって命を救われたのだ。


 創太の行動はきっとヒロインたちの不満度をあげたに違いない。創太の助けになれればと思って行動していたが、私の存在はマイナスの効果しか与えていない。

 もうこれ以上迷惑はかけられない。創太にはかかわらずに、私は私でこの世界から抜け出す方法を考えよう。


 

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