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第二話 犬塚信乃、現る

春の風が、やわらかく吹いていた。




 だが、その穏やかさとは裏腹に、少年の瞳は鋭かった。




 名を、犬塚信乃という。




 まだ若い。


 だが、その立ち姿には隙がない。




 腰には刀。


 そして、胸元には――小さな珠。




 淡く光るそれには、一文字だけ刻まれていた。




 「孝」




 信乃は、その珠に軽く触れる。


挿絵(By みてみん)


「……俺の、役目か」




 誰に言うでもなく、呟いた。




 その時だった。




 遠くから、騒ぎ声が聞こえてきた。




「いたぞ!あそこだ!」




「逃がすな!」




 追手だ。




 信乃は、静かに息を吐く。




「やっぱり来たか」




 すでに何度目か分からない。




 この珠を持っているだけで、狙われる。




 理由は分からない。




 だが――




 分かっていることが一つある。




「渡すわけにはいかない」




 その瞬間、地面を蹴った。




 一気に走る。




 林を抜け、岩場を越え、風のように駆ける。




 だが、敵も慣れていた。




 先回りされる。




 前方に、三人。




 後方にも、気配。




「囲まれたか」




 信乃は立ち止まる。




 だが、焦りはない。




「大人しく珠を渡せ」




 男が言う。




「そうすれば命は助けてやる」




 信乃は、わずかに笑った。




「信用できると思うか?」




 次の瞬間。




 斬り込んだ。




 速い。




 躊躇がない。




 一人、二人と倒れる。




 だが、数が多い。




 横から刃が迫る。




「……っ!」




 受ける。だが、体勢が崩れる。




 その隙。




 背後から一撃――




 来る。




 その瞬間だった。




 ――ギィン!




 鋭い音。




 信乃の背後に立っていた男が、吹き飛んだ。




「……何?」




 振り返る。




 そこに、一人の青年が立っていた。




 長い槍を構え、静かに敵を見据えている。


挿絵(By みてみん)


「加勢する」




 短い言葉。




 無駄がない。




「……誰だ」




「通りすがりだ」




 信乃は、わずかに眉をひそめる。




「それにしては、いい腕だな」




「君もだ」




 その瞬間、二人の視線が交わる。




 だがそれは、戦いの中の一瞬。




 すぐに意識は敵へ向く。




「いくぞ」




「ああ」




 次の瞬間。




 二人は同時に動いた。




 剣と槍が、流れるように連携する。




 信乃が切り込み、隙を作る。




 そこに、槍が突き刺さる。




 息が合っている。




 まるで、最初から分かっていたかのように。




 やがて――




 最後の一人が倒れた。




 静寂が戻る。




 風の音だけが残る。




「……助かった」




 信乃が言う。




「礼を言う」




「気にするな」




 青年は、槍を下ろした。




「それより」




 視線が、信乃の胸元へ向く。




 珠だ。




「その珠……ただのものじゃないな」




 信乃は、少しだけ警戒する。




「……何か知ってるのか」




 青年は、しばらく黙っていた。




 そして、ゆっくりと口を開く。




「俺も、持っている」




「……!」




 青年が、懐から取り出す。




 同じような珠。




 そこに刻まれた文字は――




 「義」




 信乃の目が、見開かれる。




「……同じだ」


挿絵(By みてみん)


「やはりな」




 青年は頷いた。




「名を、犬川荘助という」




「犬塚信乃だ」




 二人は、向き合う。




 その間にあるのは、ただの偶然ではない。




 何かに導かれているような感覚。




「……おそらく」




 荘助が言う。




「これは、偶然じゃない」




「ああ」




 信乃も頷く。




「この珠が、引き合わせたんだろうな」




 風が吹く。




 二つの珠が、わずかに光を帯びた気がした。




「……他にもいるはずだ」




 荘助が言う。




「同じ珠を持つ者が」




「八つ、か」




 信乃が呟く。




 理由は分からない。




 だが、なぜか確信があった。




「探すか」




「そうだな」




 二人は、同時に歩き出す。




 まだ見ぬ仲間を求めて。




 それぞれの運命を背負って。




 八つの魂が、動き出す。




 それはまだ、小さな一歩。




 だが確かに――




 物語は、加速し始めていた。

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