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守護者


一方その頃、件の人物であるエリー王女はというと、仮想空間ノア内に存在する古ぼけた教会に来ていた。


その周囲には兎型の小型の魔物や小さな妖精型の魔物が彼女が紡ぐ、“歌”に心を絆されるように身を寄せている。


「────…ふぅ…、ふふふ、貴方達は本当に可愛らしいですわね、お父様達が常々口にしている邪悪な存在とは到底思えません」


エリーとジャック達の父、つまりチェーロ国の現国王であり、この世界の法を統べるサルヴァトーレ・チェーロは仮想空間ノアの発案を提唱し、実質、仮想空間ノア内での発言力が最も強い有識者である。


それ故、魔物達の存在は許す事が出来ないのであるが…エリーはそんな魔物達と歌を用いる事で心を通わせる事が出来るのを偶然、この教会で歌う事で知った。


「エリーの歌は此処に居る皆を笑顔にしてくれるからね、ほら、皆うっとりしてるよ?」


「まぁ、本当…ふふ、なら次はこういう歌はどうかしら…?」


人語を解し、話す事が出来る妖精が辺りを囲む魔物達を見渡す様に促すと、エリーもまた笑顔になる。

彼女の祖先には歌に力を宿す人物が居るが、彼女はその祖先の先祖返りと言って良い能力を開花させていた。


歌が、言葉が、言霊が種族の垣根を越え絆になりつつあったが、そこに望まれざる闖入者が近付いている事に気付く者は、この場には誰も居なかった。



「あ゛ぁ~…?魔物共を狩りに来たがガキが魔物に襲われていやがるなぁ?」


「へへ、アニキ。こんだけ居りゃあ今日は豪遊出来るなぁ…?」


2mはあろうかという巨躯を丸々と肥えさせた男2人が急に、足元でエリーや他の魔物を護ろうとしていた兎型の魔物を蹴り上げ、蹴り上げられた魔物は壁に背中を打ち付けられ吐血する。


「な、なんですの貴方達…やめて!その子達に酷い事をしないで!?」


「おいおい、たかが魔物を蹴り飛ばした位で泣き喚くなよ、だりぃなぁ?」


「そうだぜ、お嬢ちゃん。此奴等魔物は人類の敵だ、法国の国王だって魔物をランク別に区分けしてそれぞれのランクに見合った魔物の死体を見せりゃ討伐料を出すくらいには徹底して叩く姿勢だしなぁ?」


男達が言っているのは虚実が入り交じってはいるが概ね真実ではある、魔物といっても政府がランク付けした魔物が討伐対象であり、ランク付けされない魔物は討伐しても一銭の金にもならない。

が、幼いエリーにとってはそんなものは関係無かった、金で動く人間が居ることもショックなら、父がそういった人間を上手く利用しているのにもショックを隠せずにいた事が男達の興味を引くきっかけになる。



「そんな…お父様が…?」


「お父様…?ぁん?お嬢ちゃんどっかで見た事ある面してんなぁ?」


「アニキ、このお嬢ちゃん確か前にテレビで見た事あるぜ?確か法国の…」


「あぁ、確か…こいつは棚からぼたもちだ、助けに来ましたぜ王女殿下?」


男達は目の前の少女が高貴な身分である事を知ると、エリーを護ろうと震える身体を推しながら彼女を庇う魔物達を手に持つ金棒で薙ぎ払う。


「いや!来ないで!私のお友達に乱暴しないで!!」


「ぎゃあぎゃあ喧しいなぁ、こちとら端金よりお嬢ちゃんの親から身代金を要求しても良いんだぜ?」


「そいつは名案だ、弟。めんどくせぇから攫っちまうか」


金が手に入れば後は気にしない、膂力はあるがその後がどうなるか想像出来ない悪漢達。…だが、魔物達もエリーもそんな悪漢達に抵抗出来ないのは或る意味、世の縮図と言っても良いだろう。

そんなエリー達を護るように悪漢達に立ち向かう者は未だ居た。


「エリー!逃げて!」


「ディアンテ!?」


「くそ、邪魔しやがんじゃねぇ!!」


「きゃあぁ!?」


ディアンテと呼ばれた妖精は羽を羽ばたかせるとアニキと呼ばれた男の顔に張り付くが、男の手に払われる形で地面に激しく叩き付けられると背中をくの字に曲げる。


「クソ虫が…このままぶち殺してやるよ!!」


「やめてッ!誰か…誰か助けて!!!!」


手にした金棒とは別の得物、拳銃型の星武器を懐から取り出され恐怖しながらも救いを求める声を張り上げるエリー。そんな彼女を意に介さぬとばかり引鉄を引く男であったが。


その救いを求める声は、確りと届いた。



「────絶掌」


「「なッ?!」」


男達に比べたら遥かに小柄な体躯を持つ黒髪の少女は、左腕に漆黒を纏い打ち出された弾丸の刻を“無に帰す”。結果、齎されたものは男達の驚愕と妖精の延命という結果。


「あな、たは…」


「…来るのが遅れて申し訳ありません、エリー王女。私はアンナ・ノワール。直ぐにジャック王子達も来るでしょう。───それまで、私は王女として貴女を護ります、貴女の守護者達がそうしたように。」


漆黒を纏う左手を振るいながら、エリーを護ろうとした魔物達を守護者と呼ぶ破壊神アンナは、男達に血よりも紅い瞳から憤怒の視線を向けるのであった。

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