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変化の兆し


 アンナ達とノア内で別れたその日の夜、エリーは黙ってノアに入り浸っていた事を父親であるサルヴァトーレ・チェーロに叱責を受けていた。

 それは、国王である前に父親として娘の安否を案じての事であったが、未だ幼いエリーにとっては耐え難い時間である。…普段なら自室に戻るのだが、今日は兄であるジャックとウィリアムの部屋へと足を運んだようだ。



「相当絞られたようだね、お疲れ様、エリー」

「まぁ、今回は事が事だからなぁ…親父もかなり心配してただろ?」


「はぃ…お兄様達にもご心配をお掛けしてごめんなさい…」


「俺達は良いんだよ、妹の心配をするのは兄貴の役割ってな?」


「そうだよ、僕達は3人だけの兄妹なんだし」


 申し訳なさげに謝罪を口にするエリーに対し、ジャックもウィリアムもそれが当たり前であるかのように受け入れる。本来であればそれは母親の役割ではあるのだが、3人にとって母親という存在は物心ついた頃から“存在しないもの”であった。



「…お兄様、お母様ってどんな人だったんですか?」


「元々は伯爵令嬢だった、っていうのはエリーも知ってるとは思うけど、とても強くて優しい人だったよ?」


「俺達がまだ5歳でエリーが3歳だったからな…覚えてないのも仕方ねぇよ」


「そうなんですね、…強いってアンナ様みたいな方ですか?」


 まだ薄らと記憶のあるジャックとウィリアムと違い、エリーにとっては乳母やメイド達が大人の女であった。

 故に、あまり歳は離れていないが大の大人を舞うように圧倒したアンナはエリーにとっては今や興味の対象である。



「あー…雰囲気は似ているかもね?」

「そうかぁ?確かに強い、ってのは否定しねーけどよ」


「まるで踊ってるみたいでした…ディアンテ達も治してくれました、し…」


 そこまで言って、重たい瞼を閉じるのを我慢するように眼を擦るエリー。親友であるディアンテの消滅の危機やその後の叱責も鑑みれば精神的に疲弊するのも無理は無いだろう。


「流石に今日は疲れたんだろ、眠いなら寝な?」


「はい、…あの、今日は少しだけ…一緒に寝ても良いですか…?」


「良いよ、それじゃあ一緒に寝ようか」


「えへへ、あったかい…おやすみなさい、お兄様達…」


「「おやすみ、エリー」」


 2人の兄に見守られ、眠りに着くエリーは2人の裾を掴みとても安心した顔をしていた。



─────

───



 それから暫く経ち、ウィリアムがエリーを起こさないようにベッドから降り反対側で寝そべっているジャックに声を掛ける。



「兄貴、起きてるか…?」


「ん、起きてるよ」


「……兄貴はアイツの事どう思ってる?」


「アイツ…アンナ様の事?」


「…あぁ、手紙でのやり取りだっていっても少しは知ってるんだろ?」


 何故気になるのか、等と問い掛ける事は無い。双子だからこそ分かるのだろう、自身と同じ様に、ウィリアムもまたアンナに興味を抱いている事に。

 手紙自体は父であるサルヴァトーレの勧めでそうしていたに過ぎないが、今日、仮想空間とはいえ等身大のアンナと話した事もあり彼女に対する考えに、変化が齎されていた。



「そうだね…手紙でも感じてはいたけど、素敵な人だと思うよ?とても同い歳とは思えない考え方をしてると思うし、何より」


「何より…?」


「……なんでもない、そういうジャックはどう思ってるのかな?」


「…わかんねぇな、悪い奴じゃないってのは確かだし気になるやつ…だとは思う」


 ジャックに吊られてか、はたまた当人同士の波長がある意味合うからか、ウィリアムにもアンナに対する考えに変化が起きている事に気付いたジャックは悪戯っぽく笑う。


「……盗らないでね?一応僕はアンナ様の婚約者候補なんだから」


「ばっ?!盗るとか言うなよな!?」


「しー…エリーがおきちゃうよ」


「兄貴が悪いんだろ!?」


 楽しげに笑う双子が互いの変化を自覚するまで、そう時間は掛からないであろう事を、この時の2人は未だ知らない。



◆❖◇◇❖◆


 誰もが寝付いた深夜、一人の男が自身の影に潜む者と会話をしている。



「……そうか、聖女と悪魔が…まさに嬉しい情報と嬉しくない情報が同時に降って湧いたな」


「して、汝はどうするつもりだ?」


「無論、この機会を逃す筈等ない。この眼で見極める絶好の機会だ、至急招待状の用意をせねばな、表向きは友好と感謝の証として、だが───漸く、計画の成就が見えてきた」



「…御前の子供等の事はどうする?」


「何、今まで通り変わらないさ。あれ等も紛れもない家族なのだからな」


「………今の契約主は御前だ、今更反対はせんさ。なぁサルヴァトーレ」


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