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平和の味


︎︎レイとの鍛錬の翌々日、俺はシュリを伴い無駄に広い風呂場へと向かい掛け湯をした後に湯船に浸かっていた。

︎︎勿論、レイからの教えを忘れる事なく氣と魔力を体内で…何なら指先一つ動かす度に操作しながらだが。


︎︎あ?メスガキの入浴シーンに興味ねぇ?うるせーよ、そもそも俺は男(身体は女)だ。



「その後、仮想空間では変わりはないですか?」


「そうみたいですね〜、結局なんでログインし難い状態になっていたのか、あの魔族は偶然あの場に湧き出たのか…分からない事が多い事件でしたがアンナ様のお陰で幸いにも死傷者は居ないみたいです〜」



︎︎…シュリの報告に、幾つか思う所はある。


︎︎何故、あのタイミングで大規模な電波障害が起きたのか。


︎︎何故、エステル達以外の奴等はあの首無しに襲われなかったのか。


︎︎思う所はある、が…何分、エステルの幼少期は本編ではあまり深堀はされていない、何かはあったらしく、ファンディスク等で深掘りされているという話を聞いた事はあるが残念ながら、俺はファンディスクには触れること無くこっちの世界に来ちまった。



︎︎ともあれ、分からない以上は下手な考え休むに似たり、だ。

︎︎幸い、シュリを始めセイ等のメイド&警察組が色々調べているようだ。



︎︎……まぁ、何かのノリで家政婦はみちゃった、とかやりそうだな、シュリの奴。



「そうですか…、そういえば今日はレオナに呼ばれていたので私は少し出掛けてきます」


「あらま〜、湯冷めしないですか?大丈夫です?」


︎︎湯船から出て渡されたバスローブを羽織る、…前世の記憶を取り戻した直後には慣れなかったが、このやり取りにも今じゃ慣れたものだ。



「そこまでやわではありません、…どうせならシュリも来ますか?」


「あは♡お供しまーす」


︎︎笑顔を見せるシュリ…俺も10年位すりゃあシュリみたいな身体付きになるんだろうか…。


……

………



︎︎はっ!?

︎︎いかんいかん!つい、一昨日のシュリみたいにセクシーポーズをしているアンナを想像しちまった!


︎︎首を何度も振る俺に頭の上でクエスチョンマークを浮かべているシュリを内心苦々しく思いながらも話を振る。



「それにしても、まさかシュリが戦いながらデータを採取していたのには驚きましたね、そのお陰で昨日は助かりましたが」


「ふふふ、昔取った杵柄ってやつですよ〜、実は昨日のアンナ様の啖呵も撮影済みです〜」


「…前言撤回です、同行を許可したのは私ですが割と性悪なのですね、貴女は」




︎︎性悪というか、此奴メイドの仕事はちゃんとしているのか?

︎︎それに昔取った杵柄…ね、前職は探偵か何かか?


︎︎───まぁ、指摘されたとしても俺は後悔はしていないが。



◆❖◇◇❖◆


︎︎時間は一日だけ遡る。

︎︎俺はシュリを伴いリオンが助けを求めたという交番に足を運んでいた。


︎︎どうしても、一言言ってやらないと気が済まない事があったからだ。



「おや、何かお困り事ですか?」


「御機嫌よう、私はアンナ・ノワール…この国の姫です」


「そしてあたしはアンナ様の従者のシュリちゃんで〜す」


︎︎一昨日の様にお忍びとしてではなく、ノワール国の姫としてドレスで着飾ってきた為に交番に待機していた若い警察官…リオンの話の通りなら此奴がリオンの話をマトモに取り合わなかった奴だ。



「な!?こ、これはアンナ陛下!本日は一体どの様な御用件でしょうか!」


「そう畏まらないで下さい、…実は先日の電波障害の際に私と同い歳位の一人の少年と出逢いまして、何でも双子の妹と幼馴染を助けて欲しい、と」


「あ、あの時の…」



︎︎ハッとしたように直ぐに話に食い付いたのを俺は見逃さなかった。

︎︎此奴にはどうしても聞きたい事、そして言いたい事があった為に問いかける。



「私は一つ、貴方“個人に”問いたい事があります、───助けを求める声に応じない処か最初から見捨てるのが貴方の正義ですか?」


「ッ…!け、警察は事件が起きなければ動け「私は警察官としての貴方に問うていません、貴方個人に問うているのです。…親しい者を失うかもしれない恐怖を抱いている民間人を…何の力も持たない子供を見捨てるのが貴方の正義……いえ、仁義なのですか?と」そ、それは…」


︎︎警察官の目が揺らいでいるのが手に取るように分かる。

︎︎俺達、極道の世界は…まぁ、古い考えだとは思うし自覚もしているが仁義を重んじる。

︎︎仁義とは人を人たらしめる“道”だ、今回、此奴がした事は何の力もないガキ共を殺されそうだ、と、嘘か真実かは兎も角として、知っているのに見殺しにしたのと同義だ。


︎︎だが、目が揺らいだのを見ると根っからの外道ではないらしい。言っても分からんジャリだったら、生き地獄を見せる所だったが…その目をじっと見つめ畳み掛けるだけに済ませる事にする。



「…私は信じます、祖父が治める国の国民の一人である“貴方の正義”を」


「っ…!す、すみませんでした……!」



︎︎深々と頭を下げる警察官に踵を返す。


︎︎何故なら満足したからだ、此奴は“マトモな側の人間”だというのが分かっただけ来た意味はあったから。



◆❖◇◇❖◆


︎︎シュリに道中揶揄われながらも、数日ぶりにリオンとレオナ、そして2人の父母が待つ家へと着いた。


「先日は息子と娘を助けて頂きありがとうございます、心ばかりの歓迎をさせて頂ければと思いますが…その、本当に宜しいので?今からでも店の方を貸切に…」


「いえ、王族であり騎士として当たり前の事をしたまでです、…寧ろ気を使わせてしまい心苦しいので、それに…」


「アンナ様!これ美味しいんですよ?沢山食べてください♡」


「こら、レオナ!アンナ様に無礼でしょう!申し訳ありません、アンナ様!」


「いえ、こうしてこの国に生きる人々の日常を覗けるのは良い経験だと思っています、…御一つ頂けますか?レオナ」


︎︎客人を持て成すならレストランへ、と口にする二人の父親に首を振る。

︎︎俺が初めて救ったというなら、普段レオナ達が食べる飯を食いたいと思ったからだ。


︎︎寧ろ、レストランで食べるような飯よりこっちの方がこの国の生活が見れるし一石二鳥でもある。


「えへへ、なら他の美味しいものも私がよそいますね!」


「なら俺はシュリさんの分をよそうよ」


「わぁ〜、ありがとうございます〜」


「それにしても、昨日警察の方が謝罪に来たのですがアンナ様が手を回して下さったのでしょうか…?」


︎︎シュリがリオンに料理をよそって貰うのを横目で見ながら二人の母親が問いかける、多分あの後すぐに謝罪に来たのだろう…これが日本ならまた誤認なんちゃらがどうだ、とかで謝りにも来ない奴が殆どだと思うが…。



(中々骨がありそうだな…あの若い警察官)


「…そうですね、全くしていないと言えば嘘になります」


「重ね重ねありがとうございます…!」



︎︎まぁ、謝罪の件に関しては俺というより本人の善意からの行動だから礼は要らないが…というか、この肉料理美味!?流石に三ツ星レストランでコックとして働いてるだけはあるな…。


︎︎俺が救った命、そしてそれを暖かく受け入れる家族を羨ましく思いながらも俺は暖かくて美味い飯を平らげた。


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