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第五話 影を読む者

第五話 影を読む者



 夜だった。




 焚き火の火が、小さく揺れている。




 四人は、円を囲むように座っていた。




「……四つ、か」




 犬山道節が呟く。




「まだ半分だな」




「だが、確実に集まっている」




 犬川荘助が静かに言う。




 犬田小文吾は、火を見つめながら腕を組んでいた。




「でもよ……」




 低い声。




「この珠、集めた先に何があるんだ?」




 誰も、すぐには答えなかった。




 それは、まだ分からない。




 だが――




「……理由は、後からついてくる」




 犬塚信乃が言った。




「今は進むしかない」




 その時だった。




 ――パチッ。




 火の音とは違う。




 わずかな気配。




「……っ」




 荘助が顔を上げる。




「囲まれている」




 道節が立ち上がる。




 気配は、ひとつではない。




 複数。




 だが――妙だ。




「……近いのに、遠い」




 小文吾が眉をひそめる。




「気配が、ぼやけてやがる」




 次の瞬間。




 闇の中から、声が響いた。




「さすがだな」




 落ち着いた声だった。




「ここまで見抜くとは」




 ゆっくりと、一人の男が姿を現す。




 細身。




 静かな佇まい。




 だが、その目は鋭い。




 すべてを見透かすような光を宿している。




「……何者だ」




 信乃が問う。




 男は、軽く笑った。




「敵か味方か、それを判断するのは君たちだ」




「ふざけるな」




 道節の声が低くなる。




「用件を言え」




「簡単だ」




 男は一歩、前へ出る。




「その珠を渡してもらいたい」




 空気が張り詰める。




「断る」




 信乃は即答した。




 男は、ため息をつく。




「そう言うと思ったよ」




 その瞬間。




 周囲の気配が、一斉に動いた。




 だが――




 見えない。




「来るぞ!」




 荘助が叫ぶ。




 信乃は刀を振る。




 だが、手応えがない。




「……幻か!?」




「違う」




 男の声。




「これは、“認識のずれ”だ」




「……何?」




「君たちは、“そこにいる”と思っている」




「だが、実際には――」




 次の瞬間。




 背後から衝撃。




「ぐっ!」




 小文吾が吹き飛ばされる。




「小文吾!」




「位置が……分からねえ!」




 敵の姿が見えない。




 気配はある。




 だが、場所が定まらない。




「……面白いだろう?」




 男は、静かに言った。




「これが、“智”の使い方だ」




 その言葉に、信乃の表情が変わる。




「……智」




「そう」




 男は、自分の胸元を指す。




 そこには、珠。




 刻まれているのは――




 「智」




「……っ」




 四人の視線が集まる。




「じゃあ……小文吾のは」




「同じ“智”でも、使い方は違う」




 男は言った。




「力として振るうか、知として操るか」




「それだけの違いだ」




 信乃は、静かに息を吐く。




「……名前を聞いてないな」




「犬飼現八」




 男は名乗った。




「そして――君たちの敵になるかもしれない男だ」




 その瞬間。




 信乃の目が、細くなる。




「……なら、決まってる」




「何がだ?」




「お前を倒して、仲間にする」




 一瞬の沈黙。




 そして――




 現八は、初めてはっきりと笑った。




「面白いことを言う」




「だが――」




 その目が、鋭くなる。




「できるかな?」




 次の瞬間。




 空間が歪む。




 現実が、揺らぐ。




 位置も、距離も、感覚も。




 すべてが狂う。




「……くそっ」




 小文吾が立ち上がる。




「まともに戦えねえ!」




「いや」




 荘助が言う。




「やり方はある」




「……何だ」




「“見ようとするな”」




「……は?」




「感じろ」




 短い言葉。




 だが――




 信乃は理解した。




「……なるほどな」




 目を閉じる。




 視覚を捨てる。




 代わりに――




 気配。




 風。




 音。




 すべてを研ぎ澄ます。




「……そこだ」




 踏み込む。




 迷いはない。




 刀が、空を裂く。




 そして――




 確かな手応え。




「……っ!」




 現八の表情が、初めて崩れる。




「見えたか」




「いや」




 信乃は言う。




「“感じた”だけだ」




 現八は、しばらく黙っていた。




 そして、ゆっくりと息を吐く。




「……なるほど」




 周囲の歪みが、消える。




 気配も、元に戻る。




「今回は、ここまでにしよう」




「逃げるのか」




 道節が言う。




「違う」




 現八は首を振った。




「見極めるだけだ」




「君たちが、“本物”かどうか」




 そして、振り返る。




「次に会う時は――」




 一拍。




「仲間になるか、敵になるか」


挿絵(By みてみん)


 その言葉を残し、闇へと消えた。




 静寂。




 焚き火の音だけが戻る。




「……厄介なやつだな」




 小文吾が呟く。




「ああ」




 荘助が頷く。




「だが――」




 信乃は、空を見上げた。




「いずれ来る」




「その時は」




 道節が続ける。




「決着をつける」




 四つの珠が、静かに光る。




 まだ揃わない。




 だが、確実に近づいている。




 八つの魂が、交わる時へと。

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