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電子怪盗デンドロビウム05

 それからさらにいくつかの理論をコンスタンスに聞きながら夕食は解散となった。

 コテツとアーデルハイトは風呂に入り体を綺麗にすると雑多仕事を片付けて就寝した。

 コテツは夢を見た。

「兄さん……」

 それはマイ=ナガソネと過ごした日々の回想。

 夢の中でのコテツはやっぱり死んだような目をしていて、何事にも無気力だった。

 しかしてそんな兄を引っ張って、妹であるマイはいつもどこかへと遊びに行っていた。

 時に幼き頃の地球での幼馴染であるヒルダ=ニュートンが出てきて、そうやって三人で遊んだり、あるいはヒルダと別れてからコテツ、マイ、アーデルハイトの三人でつるむようになった頃の記憶を想起させたり。

 そして結末はいつも同じだ。

「では土星圏での試合がありますのでしばしここを離れます。大丈夫ですか兄さん? ちゃんと自活してくださいね?」

 そしてマイ=ナガソネがSCリーグの試合に出向くのだった。

「待って! マイ!」

 呼び止めたのは夢の中の自身とコテツ本人とが同時だった。

 名残惜しく突き出した自身の手を見て、それからコテツは夜中に目を覚ました。

 現在地球時間で丑の刻。

 シェルコロニーでは地球での時間サイクルを適応させている。

 ともあれ、コテツは伸ばした手を見つめながらその延長線上にある天井へと視線を移した。

「はあ、またこの夢……」

 伸ばした手を引っ込めながらコテツ。

 ふと、両目に涙が溜まっているのを自覚して、それから、

「う……うう……!」

 とコテツは泣いた。

「泣いてるのか……コテツ……」

 起きていたのだろうアーデルハイトがそう聞く。

 コテツとアーデルハイトはコテツの悪夢を和らげるために一緒のベッドで寝ていた。

 泣くコテツに、疑問をかけるアーデルハイト。

 コテツは素直に言葉にした。

「うん。泣い……てる……」

「マイの夢を見たんだな?」

「うん」

「そっか……」

 アーデルハイトはコテツを抱きしめた。

 アーデルハイトの豊かな胸に頭部を押し付けられて、まるで母の抱擁に甘える幼児のようにコテツは泣いた。

「僕は……最低だ……」

「そんなことない」

「僕は……最悪だ……」

「そんなことない」

「僕は……醜悪だ……」

「そんなことない」

 コテツの自責にアーデルハイトは打消しの言葉を紡いだ。

 しかしてコテツはさらに自責の言葉を連ねる。

「マイがいなくなったのに何で世界は回ってるんだろう? 何で僕は生きてるんだろう? マイの消失と一緒に世界も滅べばよかったのに。それなら僕は納得できたのに。これじゃまるで世界にとってマイなんて存在は些末事だって言われているみたいじゃないか……」

 泣くコテツに、ギュッとコテツを抱擁しながらアーデルハイトが言う。

「たしかに世界にとって必要な人間なんかいないぜ。一人もいない」

「マイもいらなかったのかな。必要としてた僕は馬鹿だったのかな?」

「違うぜ。そうじゃない。世界にとって必要な人間がいないから……人間はどこまでも一人ぼっちだから……だからこそ人は人を求めるんだろう? 神ならぬ身ゆえに、一人ぼっちは辛いから、人は人を求めるんだろう?」

「だから……僕にとってそれはマイだった」

 涙を流すコテツに、アーデルハイトは宣言した。

「じゃあ俺はマイを憎む! コテツを不幸の吹き溜まりに絡めとるオリジナルのマイを憎む! そのせいでコテツから幸せになる気を奪うマイを憎む! それは呪いだ! それは呪詛だ! それは呪縛だ! コテツに残っているモノをガラクタにする!」

「残っている……モノ……?」

「俺だよ!」

「…………」

「マイが死んだくらいで孤独だなんて感じるな! マイが死んだくらいで孤高だなんて感じるな! それじゃコテツにとって俺は何だよ! こんなにもコテツの事が心配な俺は何なんだよ!」

 一時的にコテツを抱擁から放すとコテツにキスするアーデルハイト。

「ハ……イ……ト……?」

 呆然とするコテツ。

「マイを忘れろなんて言わない! マイを悔やむななんて言わない! そんな綺麗ごとは言わない! 忘れちゃいけないことのためにコテツはこんなにも悲しんでる! 人は死んでも、その人の影響は死ぬことはない! 古い地球人の言葉だ! 生きてくれよ! マイの死を背負って立ってくれよ! そしてマイ以外の他人との繋がりも意識してくれよ! だって……だって……! そうじゃないと……!」


「こんなにもコテツの事が好きな俺が馬鹿みたいじゃないか!」


「ハイト……? 何を……?」

「アーデルハイトはコテツが好きだ! 好きなんだよ! それに気づいてくれよ! マイばかり見ないでくれよ! 俺はここにいて、お前の事を愛しているんだぞ!」

 言い切って、暗がりの中でそれでもコテツがわかるほど顔を真っ赤にするアーデルハイト。

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