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電子怪盗デンドロビウム03

 コンスタンス=ミトニック。

 それは超光速を実現するパワードスーツ……アースクを創りだした天才技術者だ。

 アースク……つまるところアーマードスーパーシーは、

『C(光速)を超える』

 ことを目的としたパワードスーツだ。

 そんな化け物のような機体を自分の開発したプログラム言語を使って自分一人で設計、開発したというのだからコテツは舌を巻く。

 コテツはアーデルハイトと共に今日の夕ご飯であるチーズフォンデュを食べながらコンスタンスに問うた。

「コンスタンス先生……」

「なにさ? ていうか何で先生なんてつけるのよ?」

「自分にとって尊敬に値する人物を地球の日本では先生と呼ぶんですよ。それで先生……」

「なによ?」

「何ゆえデンドロビウムって名で電子怪盗をしてるんです?」

「さっきも言ったように人類の監視。デンドロビウムの花言葉はわがままな美女。自由気ままに生きるあたしにもってこいの二つ名だわさ。電子怪盗デンドロビウム。いかなセキュリティとてあたしの敵じゃないわ!」

「アッカーマン本社では失敗したくせに」

 ボソッと呟くアーデルハイトに、

「これからゆっくり攻略するのよ!」

 貧相の胸を張るコンスタンス。

 無論立体映像でのことだが。

「で、電子怪盗として各コロニーの国や企業にクラッキングを繰り返してるってわけだね」

「その通りよ。超光速を悪用されないためにね」

「美女って言うより美少女って方が正しい気がするけど……」

 ピンク色のツインテールの美少女にコテツ。

「やんやん! そんな褒められても……」

 コンスタンスは両手を頬にあてて恥ずかしがる。

 そんなコンスタンスの反応を無視して、

「ともあれ、少しアースクに対して質問とかしてもいいですか? コンスタンス先生……」

 そう聞くコテツ。

「あたしの許可する範囲ならいくらでもいいわよ?」

「じゃあ質問なんですが……どうやってアースクは超光速を超えられたんですか?」

「そりゃ光速を超えるスピードで加速してるからだわさ」

「いやいや」

 コテツはチーズフォンデュ用のフォークを口に運びながら、もう片方の手を左右にブンブンと振った。

「なにか疑問があるわけ?」

 首を傾げるコンスタンスに、

「いやいや……先生……」

 言葉を続けるコテツ。

「しかし……光速に近付けば近付くほど時間の流れは遅くなって質量は増大するんですよ? 《ただ速いだけの超光速》なんてどうやって実現するんです?」

 チーズフォンデュを食べながらそう問うコテツに、

「ふんす……!」

 と鼻息も荒く頷くと、

「技術云々はともかく理論だけなら簡単よ?」

 とコンスタンスは言った。

「と言うと?」

 と疑問を重ねるコテツ。

「どういうことなんだぜ?」

 アーデルハイトがさらに疑問を重ねてくる。

「ようするに次元摩擦を解消すればいいだけだから」

 あっさりなコンスタンスに、

「次元……?」

「摩擦……?」

 コテツとアーデルハイトが首を傾げる。

「そ、次元摩擦」

 ふんふんと頷くコンスタンス。

「先生、次元摩擦って何ですか?」

 そんなコテツに、

「速度を持った質量がエントロピー減少現象を起こすことよ」

「あー……」

 と呆然として、

「言っている意味がわかりませんが……」

 コテツ。

 コンスタンスは出来の悪い生徒を相手にするように、

「じゃあ逆に聞くけど、なんで超光速は不可能と言われてるの?」

 そうコテツ達に聞く。

 それに対して、コテツの妹……その模造品である人工知能のマイ=ナガソネが答える。

「光速に近付けば近づくほど質量が増大して、それにともなってそれ相応の推進力を必要とするからじゃないでしょうか?」

「そうね。では何で光速に近付くと質量が増大すると思う?」

 そう聞くコンスタンスに、

「…………」

「…………」

「…………」

 沈黙するコテツにアーデルハイトにマイ。

「つまりそれが次元摩擦っていう現象なのよ」

 コンスタンスは肩をすくめた。

 無論あくまでデータ上の立体映像に過ぎないが。

「言っている意味がよく分かりませんけど……」

 チーズフォンデュを口に含むコテツに、

「光速を超えてるのに質量が増大しないってことに理由があるのか?」

 追従するアーデルハイト。

 コンスタンスはといえば、

「その通りだわさ」

 人差し指を振るう。

 そして言葉を続ける。

「そうね。例えばトライボロジーって現象について確認しましょうか」

「トライボロジーって……摩擦のこと?」

「その通り。これが《ただ速いだけの超光速》の鍵を握るのよ」

 そんなコンスタンスに、

「はあ……」

「ほう……」

「へえ……」

 感動詞を垂れ流すコテツにアーデルハイトにマイ。

「そうだわね……。X軸とY軸を想像しなさいな」

 そんなコンスタンスに、

「はあ……」

「ほう……」

「へえ……」

 と感動詞を垂れ流すコテツにアーデルハイトにマイ。

「X軸が速度。そしてY軸が質量とするわね」

 コンスタンスは自身の立体映像をいじって、その一部を掌握して、グラフを出す。

「これがそのグラフよ」

 コンスタンスの言葉に合わせて立体映像にグラフが現れる。

 それはX軸が速度、Y軸が質量を表すグラフだった。

「これで光速の次元摩擦の影響がわかるでしょ?」

 グラフを指差すコンスタンス。

 コンスタンスの作りだしたグラフでは、X軸上のC……つまり光速が漸近線となって、速度が増せば増すほど……さらに言うなら速度が光速に近付けば近付くほど速度の代わりに指数関数的に質量が増大している。

 Cに近付くほどY軸の質量は爆発的に上昇を続けていた。

「これが光速の漸近境界。Cに近付けば近付くほど速度は質量に変わるって仕組みなわけ。わかる?」

「はあ……」

「ほう……」

「へえ……」

 と感動詞を垂れ流すコテツにアーデルハイトにマイ。

「漸近線とは、曲線に対して原点から十分遠いところで近づきつつも接することのない直線のことだわさ。これくらいは知ってるよね?」

「それは……」

「まぁ……」

「そうですけど……」

 呆然とするコテツにアーデルハイトにマイ。

「うんうん。偉いぞ頼もしいぞ。つまりこのCという光速の漸近線をずらすことが次元摩擦に対する対処なわけだわよ」

 そう言って、

「ふんす……!」

 吐息も荒く腰に手を当てるコンスタンス。

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