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婚約者


ハクの授業を受けて数日後、俺は仮想空間ノアにダイブしていた。

というのも、今日はレオナと後もう一人、その後が気になっていた奴の顔を見る為にレオナに3人で遊びたいと橋渡し役を頼んでいたからだ。



「ごめんなさい、遅れました」


「いえ、私達も今ログインしたばかりですから…今日は私も呼んで頂きありがとうございます」


「わはっ、今日は夢みたいな時間です…お姉様とお姉ちゃんと一緒に遊べて♡」


傍から見れば同い年の子ガキ3人が話している絵面にしか見えないだろう、すっかり懐いてくれているレオナの頭を撫でながら遅れてきた理由を話す。


「リン…執事長に新しい星技を習っていたものでして…遅れて本当に申し訳ないです」


「私もですね…、引越し先で色々あったりしましたから、ごめんなさい…」


「あ、あわわ…、何だかごめんなさい!」


あの星技を身に付けられたら戦略の幅が一気に拡がる、それはそれとして遅れてきたのは事実だ、と謝るとエステルも何かあったらしく謝ると、レオナも空気を読んで謝る、何だかおかしくなって思わず吹き出した。


「…ごめんなさい、だからこそこういう時間は貴重だと思っていますし…今は楽しむ事を優先しませんか?」


「そうですね、アンナ様にも、もちろんレオナちゃんにも楽しんで欲しいです」


「二人共〜…うぅ、大好きです!」


俺とエステルに諸手を拡げ抱き着くレオナ、こうしているとアンナという存在が受け入れられているようで胸が暖かくなる…、暫くそうしているとレオナに手を引かれ歩き出す事になる、割と力強ぇな?!


◆❖◇◇❖◆


場所は変わり、三人が歩みを進める大通り近く。金髪碧眼の少年二人が血相を変えて誰かを探していた。


「兄貴、そっちは居たか?」


「いや、こっちには居なかったよ…」


「流石に人不足だよな…せめてもう少し人手が居れば…」


二人の内、兄、と呼ばれた少年が視線を向けるのは漆が如き美しい黒髪を歩く度に揺らす少女を捉えていた。


「そうだね…ん…あれは…?」


「どうかしたか?兄貴」


「…ウィリアム、あれを見て」


「ん…あれ、あれって確かノワール国の…」


ウィリアムと呼ばれた少年も少女、アンナに気付いた様子。アンナを挟む形で同じく歩を進めるエステルとレオナにも2人の視線は向けられる。



「うん、アンナ様だね…彼女達に協力して貰えたら…」


「あー…でも、普通に頼んでも親父の耳に入ったら…」


親父、2人の父親はこの仮想空間ノアに…否、この世界於いても重要な役割を持つが故にウィリアムはとある可能性を危惧するが、彼の兄はそんなウィリアムの手を引きアンナ達へと近付く。


「今はそんな事は言ってられないだろ?ほら、行くよ!」


「兄貴ってこういう時は猪突猛進だよな…」


やれやれと言わんばかりに呟くウィリアム、だが、彼の在り様に物申す人物が現れようとはこの時の彼は思いもしなかった。


◆❖◇◇❖◆


「すみません!少し宜しいでしょうか?」


「はい?…あら、貴方様方は…」


二人と話しながら歩いていると向かい側から二人の金髪のガキが近付いてきた、…どっかで見た顔だ。


「はい、貴女の誕生日パーティ以来ですね、アンナ様」


「え、え?お姉様…この方々は…… 」


「申し遅れました、レディ。僕はジャック、こっちは弟のウィリアムです」


思い出した、ゲームでメインルートを担うジャック・チェーロとウィリアム・チェーロだ。

同時に、ジャックはアンナの婚約者である。と、言っても実際に逢ったのはこの間のアンナの誕生日が初で、それまでは古風にも手紙や写真でのやり取りになるが。


「ジャックさんにウィリアムさん…って、確か法国の…」



エステルの顔がどんどん青ざめる。無理もない、意図せずして一国の王子が二人も現れればこうもなるだろ。レオナも空気を察したのか俺の背に隠れている。



「えぇ、チェーロ国の双子の王子ですね。先日は誕生日パーティに出席頂き感謝を…今日は如何なさいましたか?」


王族同士のやり取りは面倒この上ないが。 8年間、アンナとして育ってきた事で身に付いた作法で一礼した後に問い掛ける。


「実は…」

「俺達の妹の意識が戻ってきてないんだよ、仮想空間ノアにはログインしてる筈なんだけどな…見てないか?」


写真で見た事のあるエリーはお淑やかそうでいて、その実、二人の兄を振り回すお転婆だと手紙で書かれていた。手紙の内容が真実ならお転婆が発動したんだろう。

とはいえ、知人が行方不明っていうのは目覚めが悪い。一応エステルとレオナにも問い掛ける。


「御二人の妹君というと…エリー王女ですね、綺麗な銀髪が特徴的な方ですからすれ違ったら分かると思いますが…レオナさん、エステルさん、見掛けましたか?」


「いえ、3人で行動していましたしそれらしい方は…」

「うぅん…銀髪……の人はすれ違ってないです…」



「ち、使えねぇな…」

「ウィリアム!すみません、弟が…」


俺達の答えが気に食わなかったのか、ウィリアムが舌打ちをする、そんな弟を叱責する声を上げるジャックに俺は微笑む…多分目は笑ってねぇだろうが。


「いえ、構いません。助けを求めている立場で自身が納得する結果を得られずに周囲に当たる愚弟を持って大変ですね」


「あ?誰が愚弟だこ「何も言わずに助けて貰えるのが当たり前だと思っている、他者の厚意を当たり前だと受け入れている。そういう所が愚かだと言わないなら何を愚かだと?」てめ…!」


王子という立場だから、周囲の厚意が当たり前だと思っているウィリアムに微笑む。

正直言うと、こんなクソガキは前世ならぶん殴っていただろうから、我ながら抑えた方だろう。目の前で顔を赤くしているウィリアムを抑えるジャックはまだマシだと思いたい。


「止せウィリアム!…貴女の言う通りです、アンナ様。…弟の無礼を謝罪致します。どうか貴女達の力を貸して頂けませんか?」


「…私にではなくレオナさんとエステルさんにウィリアム様から謝罪を、御二人は私の友人なので」


「…貴女は怒っていない、と?」


俺の態度や言葉から真意を読み取ろうとしているジャック、この歳でそういった世渡り上手な面を見せられると、この双子、似ているのは容姿だけだというのが分かる。

なので、ジャックに免じて溜息混じりに俺の真意を伝える。


「えぇ、家族が危険な目にあっているかもしれないという焦燥感と心配する気持ちは理解していますから。…私が物申したいのはウィリアム様の礼節を欠いた態度ですから」


「アンナ様…感謝します、ほら、ウィリアム…」


「わ、悪かった…力を貸してくれ…」


(…へぇ…?)


兄に促され頭を下げるウィリアム、言動は兎も角、非があると感じれば頭を下げられる。自分の非に向き合える人間だと知れた事は少なからずエステルとレオナには好印象だったようだ。


「もちろん、協力します!」

「そうです!協力します!」


「…二人がそう言っているので、私も微力ながらお手伝いをします、申し訳ありませんでした、御二人とも」


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