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ルドルフの訪問



 シュリの思いがけぬ申し出を聞く形で、対面したのは如何にもやり手、という空気を纏った30代前半の灰色の髪と整った顔の男であった。



(理事長、とは聞いていたが若く見えるだけか…?)


「御機嫌よう、アンナ殿下。こうして殿下に謁見出来た事を感謝します」


「御挨拶が遅れて申し訳ありません。御機嫌よう、理事長。こうして出逢えた事を心から嬉しく思います」



 つまらない憶測て挨拶が遅れた俺の非礼を咎める様な事もせず、爽やかな笑みを浮かべるルドルフにはそれなりに好感が持てるが、約束の期日よりも早く訪れたのには理由があるのだろう、カップに注がれた紅茶を一口啜りながら視線を遣っていると、微笑みを携えていた今までの表情とは一変し、真面目な顔でルドルフは語り始めた。



「早速本題を。…アンナ殿下、我が校に是非来て頂けませんか?」


「ウルガルド学園に…ですか?」


「えぇ、殿下の力を世界の為に使って欲しいというのが、私個人の願いではありますが、勿論陛下にとってのメリットも幾つか存在します」


「メリットですか、…宜しければお聞きしても?」


 まるで商談のような流れになってきたが、確かに、将来的にノワール国を追放されるような事態が起きた時に役に立ちそうな何か、を手に入れられるならそれに越した事はねぇな。

 聞く耳を持つ姿勢を見るとルドルフは居住まいを正し語り始める。



「分かりました。先ず一つ他者よりも速い段階で学生という身分から解放されるという点があります」


「と、言うと?」


「通常はデバイスが賜れる8歳から各国の教育機関の指示に従い6年間は初等部、中等部で学び15歳から7年間星騎士としての学びを受ける事になります。が、殿下の場合飛び級という形で16歳から教員資格を得る事が出来ます…教員として活動しなくとも資格を得る事自体は陛下の得になるかと」



(前世の日本でも最短で19歳からだしな、教員免許を取れるのって)



「なるほど、確かに数年の時間短縮は魅力的ですね。教員資格という身を立てる要素が着いて回るのも悪くはないです」


 前世で少し聞き齧った程度の知識でしかないが、少なくとも20代近くにならなければ取れない資格を10代後半で取れるのは悪くはない。

 まぁ、国外追放された上でもその資格が使えるかは定かではないが。


 俺の考えを知ってか知らずか、ルドルフは続ける。


「はい、そして2つ目。少年少女星騎士リーグへの出場資格が得られます」


「少年少女星騎士リーグ…ですか?」


 初めて聞く単語に小首を傾げていると補足を入れるように、茶革の鞄から書類を取り出し俺に向けて机に置いた。


「少年少女星騎士リーグとは通称SSS(トリプルエス)リーグと呼ばれています、全国の教育機関から選りすぐりの8歳から14歳迄の星騎士が1箇所に集められ覇を競うのです。そしてそんな中でも上位の成績優秀者は名誉と多額の賞金が得られます」



「最低でも0が8桁…ですか、悪くない金額ですね」


 10代其処らのガキが手にする金額としては確かに大金だ、才能がある奴が金に目が眩んだ大人の道具にされかねない程には。


「そして3つ目、学園というコミュニティで数多くの縁が作れるというものもあります」


「確かに、各国の要人のご子息やご息女と縁を紡げるのは損ではないですね」


 これには直ぐに首を縦に振る、確かに上流階級の育ちとはいえ、10代にも満たない子供が学園というコミュニティに集められたら自然と繋がりも強まるだろう。


 同時に、ガキは歳を喰ってないからこそ、その虐めも陰湿だが。


「えぇ、大きく区分しましたがこの3つが私が殿下に提示出来るメリットになります」


「…そうですね、…少し、考える時間を頂けないでしょうか…?」


「勿論、すぐに決めて欲しい等とは申し上げません。ただ、仮に入学する際は此方が用意した試験官と模擬戦を行って頂く決まりになっているのは先にお伝えしておきますね」


「試験官…ですか、その方は強いのですか?」


「そうですね、試験はA級星騎士が担当しますので実力は保証致します」


「分かりました」


(A級か…まぁ、加減すれば殺す事は無いだろう)


 俺自身がノワール国が誇るS級達に日々指導を受けているから分かるが、ウーノ兄弟はA級を2人掛かりでなら倒せる力量はあった、その2人を圧倒出来るのであれば、今更A級ではテストにすらならない気もするが…まぁ、問題ないだろう。



「それでは、今日はこれで失礼致します…また逢える事を祈っていますね」


「えぇ、此方こそ…それでは、御機嫌よう。シュリ、理事長をお見送りしてください」


「はーい、それじゃあお客様、此方へ~」


◆❖◇◇❖◆


 玄関先までルドルフを見送るシュリ、そんなシュリに問われるがままにルドルフは答える。まるで、古くからの知人や友人のように。


「どーだった、うちのお姫様は?」


「才覚はお話に伺っていた通り、対峙していても伝わる程の魔力と氣は凄まじいものを感じました」


「んふふ~、だよねぇ。だからこそルーくんに来てもらったんだもん」


 これまでも理事長自ら生徒をスカウトする、という事例自体はあったが、今回は根本的に事情が違う。そんなルドルフを茶化すように昔からの呼び名を出すが、ルドルフ自身は嫌そうに表情を変えながら首を傾げる。



「シュリ先輩、ルーくんはやめてください。…先輩は戻ってくるつもりはないのですか?」



「今は無いかなぁ~、というかこのタイミングで戻る意味が薄い。ルーくんもそれは分かってるでしょ?」


「……それは…」



 一瞬だけ普段と纏う雰囲気を変えながら答えるシュリに、ルドルフは口を噤む。



「まぁ、“今は”だけどね。それじゃあ、気を付けて帰ってね~」


「えぇ、シュリせ…シュリさんもお気を付けて」

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