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第10話 絶対進展させてはいけない図書館デート

 図書館のフリースペースには午後の日差しが窓から差し込み、静かな空間に温かな光を落としていた。

 

 ぼくはカモフラージュのために持ってきた参考書を開いてはいたが、全く頭に入ってはいない。気持ちは横に座る詩織に向きっぱなしだ。


 彼女の長いピンク色の髪が肩から滑り落ち、真剣に問題を解く姿は美しい。

 だが、見た目ではわからない、彼女の中の不満度を解消しないと早くもデッドエンドの危機だ。

 数値化されたパラメーターがわからないというのは非常にもどかしい。こんなもの現実の人付き合いと変わらないじゃないか。むしろ現実より難しいかもしれない。

 

「どうしたの?」

 詩織が不意に顔を上げて俺を見つめる。彼女の濃紫色の瞳が、ぼくの心をのぞき込むように感じた。


「何でもない」

 ぼくは目をそらし、再び参考書に意識を向ける。


 シャーペンのカリカリという音だけが図書館の静寂に響く。ぼくらはほとんど会話することもなく集中して勉強に取り組む。だが、集中できていたのは詩織だけだろう。ぼくの頭の中は、このゲームの攻略法でいっぱいだった。


 詩織は学年トップの成績。小鞠はスポーツ万能。舞美はアイドルとして活躍中。そんな彼女たちの中で、平凡なぼくはどうやって付き合っていけばいいのか。この世界の「ゲームオーバー」は、ぼくの現実世界での「ゲームオーバー」を意味するのかもしれない。そう考えると、また冷や汗が背中を伝う。


 一息ついてペンを置いたところで詩織が尋ねてきた。


 「ところで、神代君はお付き合いしている女の子はいるの?」


「げふぉっ」

 

 直接的な質問に思わずむせる。こんな唐突な質問、ゲームのイベントフラグだろうか。ここでの返答が重要なのは間違いない。


「い、いないけど」

 ぼくは少し顔を赤らめながら答える。

 

 詩織はにっこりと微笑む。「そう。なんとなく聞いてみただけ」


 その笑顔に胸が高鳴る。これは好感度が上がったサインだろうか。だが、詩織エンドはホルマリン漬け。そう思うと一気に冷や汗が噴き出す。


 「神代君って、読書以外に何か趣味はあるの?」

 詩織が再び質問してくる。


 「あ、うん……ゲームとか……」

 現実の自分の趣味をつい口にしてしまう。


 「ゲーム?」詩織は少し驚いた表情を見せる。「どんなゲームが好きなの?」

 どう答えるべきか。ここで的確に答えれば好感度が上がるかもしれない。かといって、あからさまに彼女の興味を惹くような答えをすれば、作為的に思われるかもしれない。


 「RPGとか、あとは……」ぼくは言葉を選びながら答える。「最近は恋愛シミュレーションゲームにもハマってるんだ」

 言ってから後悔した。なんでそんなことを言ったんだ。だが意外にも、詩織は目を輝かせる。


「そうなんだ!私も実は恋愛ゲーム、好きなの」彼女は少し恥ずかしそうに笑う。「でも、みんなには内緒にしていてね。クラス委員だから、そういうの好きだって知られたら、イメージダウンしちゃうかなって……」

 これは予想外の展開だ。詩織の意外な一面を知ることができた。共通の趣味の話。好感度は確実に上がっているはずだ。


 「そ、そうなんだ。ぼくも詩織さんがそういうの好きだって知らなかった」

 詩織は少し身を乗り出して、声をひそめる。「神代君とはなんだか気が合いそう。同じ学級委員だし、これからもっといろいろ話したいな」


 心臓が高鳴る。これは間違いなく、イベントフラグが立った瞬間だ。


「う、うん。ぼくもそう思う、よ」

 ダメだとわかっていても、心が揺れる。このまま図書館にいたら、詩織ルートまっしぐらだ。

 ボッチエンドを狙うためにも、これ以上親密になるのは避けた方がいい。


「あー、ぼくもう戻らなきゃ……」

 そそくさと勉強道具をカバンにしまい始める。


 少しがっかりした表情を見せるが、うなずく。「そうね。今日はここまでにしておきましょうか」

 詩織は少し頬を赤らめて、「また一緒に勉強してもいいかしら」と言って、自分も参考書をカバンに入れ始める。


「あ、ああ、もちろんだよ」

 ここで断るわけにもいかない。


「ありがとう、じゃあまた明日。学校でね」

 そういって詩織はぼくより先に席を立つと手を振って図書館の席を後にした。








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