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第十話 最後の珠

第十話 最後の珠



 七つの光が、揺れていた。




 夜の中で、それは確かに存在を主張している。




 だが――




「……足りないな」




 犬坂毛野が呟く。




「ああ」




 犬川荘助も頷く。




「揃っているはずなのに、揃っていない」




 七人は、円を描くように立っていた。




 それぞれの珠は、確かに応えている。




 だが、どこか――不安定だった。




「……あと一つ」




 犬塚信乃が言う。




「それで、全部終わるのか?」




「終わらない」




 犬江親兵衛が即答する。




「むしろ、そこから始まる」




「……だろうな」




 犬山道節が苦く笑う。




 その時だった。




 ――ザッ。




 足音。




 全員の視線が、一斉に向く。




 暗闇の奥。




 そこに、一人の男が立っていた。




 ゆっくりと、こちらへ歩いてくる。




 足取りは重い。




 だが、迷いがない。




「……あいつか」




 小文吾が低く言う。




「分からない」




 荘助が答える。




「だが――」




「ただ者じゃない」




 その男が、月明かりの下に出た。




 顔が見える。




 若い。




 だが、その目は――




 どこか、すべてを諦めたような色をしていた。




「……遅かったな」




 男が言う。




 その声は、静かだった。




「……誰だ」




 信乃が問う。




 男は、少しだけ笑った。




「最後の一人だよ」




 そして、胸元に触れる。




 光る珠。




 刻まれている文字は――




 「義」


挿絵(By みてみん)


「……義か」




 道節が呟く。




「ようやく揃ったな」




 だが――




 誰も、安堵しなかった。




 その“義”は、どこかおかしい。




 光が、弱い。




 揺らいでいる。




「……お前」




 信乃が一歩前に出る。




「何があった」




 男は、答えない。




 ただ、空を見上げる。




「……正しいことって、何だと思う?」




 唐突な問い。




「……何?」




 小文吾が眉をひそめる。




「守ることか?」




 男は続ける。




「戦うことか?」




「……」




「それとも――」




 一拍。




「全部、間違ってるのか?」




 空気が、冷える。




 ただの迷いじゃない。




 もっと深い。




 “壊れかけている”。




「……お前」




 荘助が低く言う。




「“義”を見失っているな」




「見失った?」




 男が、笑う。




 だが、それは乾いた笑いだった。




「違うな」




「見つけたんだよ」




「……何を」




 信乃が問う。




 男は、まっすぐに見た。




「“義なんて存在しない”ってことを」




 その瞬間。




 珠が、大きく揺れる。




 光が、乱れる。




「……っ!」




 親兵衛が息を呑む。




「まずいな」




 毛野が言う。




「これは、“仁”の時より厄介だ」




「……ああ」




 道節が頷く。




「“壊れている”んじゃない」




「“否定している”」




 男が、一歩踏み出す。




「お前らさ」




 静かな声。




「何のために戦ってる?」




「……」




「守るため?」




「正義のため?」




 首を傾げる。




「そんなの、ただの自己満足だろ」




 その言葉が、突き刺さる。




「救ったつもりになって」




「満足してるだけだ」




「……やめろ」




 小文吾が低く言う。




 だが、男は止まらない。




「結局、誰も救えてない」




「守れなかったものは、どうする?」




「……っ!」




「それでも、“正しい”って言えるのか?」




 沈黙。




 誰も、すぐには答えられない。




 その時だった。




「……それでも」




 信乃の声。




 静かだが、はっきりとしている。




「それでも、やるしかない」




「……は?」




 男が眉をひそめる。




「正しいかどうかなんて、分からない」




「でもな」




 一歩前へ。




「何もしないよりは、マシだ」




 その言葉に、空気が揺れる。




「……綺麗事だな」




 男が呟く。




「そうだな」




 信乃はあっさり認める。




「でも、それでいい」




 一拍。




「お前も、そうだったんじゃないのか」




「……!」




 男の目が、わずかに揺れる。




 その隙を――




 全員が見逃さなかった。




「……来るぞ」




 毛野が低く言う。




 男の珠が、暴れ出す。




 光が、歪む。




 空間が、軋む。




「……決めろ」




 道節が言う。




「こいつは――どうする」




 信乃は、刀に手をかける。




 だが、まだ抜かない。




 見つめる。




 最後の一人。




 壊れた“義”。




 ここでの選択が――




 すべてを決める。




「……俺は」




 静かに、口を開く。




 その瞬間。




 七つの珠が、強く光る。




 まるで――




 試すように。




 最後の選択。




 最後の試練。




 物語は、ついに最終局面へ。

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