電子怪盗デンドロビウム04
コンスタンスのピンク色のツインテールが揺れる。
「あのぉ……」
とコテツが挙手する。
「どうしたのよさコテツ?」
そうあっさりと言うコンスタンス。
コテツは、
「あれ?」
と疑問を持った。
「僕、名乗りましたっけ?」
チーズフォンデュを食べ終えて地球産の煙草を吸い始めながら、コテツは首を傾げて疑問を持つ。
「言ったでしょう? あたしは全てのアースクの管理をしているって。だからアースクの奏者についてのデータももちろん持ってるわよ」
当然とばかりにコンスタンス。
「アースク……そのスサノオの奏者たるコテツ=ナガソネ。そしてオクトパスの奏者たるアーデルハイト=アッカーマン。そしてアマテラスの元奏者たるマイ=ナガソネ。それ以外にも百八機のアースクの奏者のデータは持ってるわよ」
当然とばかりにコンスタンス。
「あ、そう」
タバコを吸うコテツ。
「それは良しとして……」
コテツは話題を修正する。
「それで、その光速の漸近線と次元摩擦にどういう関係が?」
「ああ、もう! ここまで言えばわかるでしょ普通!」
立体映像なりに地団太を踏むコンスタンスに、
「天才な先生と一緒にしないでください……」
うんざりとコテツ。
「例えば摩擦って現象があるでしょ?」
「はあ、ありますね……」
「擦れる度に質量を失う代わりに熱を持つ。それが摩擦よ!」
「はあ……そりゃそうですね……」
「理論的には光速と質量の関係もこれと同じなわけ」
「それが意味わからないんですけど……」
「摩擦は擦る速度が大きければ大きいほど熱への変換効率が高まるでしょ!」
「そうですね」
「そして光速に近付けば近付くほど質量に代わる光速の現象はこれに似るでしょう!」
「言われてみればそうですね」
「つまり三次元に対してそのどれの次元とも重なることなく直角を持つ四次元目に対して摩擦を持つことが光速では起きるわけ!」
「それがわからないんですけど……」
「ええと、どこから言ったものか……。あんた達、質量がエントロピーの低い状態のエネルギーってことは知ってるわよね」
「…………」
「…………」
「…………」
無言でコクコクと頷くコテツにアーデルハイトにマイ。
「つまり次元摩擦と呼ばれる四次元目に対する摩擦が、光速に近づく度により強力に発現されるわけ! それにともなってエントロピー減少現象が起こるの! それこそ摩擦によって熱を持つ物体のように!」
コテツはスーッと煙を吸って、フーッと吐くと、
「でも摩擦はエントロピー増大現象の一環でしょう? エントロピー減少現象とは関係ないかと……」
そう言う。
「あくまで次元摩擦って名付けたのはあたしだしね。それに亜光速で動く物体のエントロピーが変動するのはたとえ増大でも減少でも等価値の現象でしょう。だからあたしはこの現象に次元摩擦と言う名前を付けたわけだわさ」
「なるほど……」
コテツは紫煙を吐く。
「今の説明でわかったのかコテツ?」
「今の説明でわかったのですか兄さん?」
そう問うてくるアーデルハイトにマイ。
「要するに次元に摩擦が起きて、熱量の代わりに質量へと変換されるのが次元摩擦ってことだよね?」
コテツに、
「そういうことだわさ」
と頷くコンスタンス。
「それで? まだ説明は半分だよね?」
煙を吸いながらコテツが問う。
「うむ、つまり摩擦による熱変換をどうすればいいのかがここで課題となるわ。つまり結論は一つ。要するに摩擦係数を低くすればいいわけだわさ」
「つまりヌルヌルにするわけね」
「まさしくそう! ローションでも使ってヌルヌルにしてしまえば摩擦は起きないわ。つまるところ熱変換は少なくて済むわけ。そうすれば熱に変わらない分だけ速度を稼げるという法律が出来上がるんだわさ」
そう結論付けるコンスタンスに、
「それと光速と質量増大にどんな因果関係があるんだ?」
アーデルハイトが首を傾げる。
「つまり……」
コテツが灰皿に煙草を押し付けて火を消すと、二本目の煙草を取り出して火をつける。
そして話を続ける。
「四次元目に対する摩擦係数を低くする。そしてCという速度上の漸近線を大幅にずらすことで超光速を得るってわけだ。なるほどそれなら確かに時間の遅れも質量の増大も起きないよね」
「ん? どういうことなんだぜ?」
「だーかーらーCという漸近線が速度の限界足りえているのは次元摩擦によるもので、その次元摩擦たるCに物体の速度が近づけば近づくほどその物体の熱量……ここで言うところの質量が増えるわけだよ。なら、そのCが光速ではなく光速の一・五倍のところに漸近線を置けば光速で進んでも時間の遅れや質量の増大は起きないわけだ」
「なるほど……」
感心したように頷くアーデルハイト。
コンスタンスが纏める。
「空間を光速で進むことにより発生する次元摩擦というエントロピー減少現象を抑えるための技術を次元加熱と言う。これにより超光速下において速度が質量に変わることを防ぎ、ただ単純に速いだけの超光速を実現できる……ってわけ」
「次元加熱……か。要するに速度というエントロピーを質量というエントロピーに減少させないために加熱するってことだね……」
「さいですさいです」
頷くコンスタンスだった。
「はあー……エキゾチックな話だぜ……。俺の手には余るな……」
温野菜をチーズに浸して、咀嚼、嚥下すると、納得するアーデルハイト。
「まぁそんなことが可能かどうかと言われたら不可能とだと言いたいところだけど、実際に僕らは超光速を体感しているしね……」
煙草を吸いながらコテツは呟いて、そして言葉を続ける。
「ちなみに実際のところアースクの速度限界であるCの漸近線はどこら辺になっているの?」
「一・六C……秒速四十八万キロってところね」
「つまり秒速四十八万キロまで加速すれば光速と同じように時間の遅れや質量増大が起きるわけだね?」
「そゆこと」
うんうんと頷くコンスタンス。
「もう一つ疑問があるんだがなコンスタンス先生」
チーズフォンデュを嚥下しながらアーデルハイト。
「何だわさ?」
「どうやって超光速の速度を稼いでんだ? アースクにはジェットエンジンもロケットエンジンも積んでいないだろう? レーザー推進でもなさそうだし……」
「それはフィジカルオールターっていうシステムのおかげね」
「……フィジカルオールターって……アレか! あの現実を純粋数学で書き換えるシステムの……!」
「そ、それ」
「しかしあれはまだ実験段階で……光子を生むレベルにしか達してないはずだぞ……!」
「だからそれを応用できるからこそコンスタンス=ミトニックは天才と呼ばれいるんじゃない。アーデルハイトは馬鹿なの?」
「誰が馬鹿だコノヤロウ……!」
「落ち着いてハイト。人工知能と喧嘩してもしょうがないよ」
紫煙を吐きながらコテツ。
「う……それは……」
我にかえるアーデルハイト。
「言っとくけど、これ秘密ね。フィジカルオールターはまだ完成してないってことになってるから。ていうかファインバーグに瞬間的に初速度を与えてるだけでまだまだフィジカルオールターを完成させたとはあたしも言い難いわさ」
口元に人差し指を当ててウィンクするコンスタンスだった。




